10年ぶりに生まれ変わったジープブランドの最高峰、グランドチェロキーを測る

ジープ グランドチェロキー L サミットリザーブの走行シーン
フルモデルチェンジした新型ジープ グランドチェロキー L サミットリザーブの走行シーン。
アメリカンSUVの老舗として根強い人気を誇るジープ グランドチェロキーがフルモデルチェンジした。10年ぶりだけあって、その中身はまさに刷新といえる。3m超のロングホイールベースを誇る新型に試乗した。

Jeep Grand Cherokee L

乗ればすぐわかる想像以上の仕上がり

ジープ グランドチェロキー L サミットリザーブのフロントスタイル
試乗したのは3列シートを採用した「グランドチェロキー L」で、グレードはサミットリザーブ。全長は5200mm、ホイールベースは3090mmの堂々たる巨躯を誇る。

10年間の長きにわたって販売されたグランドチェロキーがフルモデルチェンジした。10年間も売られ続けたのは、言ってしまえば人気が続いたからだ。日本を例に挙げるなら、導入当初よりもモデルライフ終盤のここ数年のほうが販売台数が多く、2020年までラージクラスの輸入SUVカテゴリーにおいてシェアナンバー1だった。プロダクトそのものが鮮度を失わない魅力をもっていたことに加え、ジープの店舗数が順調に増えていったことも理由のひとつだろう。順調に売れるから店の数も増えたとも言えるが。

とはいえ10年といえばライバルは少なくとも1度、タイミングによっては2度フルモデルチェンジをしていてもおかしくない期間だ。乗用車はこの10年でADASやインフォテインメント関連などにおいて劇的な進歩を遂げた。満を持してのタイミングといえる。

ダイムラーからFCAへ、先代から劇的に変化したジープブランド

ジープ グランドチェロキー L サミットリザーブのエンジン
3.6リッターV6自然吸気エンジンは最高出力286ps、最大トルク344Nmと十分な性能を発揮する。使用燃料はレギュラーガソリン。

もう一点、この10年の間に大きな変化があった。2009年春、当時のクライスラーは経営破綻し、フィアットの資本を受け入れた。両社はのちに合併してFCAとなった。再建が始まったばかりの10年に発売されたのが先代のグランドチェロキーだ。先代はダイムラークライスラー時代(1998〜2007年)の名残でメルセデス・ベンツ Mクラスのプラットフォームを用いて開発された。クライスラーはその後しばらくしてFCAの一員となり、現在はフランスのPSAも加わってステランティス連合を形成する。

ではステランティスから生み出された新型グランドチェロキー Lはどういうクルマか。まずモノコックのプラットフォームはオールニュー。海外メディアはこぞってアルファロメオのジョルジオプラットフォームを最適化したものだと報じるが、日本の資料にはそういう記述はない。せっかくグループにエンジン縦置き用プラットフォームがあるのに使わない手はなく、まったく無関係ではないと思われるが、もう少し取材を進める必要がある。ただ新型を試乗していて、ステアリングを切り込んだ直後の挙動にアルファロメオ ステルヴィオっぽさを感じた。もちろんステルヴィオとはトレッドもホイールベースも車両重量も異なり、ステルヴィオほど急激なヨーが立ち上がるわけではないが、向きが変わる一瞬の鋭さに共通点を感じた。

クラシカルで威厳ある顔つきとシンプルなリヤまわり

ジープ グランドチェロキー L サミットリザーブのリヤスタイル
試乗したサミットリザーブはエアサスを装備。タイヤはピレリPゼロが装着されていた。

走りの詳細を伝える前に新型を紹介すべきだろう。まずデザイン。当然ジープブランド各モデルのお約束である7スリットグリルは採用されるが、グリルの角度が逆スラントしているのが新鮮だ。上部の方が前へ出たフロントマスクは往年のジープ ワゴニアを想起させる。グリルにクロームを効果的に用い、クラシカルで威厳ある顔つきが与えられた。一方リヤは実にシンプルですっきり、あっさりしている。

新型は大きくなった。というよりも新型には大小、正確には長短2種類が存在する。2列シートのグランドチェロキーと3列シートのグランドチェロキー L。現時点で日本導入されたのはLの方のみ。いずれ2列シート版も導入されるのは間違いない。Lのホイールベースは3090mmもあるが大径タイヤと台形ホイールアーチのおかげで間延び感はない。

サミットリザーブとリミテッドという2つのグレードが設定された。パワートレインは共通で、3.6リッターのV6エンジン(最高出力286ps、最大トルク344Nm)と8速ATの組み合わせとなる。前者がエアサスなのに対し、コイルサスとなるほか、前者が2列目も3列目も2人掛けで定員6人なのに対し、後者は2列目が3人掛けの定員7人となるのが大きな違い。価格は前者が999万円で後者が788万円。

座る前から“モノがよい”とわかり、座って“やっぱり”となる

試乗したのはサミットリザーブ。運転席に腰を落ち着けると、眼前に素材感を残したウッドパネル、質感の高いレザー、そして金属トリムが織りなすインパネが広がる。中央には10.1インチのタッチディスプレイが鎮座する。サミットリザーブのレザーシートは部分的にキルト処理が施されており、座る前から“モノがよい”とわかり、座って“やっぱり”となる。ヒーター、ベンチレーションはもちろん、マッサージ機能も付く。左右独立した2列目は1列目と同等の快適性が確保される。3列目もシートサイズは緊急用の域を完全に超えている。2列目よりも座面が高く閉塞感がない。にもかかわらず頭上及び足元のスペースも十分。2列目をチップ&スライド(座面を持ち上げつつ前へスライド)できるため、3列目へのアクセスのよさはライバルを明確に上回る。

スタートボタンを押してエンジンを始動。アイドリング時の静粛性は高い。ATセレクターはダイヤル式となった。Dレンジに入れて発進する。2250kgの車重に対し自然吸気の3.6リッターエンジンなので、絶対的な加速力は「必要にして十分」という表現が最も当てはまる。吹け上がりは軽やかで、エンジン音もうまくチューニングされているため、アクセルを踏む度に気持ちよい加速を味わうことができる。8速ATの変速タイミングも適切で、少なくとも1、2人乗車では力不足を感じることはなかった。

本国にはV8も用意される。日本導入される可能性はなくはないが、低いと思われる。代わりに彼らが「4xe」と呼んで各モデルに採用しているPHVモデルがどこかの段階で追加されるはずだ。

オフローダー然とした先代と比べ、ステアリングフィールはソリッドだ

ジープ グランドチェロキー L サミットリザーブの走行シーン
2、3列目の様子を確認できるファムカメラを装備。ダイヤル式となったATセレクタの右に車高調整、左に走行モードスイッチを備えるなど、利便性及び操作性も大幅に進化した。

新型はエンジンサブフレームにフロントアクスルをリジッドマウントしている点が新しい。狙いは軽量化と高剛性化。先代と比べてソリッドなステアリングフィールを感じるのはこれが原因かもしれない。先代は全体にもっとオフローダー然としたフィーリングだった。ステアリングフィールはソリッドだが、乗り心地自体はエアサスモデルらしくソフトだ。と書くつもりでいたら、少し試乗できたコイルサスのリミテッドも、同じではないが似たような乗り心地だった。車高を上下できるエアサスの利点はもちろんあって、標準時のロードクリアランスが212mm、最高で276mmにまで引き上げることができる。乗降時には46mm下がり、高速走行時には自動的に21mm下がる。

4WDシステムは状況に応じてモードを選べるお馴染みのクォドラトラックII。今回は試していないが、このブランドの実績から十分な悪路走破性が確保されているのは間違いない。早く泥や雪にまみれさせてみたいものだ。

REPORT/塩見 智(Satoshi SHIOMI)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
MAGAZINE/GENROQ 2022年 3月号

ジープ ラングラー ルビコン ソフトトップとランドローバー ディフェンダー 90 Sのフロントスタイル

ジープ ラングラーとランドローバー ディフェンダーを試乗して徹底比較したら、人間の生き方まで考えさせてくれた

クロカン4WDの始祖といえるジープ ラングラー。2018年に11年ぶりとなるフルモデルチェンジを果たしたが、その原点ともいえる2ドアソフトトップが日本についに上陸した。おなじく老舗4WDのディフェンダー 90と2台で都内を走らせ比較した。

【SPECIFICATIONS】
ジープ グランドチェロキー L サミットリザーブ〈リミテッド〉
ボディサイズ:全長5200 全幅1980 全高1795〈1815〉mm
ホイールベース:3090mm
車両重量:2250〈2170〉kg
エンジン:V型6気筒DOHC
総排気量:3604cc
最高出力:210kW(286ps)/6400rpm
最大トルク:344Nm(35.1kgm)/4000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前後275/45R21〈265/60R18〉
車両本体価格(税込):999〈788〉万円

【問い合わせ】
ジープ・フリーコール
TEL 0120-712-812

【関連リンク】
・ジープ 公式サイト
https://www.jeep-japan.com/

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著者プロフィール

塩見 智 近影

塩見 智

1972年岡山県生まれ。1995年に山陽新聞社入社、2000年に『ベストカー』編集部へ。2004年に二玄社『NAVI』…