「大きく重いがとにかく速い!」電動SUV 新型「ロータス エレトレ」に試乗

“革新性の追求もロータスらしさ” 電動ハイパーSUV「ロータス エレトレ」に日本で試乗

ロータスの新時代を拓く電動SUV、エレトレが日本の道を走り出した。ロータスのイメージといえば、軽量さが売りのライトウエイトスポーツ。しかしエレトレはその真逆ともいえるモーターで走る巨大なSUVである。果たしてそこにロータスらしさはあるのか。早速試乗に連れ出してみた。(GENROQ 2024年12月号より転載・再構成)

Lotus Eletre R

ロータス初の4ドアは人気のSUVスタイル

開発はジーリーグループのグローバルな体制の下に進められ、イギリスのエンジニアを中心に中国、ドイツ、スウェーデンのチームが協力したという。生産は中国・武漢の新工場で行われる。
開発はジーリーグループのグローバルな体制の下に進められ、イギリスのエンジニアを中心に中国、ドイツ、スウェーデンのチームが協力したという。生産は中国・武漢の新工場で行われる。

蓮の花のつぼみを模ったロータスの黄色と緑のエンブレム。つい先ごろ、いくぶんシンプルなラインで描き直されたおなじみのマークは、東洋思想や仏教に関心が高かった創業社長にして傑出したエンジニアでもあったアンソニー・コーリン・ブルース・チャプマンらしい発想と言えるだろう。

ロータス初の4ドアモデルにして、「エヴァイヤ」に続く2台目のBEVでもある「エレトレ」。昨年7月のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで初めて実車を目の当たりにした際は室内に乗り込むなど、じっくりと観察できたのだが、今日まで試乗することは叶わなかった。まさに「ようやく!」という感じであり感慨深いものがある。

用意された試乗車はラインナップ中の最強グレード、エレトレRだった。全モデルが2モーターのAWDとなるエレトレだが、ベースグレードとエレトレSの最高出力が612PSであるのに対し、エレトレRはリヤだけで612PSに達し、フロントモーターが306PSを追加するため出力総計は918PSとなる。前後の出力配分が1対2という、EVならではの無茶ぶり感すら漂う大胆さだ。

実車のボリュームは相当なもの。だが写真で見るとそこまで大きく見えないのだとしたら、それはいかにもロータスらしいシャープな造形と23インチタイヤ、そして低められた車高のおかげだと思う。

インテリアも未来感たっぷり

インパネはルーフスポイラーの形状を反映、左右にあるデジタルメーターのナセルを2分割とするデザインに。中央のモニターは15.1インチ。サウンドシステムはイギリスのKEF製だ。
インパネはルーフスポイラーの形状を反映、左右にあるデジタルメーターのナセルを2分割とするデザインに。中央のモニターは15.1インチ。サウンドシステムはイギリスのKEF製だ。

一方インテリアはバックスキン調のマテリアルが効果的に使われており、近未来的で上質なだけでなく軽快感も漂う。調光機能が付いたグラスルーフ越しの鈍い光に照らされた室内空間はもちろんゆったりとしている。だがリヤシートの質感や広さがフロントに引けを取らない点も、ドアの枚数だけに留まらないこれまでのロータスとの違いだろう。

スマートキーはメタルのような質感の滑らかな三角形をしている。それを持って乗り込むだけでスタートスイッチを押すことなく電源が入り、発進可能な状態となるのだ。

メインの情報はHUD(ヘッドアップディスプレイ)に映し出され、それ以外は横一線のメーターパネル内に表示される。今回走りはじめる前のバッテリーの残量は63%、走行可能距離は260kmと出ていた。この数値から計算するとバッテリーが100%の状態で413km走ることになる。WLTP複合の航続距離は490kmと発表されており、またBEVの走行距離はカタログ値の70~80%が常識。つまり約85%となるこの値は優秀といえるだろう。

走行モードはトラック、インディビジュアル、スポーツ、ツアー、レンジ、そしてオフロードから選べる。3チャンバーによるアクティブエアサスペンションを装備していることもあり、可変によるキャラクター変化のシロは大きそうだ。

985Nmの最大トルクは恐ろしいほど

2分割となるルーフスポイラーは、軽量化だけでなく、ルーフ中央にライダーセンサーを組み込む必要性から採用された。ライダーセンサーはほかフロントのルーフ中央、左右ホイールアーチ部分に内蔵。必要に応じて展開する。
2分割となるルーフスポイラーは、軽量化だけでなく、ルーフ中央にライダーセンサーを組み込む必要性から採用された。ライダーセンサーは他にもフロントのルーフ中央、左右ホイールアーチ部分に内蔵。必要に応じて展開する。

まずは標準モードであるツアーで走りはじめる。静かに力強く走りはじめるBEVの感じにはもうすっかり慣れたが、それでもエレトレのそれは一風変わっていた。入力の受け流し方はハイドロのアシを持つかつてのシトロエンのようにトロンッとしているが、不思議なくらいピッチングが抑え込まれている。約2.7tという軽くない車重を考えればアシはそれなりに固められているはず。それでもエアサスペンションの当たりはとても柔らかく感じられる。

ここで重要なのは動的質感にドイツ車的な重みではなく、ロータス的な軽快感が織り込まれている点だろう。また徹底した遮音が、重みと雑音を削ぎ落したような近未来的な走行感覚を助長してもいるはずだ。

エレトレが発表されたときに大げさに感じられた「オールエレクトリックハイパーSUV」という肩書きが、実際にステアリングを握ってみるとすんなり飲み込めるようになる。

走行モードをスポーツに切り替えスロットルを深く踏み込むと、リヤタイヤがガツッと路面を捉えた感じと、上り坂が下り坂に見えてくるようなワープ感が同時に襲ってきた。985Nmという最大トルクは恐ろしいほどで、勝手に右足が引っ込んでしまう。エレトレRにはリヤに2段のギヤボックスが備わっているはずだが、公道でその変速を体感することなどできるのだろうか。

1000PSクラスのスーパーカーはこれまで何台か体験しているが、中でもエレトレRのそれは図抜けている。その理由として思いつくのは、BEVなのでいきなりパワーが全開放されること。なおかつまるで2駆のようなリヤ偏重という点も印象を強くしている。もうひとつあるとすればスーパーカーに比べて高いアイポイントも関係しているはずだ。

静かに走らせているときの高級サルーン然とした佇まいと、フル加速とのギャップは相当なもの。ジキルとハイドのような両極のキャラ変を可能にしているギミックこそアクティブエアサスペンションなのである。低速ではフワッとした乗り心地に終始するが、ペースを上げると瞬時にアシが硬くなり、ロールやピッチングを上手に相殺してくれる。

試乗車はオプションの前275/35R23、後315/30R23のタイヤを装着。ブレーキはアルミキャリパーの鋳鉄ディスクが標準、オプションでカーボンセラミックディスクも選択可能だ。
試乗車はオプションの前275/35R23、後315/30R23のタイヤを装着。ブレーキはアルミキャリパーの鋳鉄ディスクが標準、オプションでカーボンセラミックディスクも選択可能だ。

エレトレRの特徴は「走りの幅」以外にもある。車体に仕込まれた18個のレーダーと12個のカメラ、そして4つのライダーが周囲を見張っており、クルマの周りの状況を驚くほど細かく認識。その様子がモニターに映し出される。もちろんACCとレーンキープアシストの性能も非常に高く、信頼がおける。

エレトレRは軽くて機能が絞られていた歴代のロータスとあらゆる部分が対照的にできている。だが時代が求めるBEVの5ドアSUVにロータスの伝統的な個性を込めることは無理がある。であるならばかつてチャプマンが送り出したF1マシンが秘めていた革新性の部分を追求することこそ現代ロータスが進むべき道なのだろう。少し見る角度を変えると、未来へと続くロータスがトレースすべき道がはっきりと見えてくる。ガレージにエミーラとエレトレが並んでいたら、お互いを補完する完璧なペアに成り得ると実感した。

REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/平野 陽(Akio HIRANO)
MAGAZINE/GENROQ 2024年12月号

SPECIFICATIONS

ロータス・エレトレR

ボディサイズ:全長5103 全幅2019 全高1636mm
ホイールベース:3019mm
車両重量:2715kg
システム最高出力:675kW(918PS)
システム最大トルク:985Nm(100.4kgm)
トランスミッション:2速
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/40R22 後315/35R22
最高速度:265km/h
0-100km/h加速:2.95秒
車両本体価格:2324万3000円

【問い合わせ】
ロータスコール
TEL 0120-371-222
https://www.lotus-cars.jp

フル電動ハイパーSUV「ロータス エレトレ」の走行シーン。

フル電動SUV「ロータス エレトレ」が2024年秋から日本でもデリバリー「リーズナブルなベースグレードの追加も」

ロータスは、フル電動ハイパーSUV「エレトレ」の日本における最新仕様と価格を発表した。エレトレは2023年9月に日本への導入が発表され、現在オーダーを受付中。今回、「エレトレS」と「エレトレR」に加えて、ベースモデル「エレトレ」の追加が決まった。カスタマーへのデリバリーは、2024年の秋以降に開始される予定だ。

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著者プロフィール

吉田拓生 近影

吉田拓生

1972年生まれ。趣味系自動車雑誌の編集部に12年在籍し、モータリングライターとして独立。戦前のヴィンテ…