【フェラーリ名鑑】「世界」の名を持つフェラーリの意欲作

奇抜に見える2+2ミッドシップ「モンディアール」が失敗ではないという考察(1980-1989)【フェラーリ名鑑:16】

【フェラーリ名鑑:16】「世界」の名を持つフェラーリの意欲作
V12を搭載する2シーターのスーパースポーツモデルで成功を収めたフェラーリだが、時代の要請により、コンパクトなV8エンジンと2+2シーターモデル「モンディアール」を開発した。
エンツォ・フェラーリはV12エンジンにこだわり、当初はV8やV6エンジン搭載モデルにフェラーリのブランド名をつけなかったのは周知のところ。しかし芳しくない世界情勢と親会社であるフィアットの意向もあり、V8エンジンと2+2シーターを組み合わせた「モンディアール」をリリースする。

Ferrari Mondial

実用性に富むフェラーリ「モンディアール」

1980年式フェラーリ モンディアール 8。フィアット主導のもとV8エンジンを搭載した2+2シーターが誕生した。

フェラーリのプロダクションモデルというと、とかく2シーターのスポーツモデルのみが話題の中心になることが多い。だがフェラーリは古くから2+2のシートレイアウトをもつ4シーターモデルをラインナップしてきた。

例えば1970年代を迎えた頃には、V型12気筒エンジンをフロントに搭載する2シーターの365 GTB/4(デイトナ)に対して4シーターでは365 GTC/4を市場へと投じているし、V型8気筒エンジンを搭載したディーノ 308 GT4は、ここから308 GTBという2シーターへ進化するとともに、2+2の「モンディアール」をラインナップに加えている。ここでは、そのモンディアールがどのように進化していったのかを振り返っていきたいと思う。

フィアットの意向を汲んだ戦略モデル

ポルシェ 911が席巻していたコンパクトなパワートレインと2+2シーターをもつスポーツカーのカテゴリーに投入される。

フェラーリに“2+2”、しかも比較的リーズナブルな8気筒モデルをラインナップさせようと、親会社であるフィアットが考えたのは当然のことだった。この頃のイタリアの自動車産業は、まだ完全な回復期に入ったとは言い難かった。しかしポルシェ 911のように、すでに確固たる市場を確立した2+2のスポーツカーの姿もあった。

ランボルギーニでさえ、V8ミッドシップの2+2モデル「ウラッコ」を鬼才パオロ・スタンツァーニの設計で生み出していた。パフォーマンスのみならず、実用性にも富む4シーターモデルをデビューさせることは、同じ8気筒の2シータースポーツと同様に、いやそれ以上にフィアットには重要な戦略だったのだろう。

都会的で洗練されたピニンファリーナのデザイン

3.0リッターV8エンジンをミッドシップとしながら、実用的な2+2シーターレイアウトを実現。

モンディアール、すなわち“世界”とネーミングされた期待の2+2フェラーリは、1980年のジュネーブ・ショーで正式に発表される。フェラーリがモンディアールの名を採用するのは、1953年にF1GPに投入された500 モンディアール以来のこと。フェラーリがいかにこの2+2に大きな期待を寄せていたのかは、このネーミングからも想像できるところだ。

モンディアールのファーストモデルは「モンディアール 8」と呼ばれ、デザインはもちろんピニンファリーナによるもの。そのディテールには、2シーターの308 GTBに共通する部分も数多くあり、また直線と曲線を巧みに使い分けたライン構成に都会的な洗練された印象を抱く者も多いだろう。フロントシートまわりは、リヤシートのスペースが確保されている分、逆に開放的に感じる。モンディアール 8の「8」が意味するミッドのV型8気筒エンジンは、1981年に誕生していた308 GTBi/GTSiと共通の214PS仕様。フレームやサスペンションの構造も同様だが、ダンパーやスプリングなど個々のセッティングは当然ながらモンディアール 8独自のものだ。

1982年には4バルブ化した「クワトロバルボーレ」へと進化

1983年式モンディアール カブリオレ。3.0リッターV8は4バルブ化され、後に3.2リッターV8へと進化を遂げる。

モンディアール 8は1982年半ばまで生産が継続されるが、この年の夏には4バルブ仕様の新型エンジンが搭載される。車名も「モンディアール クワトロバルボーレ」となり、最高出力も厳しい排出ガス規制をクリアしながら240PSを達成。そしてこのクワトロバルボーレから待望のカブリオレがラインナップに加わり、その後のモンディアールのセールスに強い追い風を生み出した。

縦置きエンジンとなった「モンディアール T」

1989年式モンディアール T。車名の「T」は横置きトランスミッションを意味する。2ペダルのヴァレオ・マチック仕様もトピックだった。

また1985年には2+2シーターの328に相当する「モンディアール 3.2」がデビュー。そして、1989年に328から348にフルモデルチェンジされると、モンディアールは縦置きエンジン+横置きトランスミッションというパワートレインをそのまま採用し、トランスミッションの横置きを意味する「T」を車名に添えた「モンディアール T」へと進化を果たす。3405ccの排気量から最高出力300PSを発し、当時のヴァレオ社と共同で開発が進められた2ペダルの“ヴァレオ・マチック”という自動クラッチシステムの搭載も実現している。

モンディアールは常に8気筒2シーターとともに、あるいはその先を歩むパイロットモデル的な存在として進化を続けてきたが、その直接的な後継車は誕生することはなく、1993年に生産は中止される。しかしトータルの生産台数は約6000台。それは十分な成功といえるのではないだろうか。

SPECIFICATIONS

フェラーリ モンディアール 8

年式:1980年
エンジン:90度V型8気筒DOHC(2バルブ)
排気量:2926cc
最高出力:157kW(214hp)/6600rpm
乾燥重量:1445kg
最高速度:230km/h

フェラーリ モンディアール クワトロバルボーレ

年式:1982年
エンジン:90度V型8気筒DOHC(4バルブ)
排気量:2926cc
最高出力:176kW(240hp)/7000rpm
乾燥重量:1430kg
最高速度:240km/h

フェラーリ 3.2 モンディアール カブリオレ

年式:1985年
エンジン:90度V型8気筒DOHC
排気量:3185cc
最高出力:199kW(270hp)/7000rpm
乾燥重量:1400kg
最高速度:250km/h

フェラーリ モンディアール T

年式:1989年
エンジン:90度V型8気筒DOHC
排気量:3405cc
最高出力:221kW(300hp)/7200rpm
乾燥重量:1426kg
最高速度:255km/h

解説/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)

【フェラーリ名鑑:14】フェラーリの別ブランド「ディーノ」シリーズ

「もうひとつのディーノ?」2+2GTが誕生するまで(1972-1975)【フェラーリ名鑑:14】

当時、フェラーリはV12エンジンを搭載しないロードカーに「フェラーリ」のブランド名を冠することを是としなかったため、より安価なV6やV8をパワートレインに採用するモデルを希望するカスタマーの求めに応じ、別ブランドの「ディーノ」を立ち上げる。現在では途絶えた「ディーノ」ブランドを解説する。

キーワードで検索する

著者プロフィール

山崎元裕 近影

山崎元裕

中学生の時にスーパーカーブームの洗礼を受け、青山学院大学在学中から独自の取材活動を開始。その後、フ…