連載

GENROQ BMW Mの軌跡

M5(F90)

初めて4輪駆動システムを搭載

Eセグメントで「メルセデス・ベンツ Eクラス」「アウディ A6」などと覇権を争ってきた「BMW 5シリーズ」は、2016年10月に7代目となるG30型へと進化した。

スタイリング的にはコンセプトをキープしつつも、ボンネットフード、ドア、ルーフ、トランクリッドにアルミパネルを使用するほか、ボディシェルにも高張力鋼板、アルミ合金、マグネシウム合金の使用比率を高めることで、先代比約100kgの軽量化を実現。加えて低重心化、前後重量配分50:50の達成のほか、エアロダイナミクスの改善も行われCd値が先代の0.25を上回る0.22を記録するなど、走行性能、スポーツ性能をより高める方向へとシフトしているのが特徴といえる。

そして2017年8月、G30型をベースとした新型F90型「M5」が登場する。その最大の特徴はM5シリーズとして初めて4輪駆動システムが搭載されたことだ。これはBMWのxDriveとアクティブMディファレンシャル、をドライビング・ダイナミクス・コントロールで制御するM5専用のシステムで、デフォルトとなる「DSCオン・4WDモード」、リヤアクスルの駆動トルクを増やす「Mダイナミックモード(MDM)」、DSCをカットして後輪駆動となる「2WDモード」が用意されている。

最長連続ドリフトを記録

エンジンは先代と同じS63型の4395cc V型8気筒DOHC32バルブながら、最高出力600PS/5600〜6700rpm、最大トルク750Nm/1800〜5600rpmへと大幅にアップ。あわせてギヤボックスも7速DCTから、トルコンATをベースとする8速Mステップトロニック(ZF GA8HP75Z)へ変更した。

0-100km/h加速4.4秒と先代と同等のパフォーマンスを発揮するうえ、アイドリングストップ、ブレーキ回生システム、ルーフにCFRPを採用するなど各部の軽量化の効果(車両重量は先代より70kg軽い)もあり平均燃費は10.1km/リッター(欧州複合モード)と、30%以上の向上をみせている。

またサスペンションはベースモデルと同じ、フロント・ダブルウイッシュボーン、リヤマルチリンクの組み合わせながら、コイル、ダンパーなどを強化し、ステアリングジオメトリーを変更した専用セッティングを採用。軽快かつ安定したハンドリングが身上で、2017年12月には最長連続ドリフト374km、最長ツインドリフト79kmという記録を達成し、ギネス世界記録にも認定された。

そして2018年には最高出力を620PS/6000rpmへチューンし、フロントキャンバー角の拡大、7mmのローダウン、アンチロールバー、スプリングの改良で前後ダンピングを10%硬化した専用サスペンション、新しいエキゾーストシステムなどを搭載した「M5コンペティション・パッケージ」を発売している。

名実ともにスーパーパフォーマンスサルーン

続く2020年6月にはマイナーチェンジを発表。エクステリアではデイタイム・ランニングライトを装備したヘッドライトに加え、テールランプ、前後バンパー形状などを変更。インテリアのアップデートが図られたほか、車高調整式ダンパーを投入するなど細部にまで改良が施され2021年モデルとして発売された。

さらに2021年にはM5として初めてCSバージョンとなる「M5 CS」を1000台限定で用意。635PSを発生する4.4リッターV8ツインターボを筆頭に、Mカーボンセラミックブレーキ、ヘッドレストにニュルブルクリンクの刺繍を施した4脚のバケットシート、M8グランクーペ用ダンパーのほか、CFRP製のボンネット・フード、フロント・スプリッター、リップスポイラー、リヤディフューザーなどを標準装備。その結果、車両重量は116kgも軽量化され、0-100km/h加速も3.0秒という驚異的なパフォーマンスを発揮し、名実ともにスーパーパフォーマンスサルーンとしての称号を手にしたのである。

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