【フェラーリ名鑑】ブランドの屋台骨を築く“ピッコロ・フェラーリ”の誕生

今日に続くV8シリーズの原点「308 & 328 GTB」(1975-1986)【フェラーリ名鑑:15】

【フェラーリ名鑑】308シリーズ
フェラーリの代名詞だったV12エンジンではなく、V8エンジンをリヤミッドに搭載する308シリーズが登場。以後、フェラーリの屋台骨になるほど高い支持を得ていく。
「フェラーリと名乗れるのはV12エンジン搭載モデルのみ」という時代が終焉を迎えた1970年代。それはV8エンジンをリヤミッドに搭載する308シリーズの大ヒットが契機になったと言っても過言ではない。現在に続くフェラーリV8モデルの人気は、308シリーズが盤石にした。

Ferrari 308 & 328 GTB

待望のピニンファリーナによるデザイン

V型8気筒エンジンをリヤミッドに搭載するフェラーリの中核をなすシリーズは、1975年に発表された308 GTBからスタートする。

1973年にデビューした308 GT4は、ベルトーネによる直線を基調とした2+2ボディをもつモデルだったが、それは実用性こそ高くとも、やはりラグジュアリーでスポーティな2シータースポーツを求めるカスタマーには、やや魅力に乏しいモデルであったようだ。

デビュー時にフェラーリではなく、ディーノのエンブレムを掲げていたことも“V12絶対主義”を貫いていることの証しとして否定的な意見が唱えられることも多かった。最終的にフェラーリは、その308 GT4をディーノからフェラーリへとブランド名を変更。並行して、本命となるV型8気筒エンジンをミッドシップ・マウントした2シーター車の開発を進める。

初期モデルのボディはグラスファイバー製

スタイリングをピニンファリーナが手掛けた308 GTBのボディは、生産スタートからしばらくはFRP製だった。

ここで誕生した「308 GTB」は、ピニンファリーナによる実に流麗なボディをもつモデルだった。特徴的なボディサイドのエアインテークは、ピニンファリーナのプロトタイプ「P6」から受け継がれたもので、サイドビューの強いアクセントとなっている。もちろん、それはただのアイキャッチではなく、ミッドに搭載されるエンジンにフレッシュなエアを送り込むことなど、308 GTBのエアロダイナミクスにとって重要な役割を担っている。

だが308 GTBの生産は、当時イタリアの経済状況が悪化し、フェラーリの生産車部門を買収したフィアットも、308 GTBの製造に潤沢な資金を投じることはできない状態にあった。フェラーリのファンにはよく知られているとおり、308 GTBの初期モデルはグラスファイバー製のボディをもつが、これは軽量化が目的ではなく、鋼板やアルミニウムの調達ができなかったこと、そしてそれらが調達できたとしても、その成型のための設備投資が少額では済まないことが本当の理由だった。もっともカスタマーから見れば、ファイバーボディの初期モデルは、軽量を活かして加速性能では有利という結論が自然と引き出されることにはなったが……。

フェラーリとしては初の試み

大きなメーターナセル内に速度計や回転計などを集中させた308 GTBのコクピット。その分前方視界が損なわれるように思えるが、イタリアンスポーツモデルではこういった例が多い。ドライビングポジションの違いだろうか。

クロームモリブデン鋼で組み上げられたセンターフレームに角断面の前後サブフレームを組み合わせるという308 GTBのシャシーは、フェラーリとしては初の試みだった。エンジンは2926ccのV型8気筒DOHCで、最高出力は255PS。スチールボディが登場するのは、1975年の発表からほぼ2年が経過した頃で、ここでホイールアーチの前にようやくピニンファリーナのエンブレムが付いた。

エンジンは基本的に変化がないが、ヨーロッパ仕様とアメリカ仕様では、潤滑方式や最高出力のスペックには多少の差があった。アメリカ仕様は1978年からエキゾーストシステム内で未燃焼ガスを燃焼させる、エアインジェクションとエアポンプの装備が義務づけられ、最高出力はヨーロッパ仕様が255PSであるのに対し、205PSにまで抑えられてしまう。

タルガトップのGTSが登場

北米マーケットで人気のオープンモデルを308シリーズにも設定。タルガトップの308 GTSは1977年にデビューした。

1977年にボディがすべてスチール製になると、アメリカ市場では特に人気の高いタルガトップを備える「308 GTS」がラインナップに加えられる。ディーノ 246 GTSの成功でも分かるように、オープンカー市場はカリフォルニアを中心にフェラーリにとって実に重要。実際のセールスはきわめて好調で、結局クーペの308 GTBより2年ほど遅くデビューしたにもかかわらず、マイナーチェンジが行われるまで308 GTSの方が308 GTBより多く販売されている。

時代の流れとともに着実な進化を果たす

吸気をキャブからインジェクションに変更し、4バルブ化するなど308シリーズは着実な進化を遂げていく。写真は1985年にリリースされた328 GTB。

308シリーズはその後、全モデルをインジェクション化した「308 GTBi」「308 GTSi」に、さらには4バルブ化した「308 GTB クワトロバルボーレ」「308 GTS クワトロバルボーレ」へと進化。そして最終進化型となったのは、1985年デビューの「328 GTB」「328 GTS」で、その生産は1989年まで継続される。

シリーズ最終型の328シリーズは、エンジンを3185ccに拡大したもので、最高出力は270PSを得ていた。また308及び328シリーズでは、税制の問題から排気量を2.0リッターターボとしたイタリア市場専売車の「208」シリーズが併売されたことも見逃してはならない。

SPECIFICATIONS

フェラーリ 308 GTB

年式:1975年
エンジン:90度V型8気筒DOHC
排気量:2926cc
最高出力:188kW(255hp)/7700rpm
乾燥重量:1090kg
最高速度:252km/h

フェラーリ 308 GTBi

年式:1980年
エンジン:90度V型8気筒DOHC
排気量:2926cc
最高出力:157kW(214hp)/6600rpm
乾燥重量:1286kg
最高速度:240km/h

フェラーリ 308 GTB クワトロバルボーレ

年式:1982年
エンジン:90度V型8気筒DOHC
排気量:2926cc
最高出力:176kW(240hp)/7000rpm
乾燥重量:1275kg
最高速度:255km/h

フェラーリ 328 GTB

年式:1985年
エンジン:90度V型8気筒DOHC
排気量:3185cc
最高出力:199kW(270hp)/7000rpm
乾燥重量:1263kg
最高速度:263km/h

解説/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)

【フェラーリ名鑑:14】フェラーリの別ブランド「ディーノ」シリーズ

「もうひとつのディーノ?」2+2GTが誕生するまで(1972-1975)【フェラーリ名鑑:14】

当時、フェラーリはV12エンジンを搭載しないロードカーに「フェラーリ」のブランド名を冠することを是としなかったため、より安価なV6やV8をパワートレインに採用するモデルを希望するカスタマーの求めに応じ、別ブランドの「ディーノ」を立ち上げる。現在では途絶えた「ディーノ」ブランドを解説する。

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著者プロフィール

山崎元裕 近影

山崎元裕

中学生の時にスーパーカーブームの洗礼を受け、青山学院大学在学中から独自の取材活動を開始。その後、フ…