レースレギュレーションの枷から解き放たれたマクラーレン 720S GT3X初試乗!

理想のトラックマシン「マクラーレン 720S GT3X」初試乗! レーシングカーよりも速いサーキット専用モデル

マクラーレン 720S GT3Xの走行シーン
マクラーレン 720S GT3Xを海外初試乗。理想のトラックマシンが放つハイパフォーマンスを体験した。
世界のレースで活躍中の720 GT3をベースにサーキット専用車として開発されたのがGT3Xだ。マクラーレン・カスタマー・レーシングが独自開発したGT3Xは、最大720psを発揮する。軽量化とエアロダイナミクスを最大限追求したマクラーレンの自信作をトラックで試してきた。

McLaren 720S GT3X

レーシングカーの血筋を受け継いだピュアでファンなスーパースポーツ

マクラーレン 720S GT3Xのサイドビュー
マクラーレン 720S GT3Xは、GTレースで活躍する720S GT3と同じエアロダイナミクス性能やサスペンションのセッティングを施す。ただしレースレギュレーションに準拠する必要はないので、最高出力は720S GT3より170psも高い720psを発生する。

漆黒のマシンは、低くうずくまるようにしてナヴァラ・サーキットのピットレーンに佇んでいた。

ボディの周囲に装着されたエアロパーツがただならぬ雰囲気を醸し出しているマクラーレン 720S GT3Xは、これまでにない発想から誕生したサーキット専用モデルだ。

そのベースとなったのは、世界各国のGTレースで活躍する720S GT3。つまり、紛れもないレーシングカーの血筋をダイレクトに受け継いでいるのだが、720S GT3Xは720S GT3のパフォーマンスを引き下げるのではなく、逆に引き上げた点に最大の特徴がある。

例えば迫力満点なエアロダイナミクスはGT3車両そのまま。サスペンションの設定、そしてピレリのレーシングスリックタイヤの仕様も、国際的なGT3レースを戦う720S GT3とまったく同じという。

性能調整に縛られず本来のパフォーマンスを発揮

マクラーレン 720S GT3Xのリヤセクション
大きなリヤウイングやディフューザーが巨大なダウンフォースを生み出す。ピレリ製のレーシングスリックタイヤを履きこなす。

では、なにが異なるかといえば、助手席を装備できるようにロールケージの形状を手直ししたことが1点。そしてGT3レースに参戦する際に課せられる性能調整をすべてとっぱらったことが挙げられる。

GT3レースでは、各ブランドが送り出すレーシングカーの性能を拮抗させるため、エンジンパワーに上限を設けたり、ベース車より重い最低車重を課すのが一般的。これが性能調整と呼ばれるものだが、GT3レースへの参戦を前提としていない車両にそのような措置は不要。このため、720S GT3Xのエンジンは720S GT3よりおよそ170psもパワフルな720psで、車重は最大で100kgも軽く仕上げられた。「レーシングカーよりも速いサーキット専用モデル」は、こうして誕生したのである。

スタンダードな720Sとはまったく別世界の景色

マクラーレン 720S GT3Xのインテリア
720Sとはまったく異なるレーシングカー同様のインパネ。シートは軽量なOMP製のフルバケットシートが奢られる。

試乗の舞台となったナヴァラはダウンフォースをふんだんに使う中速コーナーからメカニカルグリップ命の低速タイトコーナーまでが揃う変幻自在なコース。まずは、マクラーレンのワークスドライバーであるユーアン・ハンキーにタイヤをウォームアップしてもらってから、私がステアリングを受け継いだ。

目の前に広がる景色は、スタンダードな720Sとはまったくの別世界。カラフルに色づけされたスイッチやボタンが、美しいカーボンパネルの上に整然と並んでいて、最新のレーシングカーに相応しい機能美とクオリティ感を生み出している。それはまさに、所有することの喜びを感じさせるコクピットだ。

グリップ部だけのステアリングはパワーアシスト付きで、しかもレシオがクイックで持ち替える必要がないため、意外にも扱い易い。その正面の最も目立つ位置に設けられているのがトラクションコントロールの切り替えスイッチ。コースコンディションやドライビングスキルに応じて調整するが、今回はハンキーのアドバイスに従い、比較的介入の早いポジション7で走り出すことにした。

強大なダウンフォースが生む圧倒的なスタビリティに舌を巻く

マクラーレン 720S GT3Xの走行シーン
最大で720S GT3より100kgも軽量に仕上げられた恩恵もあり、レーシングカーよりハイパフォーマンスなトラックマシンに仕上がった720S GT3X。操作性はレーシングカー譲りのスパルタンさだが、驚くべきスタビリティを発揮した。

シフト自体はステアリング後方のパドルで行うが、発進時のみブレーキペダルの左側に装備されたクラッチを操作する必要がある。このクラッチペダル、必要となる踏力が恐ろしく重いうえ、ペダルのフェースが極端に小さいため、脚力には自信のある私でも踏み込んでいるだけで足が痙りそうになった。しかも、1速は発進用ではなくコーナリング用なのでギヤ比が高く、エンジン回転数を3000〜4000rpm程度まで上げたうえで慎重にペダルを操作する必要がある。このクラッチワークが実に難しく、2、3度エンジンをストールさせそうになりながらようやく発進することができた。

走り始めてしまえば、720S GT3Xをドライブするのに特別なテクニックは必要ない。例によってサーボを持たないブレーキのペダル踏力は大きく、ストロークも長めだが、その制動力をフルに発揮させるのでなければ軽く踏むだけで十分な減速力が得られる。ただし、720S GT3Xのストッピングパワーをフルに引き出すには、バケットシートに背中を押しつけるようにして、全身全霊でブレーキペダルを踏み込む必要がある。するとショルダーベルトが肩に食い込むほどの激しい減速Gを生み出してくれるが、ストレートで試す限り、強大なダウンフォースのおかげで720S GT3Xの姿勢は安定しきったまま。まずは、このブレーキングスタビリティの高さに舌を巻くことだろう。

コーナリングフォースはまるで底なし沼のようだ

マクラーレン 720S GT3Xのリヤビュー
筆者曰く「自分のドライビングスキル向上にも役立つ」のがマクラーレン 720S GT3Xの美点。ジェントルマンレーサーにとって最適な相棒になるだろう。

同様のことはコーナリングに関してもいえる。前述したダウンフォースとピレリのレーシングスリックが生み出すコーナリングフォースはまるで底なし沼のようで、いままでGT3車両を走らせたことのない私に、限界はまったく掴めなかった。正直にいえば、テールがぴくりと動くことさえなかったほどだ。

しかし、例えマシンの限界に届かなくても、720S GT3Xを走らせた経験が自分の精神的コーナリング限界を高めてくれるのは間違いない。今回の試乗は765LT スパイダーをテストする合間に実施されたが、720S GT3Xをドライブした後で765LTに乗ると、それまでよりペースが1割ほど速くなり、「やけに早くテールが滑り出すなあ」と感じたほど。つまり、操る楽しさもさることながら、自分のドライビングスキル向上にも役立つのが720S GT3Xなのだ。

最近、サーキットイベントでGT3車両を操るジェントルマンドライバーが増えているが、その理由もこれで納得できた。720S GT3Xの価格は72万ポンド(約1億1000万円)で15台が世界限定販売される。ただし10月中旬の段階でこのうちの7台が売約済みという。

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REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/Mclaren Automotive
MAGAZINE/GENROQ 2022年 1月号

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著者プロフィール

大谷達也 近影

大谷達也

大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌「CAR GRAPHIC」の編集部員…