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Porsche 911 Carrera GTS×911 Targa 4
待望の7速MTが選べるカレラGTSが上陸
これほど待ち焦がれられたGTSモデルは今までなかったかもしれない。登場当初は右ハンドルの8速PDKしか用意がなかったタイプ992。のちに左ハンドルも選べるようになったが、この新型911 カレラGTSではステアリング位置は左右が選べ、そしてギヤボックスもPDKだけでなく7速MTが遂に用意されることとなったのだ。
今回は、ようやく上陸したこの新しいカレラGTSのMT仕様と、言わば対極の911であるタルガ4の2台で連れ立って箱根を目指した。未だGT3のステアリングを握ることはできていないが、それでもほぼマトリックスが埋められたと言っていいポルシェ 911の全容を、これで明らかにできるはずである。
パワートレインだけでなくGTSの見所はシャシーかもしれない
新型911 カレラGTSには、RRレイアウトのカレラGTSと同カブリオレ、4WDのカレラ4 GTSと同カブリオレ、さらにタルガ4 GTSが用意される。水平対向6気筒3.0リッターツインターボユニットは最高出力480ps、最大トルク570Nmを発生する。カレラSに対して30ps、40Nmの増強となる。
トランスミッションは8速PDKが標準。そしてクーペのRRモデルのみ前述の通り7速MTを選択できるようになった。スポーツエキゾーストは標準装備。また、車内断熱材の一部削減で、敢えて室内に排気音を多めに導いているのも特徴だ。
ついパワートレインに目が向いてしまうが、実はカレラGTSはシャシーこそ見どころかもしれない。サスペンションはターボ用をベースに専用チューニングを施したもので、車高10mmダウンのスポーツシャシーにPASMを標準で組み合わせる。その上でタルガ以外のリヤサスペンションにはヘルパースプリングが組み込まれる。ブレーキシステム、そしてフロント20インチ/リヤ21インチのセンターロック式ホイールも、やはりターボからの流用である。
フルバケット+リヤシートレスのハードコア仕様
試乗車はフルバケットシート付きでリヤシートレスというハードコアな仕様。室内に乗り込むと気分が自動的に戦闘モードになった。シートのせいで若干、猫背気味になるのが窮屈だが、早速走り出す。
クラッチペダルの踏力は軽くはないが、ミートポイントは分かりやすくコントロール性は上々だ。シフトレバーはストロークが詰められていてリーチはちょうど良い。操作感はリモコン的で、もう少し重みがあってもいいとも思えたが、この機能に徹した感じもドイツ車っぽいと言えないことはない。
唸らされたのがエンジンの圧倒的なまでのフレキシビリティである。アイドリングから一瞬たりともターボラグを感じさせることなく分厚いトルクを発生し、MTとの組み合わせでも文句なしに扱いやすいのだ。
おかげで渋滞もまったく苦にならない。3速のまま発進しても何とかなったし、20km/h以下の速度を3速700rpmで走っていてもギクシャクしたりしない。しかも、そこから右足に力を入れていけば、スムーズに速度を高めていく。
操舵感は路面に手が触れているかのようにソリッドかつダイレクト
では高回転域はと言えば、これも素晴らしいとしか言いようがない。エンジンは回すほどにパワーが漲ってきて、レブリミットに至る高回転域でのサウンドと力感は圧倒されてしまいそうなほど。レスポンスも極めてリニアで、まさに踏んだ分だけ、欲しい分だけの力をダイレクトに得ることができる。まるで自然吸気のようだが、しかしトルクの厚みは段違い。まさに、いいとこ取りのエンジンと言っていいかもしれない。
試乗車はPDCC、リヤホイールステアリングなどのオプションが満載された仕様だったので、どこまでがカレラGTS特有のキャラクターかは判断しづらいが、操舵感はまさに路面に素手で触れているかのようにダイレクトかつソリッド。レスポンスは正確無比で、ノーズの軽さも相まってキレ味は鋭い。
大トルクをしっかり受け止めるトラクションの高さも、さすがRRだ。一方、フル加速時には明確にフロントが浮き上がる懐かしい感覚も味わった。スポーツデザインパッケージを標準とするカレラGTSだが、これだけパフォーマンスレベルが高まってくると、空力的にはプラスアルファが欲しくなる。
カレラGTSより車重は嵩みつつも軽快感は上まわるタルガ4
素性がつかめてきたところで、ある意味では気心知れた911 タルガ4に乗り換える。こちらは特徴的なルーフシステムを備えるだけでなく、エンジンは最高出力385ps、最大トルク450Nmというスペックで、トランスミッションは8速PDK。そしてフルタイム4WDという組み合わせになる。
大いに意外だったのは、走り出すと、こちらの方が断然軽やかに感じられたことだ。念のため見直した車両重量は1680kgで、カレラGTSより180kgも重いにも関わらず、である。
911らしい走りの魅力をどんな場面でもリラックスして楽しめる
よって正確に言うならば、重々しさがないということかもしれない。カレラGTSはいかにもポルシェのプロダクトらしい凝縮感、精度の高さが濃密なのに対して、タルガ4は良くも悪くも、その辺りがちょっと薄まっているといった感じだ。
エンジンフィーリングもやはり軽やかで、もちろんパワーやトルクは劣るものの吹け上がりは爽快。思い切り踏んで楽しめるのも、やはり軽やかさに繋がっているのだろうか。フルタイム4WDゆえに安心感は高く、トップを開けていればより直接的に響いてくるフラットシックスサウンドも相まって、911らしい走りの魅力をどんな場面でもリラックスして楽しめる。これもやはり改めて魅力的な911である。
ラインナップの幅は広がり、それぞれの立ち位置が一層明確になった
新登場のポルシェ 911 カレラGTSは、想像していたよりもハードコアな走りの刺激に特化したモデルだった。ますますエクストリームになってきているGT3と、素のカレラ/カレラSとのギャップを埋める存在になっている。そんな印象だ。
その登場により、予想していた通り911のラインナップはさらに幅が広がり、それぞれの立ち位置が一層明確になったことは間違いない。カレラGTSも、タルガ4も、紛れもなく911でありながら、しっかり違った個性を発揮している。
サーキット主体ではなくストリートで走りを楽しみたいと考える911ファンにとっては、まさしく見逃せない1台である911 カレラGTS。私自身、実際に試してみて思いっきり惚れ込んでしまった次第だ。
REPORT/島下泰久(Yasuhisa SHIMASHITA)
PHOTO/藤井元輔(Motosuke FUJII)
MAGAZINE/GENROQ 2022年 1月号
【SPECIFICATIONS】
ポルシェ911 カレラGTS
ボディサイズ:全長4520 全幅1850 全高1303mm
ホイールベース:2450mm
車両重量:1500kg
エンジンタイプ:水平対向6気筒DOHCツインターボ
排気量:2981cc
最高出力:353kW(480ps)/6500rpm
最大トルク:570Nm(58.1kgm)/2300-5000rpm
トランスミッション:7速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前245/35ZR20 後305/30ZR21
0-100km/h加速:4.1秒
最高速度:311km/h
車両本体価格(税込):1868万円
ポルシェ911 タルガ4
ボディサイズ:全長4530 全幅1850 全高1300mm
ホイールベース:2450mm
車両重量:1680kg
エンジンタイプ:水平対向6気筒DOHCツインターボ
排気量:2981cc
最高出力:283kW(385ps)/6500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/1950-5000rpm
トランスミッション:8速PDK
駆動方式:AWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前235/40ZR19 後295/35ZR20
0-100km/h加速:4.4秒
最高速度:289km/h
車両本体価格(税込):1760万円
【問い合わせ】
ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
【関連リンク】
・ポルシェ 公式サイト
http://www.porsche.com/japan/