語り継がれる名車、250シリーズの誕生 【フェラーリ名鑑:05】

フェラーリ 250シリーズ誕生(1953-1956)【フェラーリ名鑑】

フェラーリ名鑑、250 GTのフロントスタイル
フェラーリ名鑑、250 GTのフロントスタイル
サザビーズなど海外の著名オークションで度々高額落札が話題になるモデルの常連に、フェラーリの250シリーズがある。250 GTOなどの特別な派生モデルは数億円から数十億円の落札もなされ、歴代フェラーリ・オンロードモデルの中でもエンスージアストの人気が高い車種だ。フロントに3.0リッターV型12気筒エンジンを積み、200km/h超の最高速度を誇った250シリーズは、フェラーリの存在意義であるF1GPの資金源となり、今なお稀代の名車として語り継がれる。

エンツォの確信「V12=250」

1950年代に入り、275 F1、340 F1、375 F1といったGPマシンや、195 インター、212 エクスポート、340 アメリカ、500 F2、375 インディ、250 MM、250 Sといったレーシングマシンを続々とサーキットやロードレースへと送り込んだフェラーリ。すでにこの頃には、フェラーリの名前はレースの世界では絶対的な知名度を持つようになり、エンツォは新たにレース活動の資金を得るため、自らの名を掲げた高性能なロードカーを大量生産し、広く販売することを決断する。

サーキットでは、625 F1や750 モンツァといった、2999ccの直列4気筒モデルも1954年に登場したばかりだったが、カスタマーがより強くフェラーリに望むのは、V型12気筒エンジンを搭載するモデルであることをエンツォは確信していた。排気量は3000cc、すなわちフェラーリの流儀に従うのならば、“250”とするのがベストだと判断。フェラーリが高価なレーシングカーを製作し、F1GPに代表されるレースに参戦するための資金をロードモデルから得るのか、それともロードモデルを売るためにレースでの活躍を広告塔として利用するのか・・・。エンツォの考えは前者だったと言われている。

Ferrari 250 MM(1953)

搭載する3.0リッターV12は最高出力240hpを発揮し、最高速度は250km/hを標榜する250 MM ベルリネッタ。

それを裏づけるひとつの証拠といえるのが、プロダクションモデルの250シリーズが登場する以前にサーキットに投じられたモデルの活躍だ。1952年にはV型12気筒エンジンの排気量を2953ccとした「250 スポルト」をミッレミリアに参戦させ優勝を飾っているし、翌1953年には後のプロダクションモデルと共通の2953cc V型12気筒エンジンとウェーバー製キャブレターというパワーユニットを搭載した「250 MM ベルリネッタ」を投じて、いくつかのレースを制してみせた。

Ferrari 250 GT Europa(1953)

ピニンファリーナの手によるロングノーズ・ショートデッキのボディを架装した250 GT ヨーロッパ。250シリーズでは控え目な最高出力200hpの3.0リッターV12を搭載する。

そしてエンツォは、フェラーリにとって最初のプロダクションモデルたる「250 GT ヨーロッパ」の発売を決断。1953年中には、早くも最初の1台がマラネロの本社工場からカスタマーに向けて出荷されていく。フロントには2963ccのV型12気筒エンジンを搭載し、4速MTを組み合わせた。ホイールベースは2600mmとされ、そのロングノーズとコンパクトなキャビンが印象的なボディは、ピニンファリーナによってデザイン、そして製作された。そのモデルはスポーツカーメーカー、フェラーリに新たな時代が到来したことを世界にアピールするに十分な魅力を秘めていた。

250 GTシリーズは、カスタマーから圧倒的な人気を得て、その中にはプライベーターとしてレースに使用したいという者も多かった。フェラーリにとっては、それに不満を唱える理由などどこにもなく、マラネッロではロードカーと並行してレースカーの製作が行われること、あるいは公道走行も可能なレーススペックの250 GTの製作に多忙な日々が続いていた。

Ferrari 250 GT Berlinetta(1956)

開口面積の少ないフロントグリルと、当時のトレンドを採り入れた前後フェンダーのフィン形状をもつ250 GT ベルリネッタ。後に運動性能を高めるためショートホイールベース化された「SWB」も登場する。

その象徴的な1台としてフェラーリ自身がレースにエントリーするために製作したのが、後にTdF=ツール・ド・フランスの名が掲げられるモデルで、3.0リッターV型12気筒エンジンは240psに強化。ボディはピニンファリーナによってデザインされ、製作はスカリエッティが担当。同時にボディには徹底した軽量化が施されていた。後にこのモデルが“TdFと”呼ばれるようになったのは、1956年から1964年までのツール・ド・フランスを連覇したことに由来する。ちなみに生産台数は、1956年から1959年までの間に94台がマラネッロのファクトリーを後にしている。

この時代の250 GTには、ピニンファリーナのほかにも、ベルトーネやボアノ、エレナなどのカロッツァリアによるボディがベルリネッタ(クーペ)やスパイダー(オープン)など、さまざまなバリエーションで存在する。そして何より忘れてはならないのが、さらに250 GTの運動性能を高めるため、ホイールベースを2400mmまで短縮した「250 GT SWB」の存在だ。SWB=ショート・ホイール・ベースはフェラーリによる正式な車名ではないが、現在では誰もがこのコンパクトで魅力的なボディをもつ250 GTをSWBと呼ぶ。そして、このSWBからはじまる進化によって、スポーツカーレースにおけるフェラーリ黄金期を迎える。フェラーリの強さ、そして存在感は、ここからさらに面白さを増していくことになるのだ。

解説/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)

SPECIFICATIONS

フェラーリ 250 MM

年式:1953年
エンジン:60度V型12気筒SOHC
排気量:2953cc
最高出力:176kW(240hp)/7200rpm
乾燥重量:900kg
最高速度:250km/h

フェラーリ 250 GT ヨーロッパ

年式:1953年
エンジン:60度V型12気筒SOHC
排気量:2963cc
最高出力:147kW(200hp)/6300rpm
乾燥重量:1150kg
最高速度:218km/h

フェラーリ 250 GT ベルリネッタ

年式:1956年
エンジン:60度V型12気筒SOHC
排気量:2953cc
最高出力:176kW(240hp)/7000rpm
乾燥重量:1050kg
最高速度:252km/h

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著者プロフィール

山崎元裕 近影

山崎元裕

中学生の時にスーパーカーブームの洗礼を受け、青山学院大学在学中から独自の取材活動を開始。その後、フ…