「ブガッティ トゥールビヨン」がデビュー「最高出力1800PS」

ブガッティがV16エンジン搭載のハイパーPHEV「トゥールビヨン」を発表「システム最高出力1800PS」

フランスのハイパーカーメーカー、ブガッティ・オトモビルがニューモデル「トゥールビヨン」を発表した。シロンの後継車の見どころをドイツ在住ジャーナリストが解説する。

BUGATTI TOURBILLON

115年にわたるブガッティの歴史に倣い

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フランスのハイパーカーメーカーであるブガッティ・オトモビルは、シロンの後継モデル「トゥールビヨン」を発表した。2016年のジュネーブ・モーターショー開幕前日にシロンが発表されてから8年余り。その間、自動車産業は「100年に1度の変革期」と言われる時代に突入し、スーパーカー/ハイパーカー市場も大きな影響を受けてきた。

ハイパーカーの頂点に君臨するブガッティの周辺も無風状態だったわけではない。コロナ禍の2020年9月、フォルクスワーゲン・グループはブランドの売却を検討していると発表。翌2021年7月にクロアチアのハイパーEVメーカーであるリマック・オートモビリのスポーツカー事業と統合され、ブガッティはリマック・グループとポルシェAGの合弁会社であるブガッティ・リマックの1ブランドとなっている。

リマックとの統合は「次世代ブガッティはハイパーBEV?」といった憶測を呼んだが、マテ・リマックCEOは冷静だった。次世代ブガッティをリマックのバッジエンジニアリングにするなどということは全く考えず、115年にわたるブガッティの歴史と「比較できるものはもはやブガッティではない」「美しすぎるものはない」という、エットーレ・ブガッティの言葉を指針に、過去のアイコンと同様に“Pour l’éternité(永遠に)”のために存在するモデルとして開発された。

革新的なデザインとエアロダイナミクス

その姿はヴェイロンやシロンの面影を感じさせつつも、明確に新しく、よりアグレッシブで、そしてまさに息を呑むような圧倒的な美しさを湛えている。全長4671mm、全幅2051mm(ミラー込2165mm)、全高1189mm、ホイールベース2740mmの2シータークーペであるトゥールビヨンは、往年の「タイプ35」や「タイプ57SC」にインスピレーションを受けて、馬蹄型グリルから広がるボディシェイプや、ノーズとルーフ、着座位置を極限まで低く設定した、革新的なデザインを実現。400km/h以上の超高速走行にも問題なく対応するエアロダイナミクスとサーモダイナミクスも達成した。

左右のフロントフェンダーは「フライングフェンダー」と呼ばれ、LEDヘッドライト下部から空気を取り込み、サイドエアインテークの空気流量を増大させる。これにより、ダウンフォースを高めながらボンネットフードの下にあるラジエターの冷却効率を向上させ、大きなフロントトランクも確保した。

可動式のリヤウイングは、これまで通りエアブレーキの機能を備えている。だが400km/hを超える最高速度付近では、完全にボディに格納された状態になり、むしろ中低速域においてハイダウンフォースを発生させるために使用される。これを可能にしたのが、キャビンのすぐ後方から立ち上がる大型のディフューザー。非常に高い効果を発揮するこのディフューザーは、超高速域でのハイダウンフォースを実現している。

スイスの時計職人が設計から手掛けた

インテリアも極めてスポーティかつラグジュアリーだ。天才時計技士アブラアム・ルイ・ブレゲによって200年以上前に発明された、機械式時計における3大複雑機構のひとつ、トゥールビヨンを車名に持つこのクルマのインパネは、最高級のスポーツクロノグラフを想起させるデザインとなっている。特にステアリングホイールと独立した固定式のスケルトンクラスターは、スイスの時計職人が設計から手掛け、チタンやサファイア、ルビーなど600以上のパーツが極めて精巧に組み上げられた、まさにタイムレスでこれ以上無いオーセンティックな仕上がりである。

センターコンソールには、ひとつのブロックから切削加工され、陽極酸化処理が施されたアルミニウムとボヘミアンクリスタルガラスを組み合わせた縦長のコントロールパネルが備わり、その最上部にはスマートフォンサイズの格納式タッチディスプレイを装備。このディスプレイは、車両データを表示できるほか、Apple CarPlayにも対応。バックカメラの映像を表示する際には2秒で縦に回転する。

シートは可能な限り低くフロアに固定されているため、ペダルボックスが電動で前後に160mmスライドする。結果、キャビンはとても広々。電動で開閉する跳ね上げ式のディヘドラルドアと相まって、優れた乗降性も実現した。

8.3リッターV16自然吸気エンジンに8速DCT

トゥールビヨンには、ヴェイロン以来約20年にわたり、ブガッティのすべてのモデルに採用してきた8.0リッターW型16気筒クワッドターボに代えて、なんと8.3リッターV型16気筒自然吸気エンジンを備えたプラグイン・ハイブリッド・システムが搭載されている。90度のバンク角を持つこのV16エンジンはリヤミッドに縦置きで搭載され、コスワースの協力を得てゼロから完全に新設計されている。レブリミットは9000rpmと極めて高く、最高出力が1000PS、最大トルクは900Nmと、エンジン単体でも圧倒的なスペックを実現した。

単体重量がわずか252kgと軽量なこのV16には、新世代8速DCTが組み合わされ後輪を駆動。リヤアクスルにはさらに250kW(340PS)と240Nmを発揮する電気モーターが備わる。フロントにも250kW(340PS)の電気モーターを左右に各1基備え、合わせて最大3000Nmもの強大なトルクを発生させるeアクスルを搭載。このフロントの2基のモーターは、完全なトルクベクトリングにより、究極のトラクションと俊敏性を発揮する。また計3基のモーターのみで800PS、システム合計では1800PSという、驚異的なスペックを達成している。

リチウムイオンバッテリーは、センタートンネルとキャビン後部に搭載。800Vの油冷式で、電力量はグロスで24.8kWhだ。ちなみにトゥールビヨンはEV走行も可能で、最大60kmのエレクトリックレンジを備えている。

2tを切る軽量設計

これほど複雑なパワートレインを搭載していながら、トゥールビヨンは驚くほど軽量だ。モノコックは超軽量な次世代のT800カーボン複合材で制作され、バッテリーパックも構造部品として統合。フロントフレームとリヤフレームには、低圧薄壁鋳造アルミニウムや3Dプリントされた構造ブレースの採用により、シロンから大幅な軽量化と高剛性化を実現した。鍛造アルミニウムの前後マルチリンクサスペンションには、オーガニックデザインのアームや、3Dプリントによるアルミニウム製アップライトなどの採用で、45%もの軽量化を達成している。

この他にも多岐にわたる軽量設計により、車両重量はなんと2tを切る1995kgを実現。0-100km/h加速は2.0秒、0-200km/h加速が5.0秒未満、0-300km/h加速が10.0秒未満、0-400km/h加速が25.0秒未満、そして最高速度は445km/h(通常は380km/hでリミッター作動)という、驚異的なパフォーマンスを達成している。

スペックがあまりにも浮世離れしているので、果たしてどんな走りを味わえるのか、全くイメージできないが、その走りを体験できる人は本当に幸福だ。このブガッティ初のプラグインハイブリッドのハイパーカーは、フランス・モルスハイムの工場で計250台が生産され、2026年にデリバリー開始となる予定。価格は税別380万ユーロ(約6億4600万円)となっている。

500台目の最終生産仕様「シロン ル・ウルティム」のエクステリア。

ブガッティ シロンの最終生産仕様「ル・ウルティム」を公開「8年の歴史を表現した専用カラーリング」【動画】

ブガッティは、「シロン」の最終生産仕様「シロン ル・ウルティム」を公開した。フランス・モルスハイムのアトリエにおいてハンドメイドで製造されてきたシロンは、当初の予定どおり500台のみを製造。シロン ル・ウルティムは、生産500台目の車両となる。

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著者プロフィール

竹花 寿実 近影

竹花 寿実

1997年に美術大学卒業後、自動車雑誌『driver』スタッフとして業界入り。自動車情報サイト『Hobidas Auto…