「マクラーレン アルトゥーラ スパイダー」に南仏で試乗

「マクラーレン アルトゥーラ スパイダー」に試乗「オープン化だけではない進化の中身」

モーターだけで約30kmの走行が可能。トランスミッションの変速スピードは25%向上している。
モーターだけで約30kmの走行が可能。トランスミッションの変速スピードは25%向上している。
マクラーレンのハイブリッドスーパースポーツである「アルトゥーラ」にスパイダーが加わった。それと同時にサスペンションやトランスミッションなどにもリファインが施されている。第2ステージに突入したアルトゥーラの感触を、スパイダーに乗って確かめる。

McLaren Artura Spider

世界初のカタログモデルのスーパースポーツPHV

スパイダーはリヤがトンネルバックスタイルとなり、軽快感が増している。Cピラーの一部は透明素材なので後方視界に優れる。

ハイブリッド化は、もはやスーパースポーツカーにも避けて通れない流れとなっているが、その先鞭がマクラーレンである、と知れば意外だと感じる人も多いかもしれない。何しろF1を頂点とするモータースポーツマシンをそのバックボーンとするマクラーレンの市販車は、とにかく軽量であることを第一義としている。重量が嵩むバッテリーやモーターを必要とするハイブリッド化はそれと相反するモノであるからだ。

しかしマクラーレンは今から約10年も前に「P1」という台数限定のハイブリッドスーパースポーツカーを発表。外部充電も可能な本格的ハイブリッドマシン(PHV)として、この世界の魁となった。思えば、マクラーレンは軽量という社是に反するからとハイブリッドを避けるのではなく、むしろ早期から研究を進めることで、自分達のポリシーに沿ったシステムとして作り上げていくことを目指したのではないか。

それが結実したのが「アルトゥーラ」だ。P1のような少量生産車ではなく、通常のカタログモデルのPHVとして発表された世界初のスーパースポーツカーである。そこには、ハイブリッド化しながらも重量増を極力抑えるためのさまざまなテクノロジーが導入された。ハイブリッドを前提とした新たなカーボンコンポジットを採用し、エンジンは従来のV8から新開発のV6を搭載。これは120度のバンク角とすることで排気干渉を避けて重心を低下、さらにバンク内に2基のターボチャージャーを搭載するホットV方式としている。

クーペに対する重量増加はわずか62kg

このエンジンは従来のV8よりも50kgの軽量化を達成しており、ハイブリッド化による重量増を相殺している。結果としてアルトゥーラは7.4kWhのバッテリーを乗員の後方に搭載して約30kmのEV走行を実現しながら1498kgという1.5tを切る車両重量を達成した。これはそれまでの「570S」より40kg重くなっただけ。PHV化しながらこれだけの重量増に留めたのは、まさに長年に渡ってハイブリッドの研究を進めてきた成果だと言えるだろう。

そしてアルトゥーラの登場から約3年を経て、今路上を走り始めるのが「アルトゥーラ スパイダー」だ。一般的に言ってクルマをオープン化すると開閉機構やボディ補強が必要となり、重量が大幅に増加する。これまたマクラーレンの哲学とは本来相容れないものなのだが、マクラーレンのカーボンシャシーは当初からオープン化を前提として設計されており、屋根を切り取ることに伴うボディ補強は一切必要ないのだという。もちろん、電動による開閉機構は必要なので重量は増えるが、ルーフやそれを収納するカバー部分をカーボン製とすることなどで、クーペに対する重量増加はわずか62kgとなっている。

オープンのシステムは従来のマクラーレンのスパイダーとほぼ同様で、エンジン上部のカバーが後端を軸に大きく開き、リンクに支えられたルーフ部分が収納されたらそのままカバーが閉じる、という至ってシンプルな動き。所要時間はたったの11秒で、しかも50km/h以下であれば操作可能なので、気が向いたらいつでもオープン&クローズができる。そのスタイルはオープン時でもクローズド時でも非常に美しく、トンネルバック風となるリヤスタイルはむしろクーペよりもカッコいいかも、と思えるほどだ。

80km/hまでなら髪の乱れさえほとんど気にならない

スパイダーはリヤがトンネルバックスタイルとなり、軽快感が増している。Cピラーの一部は透明素材なので後方視界に優れる。
スパイダーはリヤがトンネルバックスタイルとなり、軽快感が増している。Cピラーの一部は透明素材なので後方視界に優れる。

ルーフの開閉や単独で昇降できるリヤウインドウのスイッチ類はフロントウインドウ上部にある。スタートスイッチを押してもデフォルトのコンフォートモードではシステムが起動するだけでエンジンは始動しない。頭上のスイッチを押してルーフを開けると、室内が一気に明るくなった。8速DCTをDモードに入れアクセルを踏むと、アルトゥーラ スパイダーはモーターのみでスルスルと走り出す。

試乗場所である南フランスの一般道は決して舗装状態がいいとは言えないが、そんな中でアルトゥーラ・スパイダーの足さばきのしなやかさは驚くほどだ。不整のギャップを軽やかにいなし、大きなうねりにも張り付くように追従しボディをフラットに保つ。エンジンが始動していないこともあり、その快適さは高級サルーン並み、と言っても大げさではない。

高速道路に入って速度を上げても、エンジンは一向に始動しない。かといって速さやアクセルレスポンスに不満はないのだが、バッテリーを温存したいこともあってスポーツモードを選択すると、フォン!という心地よいサウンドと共に背後のV6ツインターボが始動した。実は高速道路に入る前に屋根を閉めようと思っていたのだが、うっかりそのまま入ってしまった。室内が乱気流状態になることを覚悟したのだが、思いのほか風の巻き込みは少ない。80km/hくらいまでであれば髪の乱れさえほとんど気にしなくていいほどだ。

リファインによって大きく上がった走りの洗練度

モーターだけで約30kmの走行が可能。トランスミッションの変速スピードは25%向上している。
モーターだけで約30kmの走行が可能。トランスミッションの変速スピードは25%向上している。

高速道路を降りて、適度なワインディングロードを走る。このようなステージでのアルトゥーラ スパイダーはまさに水を得た魚だ。ステアリングの感触は実にリニアで、足まわりはヒタヒタと路面を捉え続ける。エンジンはアクセル1mmの動きから即座に反応するレスポンスの良さを見せ、ブレーキは自分の感覚と直結しているかのようなコントロール性を発揮する。すべての操作系の純度が高く、それらが見事に一体化して密度の濃い動きとなって表現されている。その結果、700PSもあるスーパースポーツカーなのに、まるでライトウエイトスポーツカーのようなクルマとの一体感を得られるのだ。今までよりも一層甲高くなったエキゾーストサウンドを浴びながらワインディングを走るのは、この上ない快感だ。

オープンボディであるのに、ボディの捩れなどはまったく感じられないのはこれまでのマクラーレンのスパイダーと同様で、屋根を閉じて運転すると今度はオープンであることを忘れてしまうほどの包まれ感が得られる。車両重量が62kg増えることも気になるほどのストイックな人でなければ、スパイダーを選ぶべきだろう。それによって得られる快感はクーペボディを大きく上回るのだから。

スパイダーの登場をきっかけに行われた今回の試乗だが、印象的だったのはむしろサスペンションをはじめとする各部のリファインによる走りの洗練度が大きく上がったことだった。スーパースポーツカーファンの中にはハイブリッドを好まない人も多いが、心配することはない。時代が変わればクルマも変わるが、走る楽しさは技術と努力によって得ることができるのだ。このクルマに乗れば、それがわかる。

SPECIFICATIONS

マクラーレン・アルトゥーラ・スパイダー

ボディサイズ:全長4539×全幅1976×全高1193mm
ホイールベース:2640mm
車両重量:1560kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2993cc
最高出力:445kW(605PS)/7500rpm
最大トルク:585Nm(59.7kgm)/2250~7000rpm
モーター最高出力:70kW(95PS)
モーター最大トルク:225Nm(22.9kgm)
トータル最高出力:515kW(700PS)
トータル最大トルク:720Nm(73.4kgm)
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤサイズ(リム幅):前235/35ZR19(9J) 後295/35ZR20(11J)
最高速度:330km/h
0→100km/h加速:3.0秒

左からマクラーレン・オートモーティブ日本代表の正本嘉宏、マクラーレン・オートモーティブ・チーフセールス&マーケティング・オフィサーのジョージ・ビッグス、APAC中国担当マネージング・ディレクターのポール・ハリス。

「マクラーレン アルトゥーラ スパイダー」が早くも日本デビュー「デリバリーは第4四半期」

マクラーレン初のハイパフォーマンスPHEV「アルトゥーラ クーペ」をベースとしたコンバーチブル「アルトゥーラ スパイダー」が日本市場に導入された。すでに発売されている「アルトゥーラ クーペ」もスパイダー登場と同時に、2025年モデルとして改良が施されたことも併せて発表された。

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著者プロフィール

永田元輔 近影

永田元輔

『GENROQ』編集長。愛車は993型ポルシェ911。