「メルセデス・マイバッハ GLS 600」と「ベントレー・ベンテイガEWB」を後席試乗で比較

3000万円超SUVの「メルセデス・マイバッハ GLS 600」と「ベントレー・ベンテイガ」を後席重視で比較

メルセデスのGLSがマイナーチェンジ、同時にマイバッハGLSにも小改良が施された。ご存じの通り、マイバッハGLSといえばオーナーが後席に座るショーファーカーとしての側面も強い。そこでライバルと呼べるベントレー・ベンテイガEWBを連れ出し、再検証を試みた。
新型メルセデス・マイバッハGLSとベントレー・ベンテイガEWB、後席に乗るならどっち?
「メルセデスGLS」がマイナーチェンジ、同時に「マイバッハGLS」にも小改良が施された。ご存じの通り、マイバッハGLSといえばオーナーが後席に座るショーファーカーとしての側面も強い。そこでライバルと呼べる「ベントレー・ベンテイガEWB」を連れ出し、再検証を試みた。(GENROQ 2024年6月号より転載・再構成)

Mercedes-Maybach GLS 600
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Bentley Bentayga EWB

デザインホテルとクラシックホテル

走行モードは「コンフォート」が標準、ほか「スポーツ」「マイバッハ」「カーブ」の4つが用意される。それぞれの違いは非常に明確だ。
走行モードは「コンフォート」が標準、ほか「スポーツ」「マイバッハ」「カーブ」の4つが用意される。それぞれの違いは非常に明確だ。

居心地の良さは人それぞれだ。

例えば都会の一等地にあり、食、音楽、アート、ネット環境など、あらゆるエンタテイメントを楽しめる最新の設備の整ったデザイナーズ・ホテルが好きという人もいれば、一切の情報や、蛍光灯、LEDの明るい照明も遮断したカントリーサイドで、ランプや電球の仄かな灯りと共に、ソファーに身を委ねて過ごすクラシックなホテルを好む人もいるだろう。

それはクルマも同じ。「メルセデス・マイバッハGLS600 4マティック」を前者とするならば、「ベントレー・ベンテイガEWBアズール」は後者といったところだろうか。

ハイエンド・ラグジュアリーSUVとしては後発でありながら、メルセデス・ベンツのラグジュアリー・ブランドであるマイバッハ初のSUVとして、メルセデス・マイバッハGLS600がデビューしたのは2021年のこと。2023年12月には他のGLSシリーズとともにマイナーチェンジが行われ、エクステリアではリヤコンビネーション・ランプ内側のデザインが変更されたほか、インテリアでは他のモデル同様、リムに静電容量センサーを備えたステアリングが採用された。

また走行モードにDSR(ダウンヒル・スピード・レギュレーション)も備えたオフロード・モードを追加したほか、オフロード走行時にフロント下方の状況を仮想的に映像化するトランスペアレントボンネット、コクピットのディスプレイにクルマの傾きや路面の勾配などを表示するオフロードスクリーン、そして現実の景色をナビ上に映し出すMBUX ARナビゲーションを新たに装備している。

マイバッハGLSには後席最優先の装備が満載

パワートレインは557PSを発生する4.0リッターV8ツインターボに、250Nmのトルクで発進もサポートする48VシステムのISGを組み合わせたマイルドハイブリッド。様々な装備や豪華な内装を組み込んだために車重がAMG GLS63より140kgも重い2810kgということもあり、乗る前は多くを期待していなかったのだが、その出足は大きさも重さも感じさせないくらい軽やか。加えて9Gトロニックの所作が素晴らしく、どんな速度域、シチュエーションでもショックやタイムラグを感じることなく、スムーズにスピードを乗せていく。

また4輪それぞれに48Vのアクチュエーターを備え、ステレオカメラでモニターした路面状況に応じてダンパーの減衰力を予め最適化するE-アクティブ・ボディ・コントロールを備えたエアサスペンションは、常にフラットな姿勢を保ちつつも滑らかで快適。さらにリヤのみをコンフォートにして運転席は操縦性を重視したセットアップにする「マイバッハ・モード」が用意されているのは、マイバッハGLS600の大きなアドバンテージであり、実際にその効果は大きいと思う。

そんなマイバッハGLS600のハイライトはやはりリヤシートだ。取材車はクーラーボックスや本革の収納式テーブル、シャンパングラス・ホルダーなどを内包したセンターコンソールを持つ4シーターのファーストクラスパッケージ装着車であったが、大きくリクライニングし、オットマンも備えた快適なシート、12.3インチのディスプレイや、取り外し可能なMBUXリヤタブレットで操作、提供される様々なエンタテイメントや快適装備、さらに素晴らしい音響設備を活かす静粛性の高さなど、求めうるすべてのものが揃っていた。

印象が変わったベンテイガEWB

後輪操舵機能を有するベンテイガEWBは、その巨体を感じさせないハンドリングも併せ持つ。そんなあたりがベントレーらしい。
後輪操舵機能を有するベンテイガEWBは、その巨体を感じさせないハンドリングも併せ持つ。そんなあたりがベントレーらしい。

一方のベントレー・ベンテイガEWBアズールは、2022年に登場したベンテイガ・ファミリーのフラッグシップであるとともに、彼らが提唱する新しいラグジュアリー・モビリティのひとつでもある。

一見、過去に本誌で紹介した個体と同じに見えるが、ローズ・ゴールドに彩られたこのベンテイガEWBは走行500kmに満たないブランニューカー。しかも乗ってみると、その印象が違うのに気がついた。6.0リッターW12はすでにラインナップから落ち、現在はV8モデルのみとなるベンテイガ。4.0リッターV8ツインターボのスペックは550PS/770Nm。

目に見えぬ進化

具体的にいうと、これまではデフォルトの「ベントレー・モード」と「コンフォート・モード」がどちらも柔らか目な足まわりのセットアップでかなり似ていたのだが、この個体ではベントレー・モードが少し硬めなセッティングに変わったように感じられた。その辺りの改良に関するアナウンスはないものの、これなら街乗りや客人を乗せる時はコンフォート・モード、それ以外の時はベントレー・モード、そして少し気合いを入れて走る時はスポーツ・モードと、棲み分けが鮮明になったのは歓迎すべき進化だと思う。

また550PSを発生するピュア内燃機の4.0リッターV8ツインターボと8速ATの組み合わせは、パワー、トルク感、スムーズさ、速さ、扱いやすさともに必要にして十分以上。

もちろんそのハイライトは、22通りの調整が可能で、最大40度までリクライングできるシートを備えるベントレー・エアラインシート・スペシフィケーションを備えたリヤの居住空間なのだが、マイバッハGLS600が移動時間を飽きさせないよう、明るく、すべての欲求に応える至れり尽くせりの演出をしているのに対し、ベンテイガEWBはアンバーな間接照明と、手触りのいい上質なレザー、そして防振と防音が行き届いた環境で、健やかな眠りに誘うような、落ち着いた空間に仕立てられている。

ショーファー・ドリブンカーもサルーンからSUVの時代へ

メルセデスのGLSがマイナーチェンジ、同時にマイバッハGLSにも小改良が施された。ご存じの通り、マイバッハGLSといえばオーナーが後席に座るショーファーカーとしての側面も強い。そこでライバルと呼べるベントレー・ベンテイガEWBを連れ出し、再検証を試みた。
後席居住空間の違いは、それぞれの移動体験の違いにも重なる。

まさに対極的なアプローチだが、どちらに居心地の良さを感じるかはオーナーの好み次第だ。そういう意味でも両車を選ぶのは、ビジネスジェットで飛ぶのか、豪華クルーザーでクルーズするのかを選択するくらい、大きな違いがある。

かつてベントレーはベンテイガEWBのローンチで「高級SUVの台頭と高級サルーンの凋落」というコピーを披露したが、後輪ステアを装備し都会での使い勝手にも長けた両車は、大型サルーンからショーファー・ドリブンカーの座を奪い取るゲームチェンジャーになりつつある。

REPORT/藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)
PHOTO/神村 聖(Satoshi KAMIMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2024年 6月号

SPECIFICATIONS

メルセデス・マイバッハ GLS 600 4マティック

ボディサイズ:全長5210 全幅2030 全高1840mm
ホイールベース:3135mm
車両重量:2810kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:410kW(557PS)/6000-6500rpm
最大トルク:770Nm(78.6kgm)/2500-4500rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前285/40R23 後325/35R23
最高速度:250km/h
0-100km/h加速:4.9秒
車両本体価格:3220万円

ベントレー・ベンテイガ EWBアズール

ボディサイズ:全長5305 全幅1998 全高1739mm
ホイールベース:3175mm
車両重量:2514kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3996cc
最高出力:404kW(550PS)/6000rpm
最大トルク:770Nm(78.6kgm)/2000-4500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後285/40ZR22
最高速度:290km/h
0-100km/h加速:4.6秒
車両本体価格:3231.8万円

【問い合わせ】
メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
https://www.mercedes-benz.co.jp/

ベントレーコール
TEL 0120-97-7797
https://www.bentleymotors.jp/

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藤原よしお

クルマに関しては、ヒストリックカー、海外プレミアム・ブランド、そしてモータースポーツ(特に戦後から1…