【フォーミュラE】ジャガーTCSレーシングのジェームズ・バークレイ代表に聞く

ジャガーTCSレーシング代表インタビュー「フォーミュラ Eで重要なのはハードとソフトとチームワーク」

昨シーズンからの好調を維持し、ジャガーレーシングはチームおよびドライバー選手権ともにランキングトップで来日した。
昨シーズンからの好調を維持し、ジャガーレーシングはチームおよびドライバー選手権ともにランキングトップで来日した。
“電気自動車のF1”とも呼べる「フォーミュラE(FE)」が日本に初上陸。東京ビッグサイト周辺の一般道を一部閉鎖したいわゆる「ストリートサーキット」で今シーズンの第5戦が行われた。ドライバーおよびチーム・チャンピオンシップ2部門のトップに立つなど、好調さが目立つのはジャガーTCSレーシング。そこで、チーム代表のジェームズ・バークレイ氏に速さと強さの秘訣について聞いた。

JAGUAR TCS RACING

すべてを自社開発する強み

すべてを自社開発しているのが強みの1つだと語るジェームズ・バークレイ代表。
すべてを自社開発しているのが強みのひとつだと語るジャガーレーシングのジェームズ・バークレイ代表。

ジャガーがFEで強いのはなぜですか?

ジェームズ・バークレイ代表(以下JB)):多くの要素があります。まず重要なのは、マシンの性能ですね。昨シーズンからのGen3(第3世代)の「ジャガー I-Type 6」は、エネルギー効率やソフトウェアの面で最も成功したクルマだと言えます。それから、チームワークも同じように大切な要素です。チーム内はもちろんですが、(サテライトチームのエンビジョンレーシングと)2チームで協力体制を築くこともレースで良い結果を残すためには必要です。

FEのマシンは基本的にワンメイクですが、パワートレインは独自開発が許されていますね。マシンの性能面では、ジャガーのパワートレイン性能の高さが目立つ印象を受けます。他との違いは何でしょうか?

JBパワートレインの設計・開発・製造まで、すべて自社で行っているのがユニークだと思います。サプライヤーと共同開発を行うマニュファクチャラー(=ワークスチーム)もいると思います。ジャガーも一部でパートナーと協業していますが、設計はすべて私たちが主導し開発も自社で行っています。パワートレインのハードウェアすべてを理解し、システム全体を包括的に把握している強みがあると思います。

特に昨シーズンからのジャガーとエンビジョンの強さは印象的でした。

JBポルシェやニッサン、スレランテス(DS)などライバルも非常にレベルが高いので、僅差の勝負です。

ハードウェアだけでなくソフトウェアも含めた効率化がカギ

ドライバーが操作しやすい特性づくりにもソフトウェアは大きな役割を果たしているそうだ。
ドライバーが操作しやすい特性づくりにもソフトウェアは大きな役割を果たしているそうだ。

システム全体に関する包括的な知識が強さの秘訣だということですが、もう少し詳しく教えていただけますか?

JB:FEでは、主に2つの要素がパフォーマンスを左右します。ひとつは効率です。つまり、少ないエネルギーでどこまで行けるかということです。もうひとつは、温度管理です。(FEは約)45分のレースですが、ICE(内燃機関)を搭載したマシンの場合、何リッターくらいの燃料を使うと思いますか?恐らく30L、クルマによっては50L必要な場合もあると思います。一方、FEでは燃料に換算すると5L未満でフルディスタンスを走ります。

エネルギー効率の高さが際立っていますね!

JBこうした高い効率を生み出すカギは、モーター、インバーター、ギヤボックス(から構成されるパワートレイン)の総合的な設計とソフトウェアです。ハードウェアはベストな素材を使ってベストな設計を行い、バッテリーからタイヤまでのエネルギーロスを最小限にすることが肝です。

ソフトウェアに関してはいかがですか?

JB効率を最大限に引き出すために、パワートレインマネージメントを最適化するようにソフトウェアを開発します。ソフトウェアは同時に、ドライビングの最適化も行います。

ドライバーの操作をサポートするということですか?

JBFEでは、トラクションコントロールやABSなどといった機能を使用することが禁止されています。(最高出力が350kWと)非常にパワーのあるクルマをドライビングしやすいように最適化することも求められます。ソフトウェアの設定をファインチューンするために、シミュレーションにもかなりの工数をかけて開発を行います。

FEではソフトウェアの役割も大きいのですね。

JB例えば、F1で空力が非常に重要なのと同じレベルで、FEではソフトウェアが重要だと言えると思います。

パートナーシップの重要性

チームワークとコミュニケーションの大切さが強調されたのは印象的だった。
チームワークとコミュニケーションの大切さが強調されたのは印象的だった。

ハードとソフト、それからチームワークが大切だということですね。

JB:そういったすべてを含めて、コミュニケーションが成功のカギを握ると考えています。私は、“カルチャー”を非常に大切にしています。パートナー(企業)も含め、それぞれの文化を理解した上で正しくコミュニケーションを図らないと、ベストパフォーマンスを引き出すことはできません。コミュニケーションがチームの基礎だと思っています。

FEという最先端のモータースポーツに関わっておられるバークレイさんから、「大切なのは文化とコミュニケーション」という話をうかがうのは印象的でした。興味深いお話をありがとうございました。

JB:こちらこそ、ありがとうございました。

クルマ、戦略、ドライバーおよびチーム全体とパートナーとの協力関係すべてが重要だというバークレイ代表のスタンスが非常に強く印象に残った。

決勝レースでのジャガー勢は、ミッチ・エバンスがレース中の接触などの影響もあって15位フィニッシュ。予選時の技術規定違反によるペナルティで19番グリッドスタートとなったニック・キャシディは、8位までポジションを上げてゴールした。珍しく苦戦を強いられたジャガーTCSレーシングだが、チームランキングでは2位のポルシェに17ポイント差をつけてトップを堅守。ドライバーズ選手権でもキャシディが2ポイント差の2位につけている。ハード、ソフトとコミュニケーションの総合力を重視するジャガー勢の今後の戦い方に注目したい。

2023年の第11戦ジャカルタE-Prixでの勝利に続き、ギュンターがマセラティで2勝目を獲得。ドライバーズランキングでは5番手に浮上した。

東京で初開催フォーミュラE「東京E-Prix」でマセラティのマキシミリアン・ギュンターが劇的な勝利【動画】

マセラティ・MSG・レーシングのマキシミリアン・ギュンターが、2024年シーズンのFIA フォーミュラE 世界選手権第5戦「東京E-Prix」において優勝を飾った。東京E-Prixは日本初開催のフォーミュラEイベントであり、史上初めて東京・有明の公道を使用している。

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