【WEC】富士6時間で見たポルシェの見事な戦いっぷり

富士6時間で「ポルシェ 963」が勝った理由と「ポルシェ 911 GT3R」がチャンピオンを獲った背景

最終コーナーに向かう「ポルシェ 963」6号車。
最終コーナーに向かう「ポルシェ 963」6号車。
富士スピードウェイで9月13〜15日に開催されたFIA世界耐久選手権(WEC)第7戦「富士6時間レース」。ハイパーカークラスで見事優勝を勝ち取った「ポルシェ 963」6号車が、ドライバーズランキングもマニュファクチャラーズランキングも同時に引き寄せたレースとなったが、その勝因やそれを成し遂げたチーム体制、さらにこぼれ話をリポートする。

Porsche 963

3つのグッドニュース

今回6位に入ったカスタマーチームのハーツチームJOTA38号車。
今回6位に入ったカスタマーチームのハーツチームJOTA38号車。

真夏のような快晴に恵まれたWEC第7戦「富士6時間耐久レース」の週末。ポルシェ陣営には3つのグッドニュースがあった。ひとつはケビン・エストーレ、アンドレ・ロッテラー、ローレンス・ヴァントールがドライブする「ポルシェ 963」6号車がシーズン2勝目を記録。ドライバーズポイントで2位の「フェラーリ 499P」50号車との差を35点に広げるとともに、前戦アメリカ・オースティンで奪われたマニュファクチャラーズ・ランキングのトップの座も奪回し、最終戦バーレーン8時間に臨むこととなったこと。

2つ目はカスタマーチームのハーツチームJOTAの12号車が5位、38号車が6位に入り、2年連続でFIA ハイパーカーチーム・ワールドカップ・チャンピオンに輝いたこと。

そして3つ目がアレックス・マリキン、ジョエル・シュトゥルム、クラウス・バハラーのドライブする「ポルシェ 911 GT3R」92号車が2位入賞を果たし、LMGT3のドライバーズ・タイトル、そしてマンタイピュアレクシングがチームタイトルを獲得したことだ。

ストラテジーで勝ち取った

優勝した6号車クルーのアンドレ・ロッテラー(左)、ケビン・エストーレ、ローレンス・ヴァントール。
優勝した6号車クルーのアンドレ・ロッテラー(左)、ケビン・エストーレ、ローレンス・ヴァントール。

とはいえ彼らに不安材料がないというわけではなかった。特に心配していたのは、富士のキモといえるストレートスピード。というのも今年のル・マン24時間でインタビューした963の各ドライバーが「ダウンフォースはあるものの、ライバルに対して直線で5km/hも遅い」と訴えていたからだ。

それに対し、LMDhディレクターのウルス・クラトルは「テクニカルな第3セクターとフラットでスムーズな路面が963に合っており、アドバンテージになっている」と答える。また6号車のエース、アンドレ・ロッテラーも「一発の速さこそないものの、レースペースには自信を持っている」と話してくれた。

その言葉の通り、6号車はスタート直後に3位にジャンプアップすると、好調なペースを維持して最初のピットストップでトップを走るキャデラックをアンダーカットに成功。その後もじわじわと後続とのギャップを築き、終始レースを支配し続けた。それに加えてVSC(バーチャルセーフティカー)のタイミングも上手く使うなど、ストラテジーが良い方向に機能したのも勝因と言えるだろう。

素早く交換できるパーツ類

そんな今回の富士6時間耐久レースで、印象に残ったのがポルシェ各チームのピットの様子だ。

実はル・マンでもポルシェ・ペンスキーのピットを見学しているのだが、富士のピットは物理的な規模こそ小さめではあるものの、設備の内容も、2台合わせて60名のスタッフが帯同するのも基本的には変わっていない。また用意されるスペアパーツも、ル・マンと同様それぞれ3台分で、ボルトオンで素早く脱着できるよう、アッセンブリー状態となっていた。2周目のクラッシュでフロントとリヤにダメージを負った5号車がラップダウンせずに戦列に復帰できたのは、まさにそのおかげだ。

しかしながら、この春に見たアストンマーティンF1チームのスタッフが2台合わせて85〜110人。ピットのストラクチャーを6セット(それも大、中、小がある)使い回していたのに比べると、1セットのストラクチャーで世界を回るポルシェ・ペンスキーの規模は思いのほかコンパクトともいえる。

非常にタイトなスケジュールの中で

チームタイトルを獲得したマンタイピュアレクシングの92号車。
チームタイトルを獲得したマンタイピュアレクシングの92号車。

一方、LMGT3に参戦するマンタイチームはB棟のピット3枠を使い、1枠を91号車、1枠をエンジニアチーム、1枠を92号車のために使用。スタッフは2台合わせて26人しかいないということからも、ポルシェ子会社のワークスチームとはいえ、いかに小所帯であるかがお分かりいただけると思う。

また案内してくれたマネージャーによると、運搬に関しても航空便は高価なため、マシンや主要なストラクチャーのみに使用。しかも前戦オースティンから2週間のインターバルしかないこともあり、スペアパーツや工具などはドイツから船便で日本に送った“セカンドセット”を使用し、アメリカ用のスペアパーツ、工具は船便で最終戦のバーレーンへと送るという、非常にタイトなスケジュール管理を強いられたそうだ。

続いて準備しているスペアパーツも説明してもらったのだが、フロントブレーキはパッドのみではなく、ローターやキャリパーなどアッセンブリーになっており、なんと30秒で交換が可能。またリヤは左右ぞれぞれ、ドライブシャフト、サスペンションアーム、ブレーキ、ハブが一体となった状態で用意されていたのだが、1セット30万ドル(約4200万円)もするのだという!

近々登場予定のマンタイセットも

マンタイは「ポルシェ 911 ターボS」のオフィシャルセーフィティカーの担当も任されている。
マンタイは「ポルシェ 911 ターボS」のオフィシャルセーフィティカーの担当も任されている。

そんなマンタイのピットで疑問だったのは、なぜ彼らが他とは離れたB棟を使っているのか?ということだったが、それには理由がある。なんと彼らはB棟奥に待機している「ポルシェ 911 ターボS」のオフィシャルセーフィティカーの担当も任されていたのだ。

「WECとフォーミュラEのセーフティカーはマンタイが担当しています。WECに使う911 ターボSは2台。レース中は1台がいつでも出動できるよう、ドライバーとコドライバーがエンジンを掛けたままの状態で待機していますが、長時間レースなのでトイレ休憩の際は、もう1台に交代します。ちなみにルーフのシグナルやサスペンションのチューニング、レースコントロールの情報を受信するアンテナやモニターの設置といったセーフティカーへの改造も我々がやっています」

ちなみにセーフティカーのホイールはマンタイが開発した新製品で、前回のオースティンでお披露目されたばかり。しかも近々同モデルがマンタイセットとしてポルシェジャパンから発売されるという。このようなPRを最後に入れ込むのも、トップチームの敏腕マネージャーの腕の見せ所……なのかもしれない。

WEC第7戦富士6時間レース決勝レースが、9月15日に開催され、ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツのポルシェ 963 6号車が勝利を飾った。

灼熱のWEC第7戦富士6時間レースで「ポルシェ 963」6号車が2勝目「ドライバーズ選手権のリード拡大」【動画】

9月15日、富士スピードウェイにおいて、FIA世界耐久選手権(WEC)第7戦「富士6時間レース」決勝が開催され、ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツの「ポルシェ 963」6号車(ケビン・エストレ/アンドレ・ロッテラー/ローレンス・ヴァントール)がシーズン2勝目を飾った。

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著者プロフィール

藤原よしお 近影

藤原よしお

クルマに関しては、ヒストリックカー、海外プレミアム・ブランド、そしてモータースポーツ(特に戦後から1…