初期のスーパーセブンを彷彿とさせる「ケータハム スーパーセブン600」に試乗

“ホンモノ”のクラシックカーに育てる喜びに満ち溢れたセブン「ケータハム スーパーセブン 600」に雨の中乗った

クラシカルなガレージが最も似合うスズキ製エンジンを搭載したスーパーセブン600。その軽快な走りに興奮冷めやらず。
クラシカルなガレージが最も似合うスズキ製エンジンを搭載したスーパーセブン600。その軽快な走りに興奮冷めやらず。
ケータハム初期のスーパーセブンからインスピレーションを得たという、いわば21世紀の英国ライトウェイトの再定義と言えるのが「600」である。懐かしのフレアーフロントウィングや専用ペイント、Junoホイールが昔ながらのセブンの雰囲気を醸し出している。英国車に精通するモータージャーナリスト吉田拓生が語るセブン600の魅力とは。(GENROQ 2025年5月号より転載・再構成)

Caterham Super Seven 600

最もクラシカルなセブン

古き佳きイギリスのライトウェイトスポーツカーを頑なに堅守するスーパーセブン。オーナーもきちんとした英国風身なりで乗ってほしい。
古き佳きイギリスのライトウェイトスポーツカーを頑なに堅守するスーパーセブン。オーナーもきちんとした英国風身なりで乗ってほしい。

イギリスのダートフォードにあったケータハムの古いファクトリー。一昨年そこを訪ねた際、「これいいでしょ?」そう言って見せられたのはCATERHAMの文字が入った懐かしい雰囲気のエンブレム。ガレージにはクラシカルな雰囲気で纏められたセブンもいた。今回上陸を果たしたスーパーセブン600の原型である。

日本でケータハム・セブンというとストライプが入ったカラフルなボディにレーシングスクリーンとロールバーを載せた戦闘的なスタイルが有名だろう。だがセブンには70年近い歴史があり、時代ごとの様々な仕様が存在しているのである。

1957年に誕生したセブンにはフルアルミニウムボディパネルのシリーズ1からフルFRPボディのシリーズ4までのバリエーションがある。中でも昨年ケータハムが発表したスーパーセブン2000とスーパーセブン600は、ロータスからセブンの製造権を譲り受けたケータハム・カーズが、1970年代の中頃から1980年代に掛けて生産していたセブン・シリーズ3の意匠を再現したもの。ケータハムによる初のセルフカバーなのである。

その最大の特徴はフロントホイールを覆うフェンダーの形状で、通称クラムシェルと呼ばれているもの。FRP製のそれはまるでヴィンテージカーのような滑らかな曲線を描く形状で、フロントにはじまりリヤタイヤ側へ細長く伸びている。

軽快な走りは600ならではの美点

今回の試乗車はフォード製2.0リッター4気筒エンジンを搭載するスーパーセブン2000ではなく、軽自動車規格のスーパーセブン600の方。そのパワートレインは日本でもおなじみ、スズキ自動車製の直列3気筒、660ccターボエンジンと5速ギヤボックス、そしてライブアクスルを組み合わせたものだ。

クラムシェル以外にも、今回のスーパーセブン600にはマニアを喜ばせる小技がたくさん散りばめられている。エビ茶のようなボディカラーも最近のケータハムにはないクラシカルなチョイスだし、黒い幌やビニール製のドアの縁が白いパイピングでトリムされている点もそう。

メッキのヘッドランプポッドやボディと同色に塗られた8スポークのホイール、リヤエンドのクロームメッキ・フューエルフィラーとレトロな書体のエンブレムも、古いケータハムを再現するうえで欠かせないアイテムといえるだろう。

インテリアもボディカラーと同じように様々なオーダーが可能な部分だが、試乗車はコントラスト・パイピングを用いたレザーシートや懐かしいモトリタ製ステアリングなど正統なブリティッシュ・クラシックを主張するアイテムで固められていた。

今回、いよいよ日本でスーパーセブン600をドライブできるとなった時、最初に考えたのは乗り手のファッションについて。せっかくクラシカルな意匠の1台に乗るのだから、ゴアテックスにジーパンじゃあ雰囲気が出ないだろう。

30年ほど愛用しているバブアーのオイルドコートを羽織るか、ぶ厚いツイードのノーフォーク・ジャケット&ニッカーボッカーズにするか? えっコスプレ趣味が過ぎる? いやいや、スーパーセブン600は古き佳きイギリス風スタイリングを楽しみつつ、真面目に峠を攻めるためのライトウエイトスポーツカーだ。クルマの雰囲気に負けないくらいスタイルをキメて挑まなかったら、わざわざこの仕様のセブンを手に入れる意味がないというものだ。

自分好みにカスタマイズ可能なインテリア

今回の撮影では恵みの雨が降った。つまりブリティッシュウェザーというやつである。イギリス人は雨でも傘を差さないというのはまったくのウソだが、雨の中を嬉しそうにオープンカーで疾走するマニアがいるというのは本当だ。彼らはびしょ濡れになって走り回り、交差点で止まるとおもむろにコウモリ傘をさしたりする。シャレが効いているのだ。

スーパーセブン600の最高出力はわずか85‌PS。だが車重も最新のポルシェ911カレラの前軸重よりはるかに軽い440kgしかないし、ギヤレシオもクロースしているので、走りはけっこう刺激的。しかもマニアックな話をすると、そのドライブフィールは現代的でもあるのだ。

ケータハムがセブンの製造をはじめた頃のモデルに乗っている友達がいて、運転させてもらったことがあるのだが、原初のケータハム・セブンの質感は実にユル~い。まず鋼管フレームは現在とは違ってロウ付けなので捻り剛性というかコシが弱い感じだし、フロントサスも現行モデルのAアームではなくIアーム+スタビライザーという形式なので前後方向の位置決めが甘い。それでも1970年代的なタイヤも含めてバランスは取れているのである。

バランスという点ではスーパーセブン600も負けてはいない。TIG溶接の鋼管フレームはハリがあり、サスペンションの動きは正確で滑らか。エイヴォンZT7タイヤも65扁平だがほとんど捩れず的確に路面の状態を伝えてくる。だからこそ急激に高まるターボエンジンのパワーにも対応できるのである。

雨でも乗りたくなるスーパーセブン

クラシカルなガレージで保管して、休日はワインディングを攻める。そんなライフスタイルが似合うのがスーパーセブン600だ。
クラシカルなガレージで保管して、休日はワインディングを攻める。そんなライフスタイルが似合うのがスーパーセブン600だ。

カジュアルに付き合いたければベーシックなセブン170がいい。だがクラシカルなガレージやコスプレまで含めて楽しみたいのであればスーパーセブン600を選ぶしかないだろう。

それにこのクルマは、今はクラシックカーのオルタナティブかもしれないが、10年も一緒に過ごせばオーナーともどもいい具合に年季が入って、本物のクラシックカーに育っていくはずだから。

REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/佐藤亮太(Ryota SATO)
MAGAZINE/GENROQ 2025年5月号

SPECIFICATIONS

ケータハム・スーパーセブン600


ボディサイズ:全長3380 全幅1470 全高1090mm
ホイールベース:2225mm
乾燥重量:440kg
エンジン:直列3気筒DOHCターボ
総排気量:658cc
最高出力:62.6kW(85PS)/6500rpm
最大トルク:116Nm(11.8kgm)
トランスミッション:5速MT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前ディスク 後ドラム
タイヤサイズ:前後155/65R14
車両本体価格:866万8000円

【問い合わせ】
ケータハムカーズ・ジャパン
TEL 03-5754-2227
https://www.caterham-cars.jp

もはやセブン170と同じ土俵で比べられる、軽量なスポーツカーは今やアルピーヌA110以外にはない。

買うなら軽量スポーツカー「A110」か超軽量スポーツカー「セブン170R」か寒空の中で試乗して確かめた

ケータハム史上最も軽量な440kgという車重を実現したのがセブン170Rだ。 現行ジムニー用のスズキ製R06A型658ccエンジンを搭載するれっきとしたスポーツカーである。対するはこちらも量産スポーツカーとしては軽量なアルピーヌA110GT。それぞれに強烈な個性を持つ2台を比較することで見えてきた世界とは。

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著者プロフィール

吉田拓生 近影

吉田拓生

1972年生まれ。趣味系自動車雑誌の編集部に12年在籍し、モータリングライターとして独立。戦前のヴィンテ…