2024年のWECが開幕「シーズンの見どころはどこに?」

2024年シーズンのWECが開幕「何が新しくて何が注目なのか今さら聞けない注目ポイントを解説」

カタールでデビューを飾った「ランボルギーニ SC63 」。
カタールでデビューを飾った「ランボルギーニ SC63 」。
トップカテゴリーとなるハイパーカークラスに、アルピーヌ、ランボルギーニ、BMWなど、ニューカマーが続々と参戦するなど、ファンにとって待ちに待ったWEC(世界耐久選手権)。その2024年シーズンが、カタールのルサイル・インターナショナル・サーキットで開幕した。

FIA WEC

開幕前のテストが突然の延期で

原油や天然ガスの産出量は世界トップクラスを誇り、世界屈指の豊かな国のひとつとされる中東カタール。その美しいサーキットで2024年のWEC開幕戦「カタール1812km」が開催された。

夏場には連日50℃以上の日々が続くというカタール。このWEC開幕戦が開催された時点でも、日によっては30℃近くまで上昇し、木陰のない砂漠の真ん中にあるルサイル・インターナショナル・サーキットのコースサイドでは、その強い照り返しが皮膚を刺す。遮るものがないゆえ、砂漠の砂を含んだ強風は立っているのもやっとなほどだが、その蜃気楼は時に息を飲む美しさだ。

開幕戦の1週間前にはプロローグと称される2日間のテストが予定されていた。しかし、あろうことか海上輸送のコンテナの到着が大遅延し、何度もスケジュールが変更されるという異例の事態となった。予定していた2月24~25日のプロローグは延期され、スケジュールが変更となったため、かなりの過密スケジュールで開幕戦が開催される事態となった。

1990年代のグループC以来の華やかさ

去年までのハイパーカー、LMP2、LMGTEの3クラス制からハイパーカーとGT3マシンとの2クラス制となり、ガラリと雰囲気も変わったWECだが、ハイパーカークラスはアルピーヌ、ランボルギーニ、BMW、イソッタ・フラスキーニが加わり、より華やかに、またプロフェッショナルな雰囲気へと変貌した。こんな光景は恐らく1990年代のグループC以来なのではないだろうか。

それに伴い、ドライバーのレベルもぐっと上がって、特にヨーロッパのトップドライバー達の競演となる。その一方で、ポルシェのジョタにはチャンピオン経験のあるジェンソン・バトンや、フェラーリには元BMWザウバーのロベルト・クビサなどの元F1ドライバーも若手ドライバーに交じり、チャレンジを続ける。その姿勢は多くのファンの心を動かした。

LMP1時代からル・マン24時間で5連勝を遂げていたトヨタ。その強豪に対し、2023年にはル・マン24時間100周年記念大会という華々しい年に、50年ぶりに復活したフェラーリは、トヨタと死闘を繰り広げ、499Pのデビューイヤーにしてル・マン総合優勝を勝ち取り、あらたな扉を開いた事は記憶に新しい。

プジョーの悲劇

それに加え、今季からは一気にライバルが増えたハイパーカークラス。今季から加わったBMW、ランボルギーニ、イソッタ・フラスキーニ、アルピーヌはまだマシンが熟すまでに時間が必要だが、昨シーズンにこつこつとデータを収集し、改善に努めたポルシェとプジョーは、飛躍的にマシンが安定し、2024年の開幕戦では、着実な走りを見せて頭角を現した。

ポルシェのハイパーカー「963」は堂々のポールポジションから開幕戦のスタートを決め、レース序盤から終盤まで1812㎞耐久レースをプジョー「9X8」とのトップ争いを繰り広げたが、なんという事だろうか、プジョー 9X8の93号車が、ゴールまで残り2ラップというところで突然マシンがストップ。ガス欠が原因でリタイアとなってしまう。10時間もの間を戦い、無念としか言いようのない辛い結末の開幕だった。

一方で、ポルシェ ペンスキーの963の6号車には、日本のスーパーGTやスーパーフォーミュラで長年活躍したアンドレ・ロッテラー、ケヴィン・エストレ、そしてラウレンス・ファントールの3名がタッグを組んで、勝利への1812kmのステアリングをつないだ。ポルシェ ペンスキーはデイトナ24時間レースに続き、幸先のよい2024年シーズンをスタートした。

やはり激戦区のLMGT3クラス

LMGT3クラス(FIA GT3車両)には「シボレー コルベット」「フォード マスタング」「アストンマーティン ヴァンテージ」が新車両で、「マクラーレン 720 GT3」がEvo2にアップデートした車両で参戦した。しかし予定ではプロローグの数日前にコンテナが到着し、余裕を持って車両の整備が出来るハズだったのだが、実際には走行開始となっても作業が続き、長時間ピットの中に留まっていたのが実状だ。

MotoGPのレジェンドライダー、ヴァレンティーノ・ロッシは引退後に4輪レースへスイッチし、今季は「BMW M4 GT3」の46号車を駆って、自身の夢のひとつであったWECル・マン24時間への参戦を果たす。ハイパーカーとの速度差に驚くと共に「常に自分のラインをキープし、いかに抜かれ上手になるかという事も、このWECやル・マンの耐久戦でゴールまで“生き残る”術だ」と語るように、プロローグでは速度差に慣れないジェントルマンドライバーらが、後方やサイドから迫るハイパーカーに驚いて大きくコースアウトする場面が見受けられた。

ニュルブルクリンク近郊にファクトリーを置き、ニュル24時間レースでの華々しい活躍が有名であり、世界屈指のトップGTチームのひとつマンタイレーシングが今季は2台の「ポルシェ 911 GT3 R」でLMGT3クラスにシリーズ参戦。強豪フェラーリやアストンマーティンらとのバトルを繰り広げ、ハイパーカークラスと同様に見事初戦を白星で飾り、ポルシェにとってはダブルクラス優勝を勝ち取った開幕戦だった。

次はイタリアのイモラで4月19~21日にWEC第2戦が開催されるのだが、そこではプジョーは初めてリヤウィングを装着したマシンを披露する。いまからその全貌が気になるところだ。

キーワードで検索する

著者プロフィール

池ノ内 みどり 近影

池ノ内 みどり

ミュンヘン大学在学中にアルバイトをしていたドイツの広告代理店での仕事がきっかけで、モータースポーツ…