新型「アストンマーティン DB12 ヴォランテ」に試乗

最新アストンマーティンの「DB12 ヴォランテ」に試乗して痛感した「英国車の流儀とは?」

アストンマーティンの中核を担うDBシリーズ。その最新作であるDB12がついに日本に上陸した。さらに流麗になったボディとエレガントなインテリア、フロントにはV8ツインターボを収める。その佇まいはまさに英国車ならではの世界だと言えるだろう。
アストンマーティンの中核を担うDBシリーズ。その最新作であるDB12がついに日本に上陸した。
アストンマーティンの中核を担うDBシリーズ。その最新作であるDB12がついに日本に上陸した。さらに流麗になったボディとエレガントなインテリア、フロントにはV8ツインターボを収める。その佇まいはまさに英国車ならではの世界だと言えるだろう。(GENROQ 2024年7月号より転載・再構成)

Aston Martin DB12 Volante

アストンマーティンの流儀は守られている

アストンマーティンの中核を担うDBシリーズ。その最新作であるDB12がついに日本に上陸した。さらに流麗になったボディとエレガントなインテリア、フロントにはV8ツインターボを収める。その佇まいはまさに英国車ならではの世界だと言えるだろう。
流れるようなフォルムが印象的。オープンボディのヴォランテに加えてクーペボディも用意される

近年はカスタマーレーシングのみならずハイパーカーの販売やF1の参戦など、活動が多岐に及ぶアストンマーティン。しかしそのビジネスにおいて常に中核を成してきたのはスポーツモデルの開発・販売だ。そして、その商品群で常に中軸的存在だったのがDBシリーズである。110年を超える歴の中、幾度も訪れた経営危機とそれを救ってきた実業家たちの中でも、とりわけ中興の祖ともいえる故デビッド・ブラウン卿のイニシャルがその由来であることは周知のことだろう。

そんなわけで新しいDB12も、まずはアストンマーティンの流儀をしっかり守り続けることが重要だ。オーセンティックなファストバックのFRプロポーションと、マッシブというよりスリークなフォルムとの融合。高い質感のトリムとオーガニックなオーナメントを携えた2+2のキャビン。小手先や口先ではない理由あるディテールなど、それらを総合すると、自ずと映画のあの人とキャラクターが重なってみえる。アストンマーティンのど真ん中に立つ上で大事なのは、そういう絶妙な押し引きのさじ加減だと思う。

DB12は一見するに、世に現れたばかりの新型車という異質さに乏しく見えるかもしれない。DB11より56%も開口が大型化したというグリルも押し出しも強く感じられるが、間にDBSスーパーレッジェーラを挟んだことで連続性を醸しつつ、それよりは控えめという、うまいところに滑り込んでいる感がある。イギリス人の大好きなアンダーステートメント性は散りばめられた今日的なモダンさをもってしても、巧く保たれているという印象だ。

内装は水平基調のすっきりとしたデザインになった一方で、ダッシュボードのレザーの貼り込みや、ドアトリムのデザインやダッシュボードと繋がるオーナメントの仕立てなど、明らかに手が込んだものとなっている。インフォテインメントはタッチパネルを基調とした独自の仕様へと刷新されたほか、操作系は一部でダイムラーとの共用部品を引き続き用いながらも意匠でオリジナリティを追求している。質感の著しい向上を象徴するのはセンターコンソールに据えられた5つのロータリーファンクションの回転の触感や精度感で、そういうスタティックな部分についても彼らが繊細に気配りしてきたことははっきりと伝わってきた。

リヤアクスルをEデフ化

DB12が搭載するエンジンはメルセデスAMGから供給を受けるM177型4.0リッターV8ツインターボだ。ミッションはZFの8HPをベースにオリジナルのモディファイを受けている。共にDB11から用いてきた、勝手知ったるメカニズムということになるのだろう。そういえば可変ダンピングシステムのはしりだったビルシュタインのダンプトロニックも、アストンマーティンは初期から採用している。使い込んだ技術が滋味の中にまろやかさを生むことを、彼らはよく知っているのだと思う。

一方でDB12には新たに加えられたメカニズムもある。それはリヤアクスルのEデフ化だ。ドライブモード設定と連動し、旋回ではロック側に、スタビリティを要する時にはオープン側にとリヤアクスルの差動を加える。ドライのスポーツ走行だけではなく、ウエットでビッグパワーのFRを走らせる上でもこの制御の幅広さが安心感を高めるだろう。

取材車はオープンモデルのヴォランテだが、ともあれ目が奪われるのはその美しさだ。畳まれる際の形状がKの字にみえることから「Kフォールド」と呼ばれる幌屋根は遮音性を重視し8層もの構造からなるというが、畳まれた状態でも260mmという薄さを確保しており、オープン時の荷室容量確保だけでなく、トノカバー界隈のすらりとしたシルエットづくりに貢献している。

もちろんクローズ時のデザインも練り尽くされており、佇まいには8層の着膨れ感は微塵もない。いきなり結論めいたことを言えば、この完膚なき美こそが代々DBシリーズの核心なのだと思う。地味色をしてこの華か……と手練れの取材陣も終いには呆れるほかなかったわけだが、その地肌をよくよくみれば、塗装のクオリティも向上したように窺えた。

車台はアルミ押し出し材とコンポジットパネルを用いたお馴染みの仕様で、クーペではDB11比で7%の捻れ剛性向上を果たしているという。ヴォランテでも同じような感じだろうかと走り出してみれば、DB11とは別物のようなフットワークのしなやかさに驚かされた。

でもこれはボディ剛性というよりも、足まわりの動きの滑らかさがもたらすところが大きいようにみてとれる。Eデフの採用と共に電子アーキテクチャーを更新したことでダンピングの制御帯域は500%も広げられたというが、快適性重視のGTモードではマンホールを踏み越えたくらいの微小入力でも減衰が綺麗に立ち上がり、21インチと凶暴なサイズのタイヤがしっとりと路面にコンタクトしていることが伝わってくる。銘柄がオリジナルチューンのミシュランであることも効いているだろうが、この辺りはアストンの実験部隊の腕の見せどころかもしれない。

その本懐はやはりGT

アストンマーティンの中核を担うDBシリーズ。その最新作であるDB12がついに日本に上陸した。さらに流麗になったボディとエレガントなインテリア、フロントにはV8ツインターボを収める。その佇まいはまさに英国車ならではの世界だと言えるだろう。
低回転から高回転まで全域でトルキーなV8ツインターボ。Eデフによるトラクションも素晴らしい。

しずしずと乗る限り、見事なまでのグランドツアラーであることはパワー&ドライブトレイン側の躾けからもみてとれる。DB11に対してファイナルを若干低めに振り、中間域の応答性を高めたというギヤリングと、回転の滑らかさを増し音質も整えられたV8ユニットの組み合わせでは、8速でも1000rpmを超えた辺りからしっかりレスポンスする。このフレキシビリティがもたらすゆとりは12気筒エンジンの特徴とも相通じるところがある……と知れば、パワーユニットをV8に託した意味も理解が出来なくはない。

680PS/800NmのアウトプットはDB12を一気に異世界に放つことも出来る。ドライブモードをスポーツの側にセットすれば、長い鼻が踏み込むほどにインへと吸い込まれていく軽快なハンドリングが顔を見せた。タイトコーナーでも体躯を持て余さず自信をもって臨める、そういうアジリティはしっかり備えている。でもそれはツーリングの途中で差し掛かった山道での戯れ、DB12においては余技のようなものだろう。その本懐はやはりGTの側にこそある。大陸を走ることへの憧れをそのキーワードに託した、まさに英国車の系譜というわけだ。

REPORT/渡辺敏史(Toshifumi WATANABE)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
MAGAZINE/GENROQ 2024年7月号

SPECIFICATIONS

アストンマーティンDB12ヴォランテ


ボディサイズ:全長4725 全幅1980 全高1295mm
ホイールベース:2805mm
車両重量:1898kg
エンジン:V8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4.0L
最高出力:449kW(680PS)/6000rpm
最大トルク:800Nm(58.1kgm)/2750-6000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35ZR21 後325/30ZR21
0-100km/h加速:3.7秒
最高速度:325km/h
車両本体価格:3290万円

【問い合わせ】
アストンマーティン・ジャパン・リミテッド
TEL 03-5797-7281
https://www.astonmartin.com/ja

アストンマーティンらしくハイパフォーマンスでありながら、エレガントで美しいスタイリングとサヴィルロウと呼べるようなインテリアが魅力だ。

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