2021年春に上陸したパサート オールトラックに試乗

フォルクスワーゲン パサートのワゴンが売れるワケ。改良新型に乗って再認識したその魅力とは

フォルクスワーゲン パサート オールトラックのフロントビュー
フォルクスワーゲン パサート オールトラックのフロントビュー。
端正なセダンをはじめ、ワゴンにはベーシックなヴァリアントと、アウトドア派のオールトラックの2モデルを揃えるパサート。フォルクスワーゲンは2021年4月に、その改良新型を日本へ導入した。今回はパサートシリーズでもとりわけ人気のあるワゴン、なかでも時代の空気感にフィットするオールトラックに焦点を絞り、モータージャーナリストの小川フミオがその魅力を導きだす。

Volkswagen Passat Alltrack

オールトラックは「フルタイム四駆+ディーゼル」

フォルクスワーゲン パサート オールトラックのサイドビュー
2021年4月6日に日本での販売がスタートした改良新型フォルクスワーゲン パサート。今回、モータージャーナリストの小川フミオは、ワゴンボディのクロスオーバーモデル「パサート オールトラック」に試乗した。

フォルクスワーゲン パサート オールトラックがマイナーチェンジを受け、2021年4月6日に発売された。念願の試乗ができたのは7月中旬。エモーショナルなスポーツカーの対極にあるといえる、機能主義が特徴のパサートのラインナップにあって、唯一フルタイム4WDであるのと同時に、個性的なスタイリングが光るのがオールトラックだ。

日本ではディーゼルエンジン搭載で登場のフォルクスワーゲン パサート オールトラックTDI 4MOTION(以下オールトラック)。今回は、フロントとリヤのデザインの一部が変更されるとともに、ギヤボックスが従来の6速から7速湿式ツインクラッチ(DSGと呼ばれる)に変更されたのが注目点だ。

ディーゼル一本に割り切った理由

フォルクスワーゲン パサート オールトラックのメーターディスプレイ
日本に導入されているフォルクスワーゲン パサート オールトラックは、2.0リッター直4ディーゼルターボのみのラインナップ。低回転域からの豊かなトルクと、優れた経済性が魅力である。

オールトラックは、ベースになったヴァリアント(ステーションワゴン)に対して全長は同一の4785mm、全幅は25mm大きい1855mm、全高は25mm高い1535mmだ。そこにヴァリアントTDIと共用の1968cc 4気筒ディーゼルユニットを搭載。

パサートシリーズでは、(新設定の)1.5リッターガソリンエンジン仕様と、オールトラックと共通の2.0リッターディーゼルエンジン仕様が選べる。オールトラックはディーゼルのみだ。

上記のモデル設定の理由として、日本法人のフォルクスワーゲン グループ ジャパンでは「ロングツーリングに行きたくなるというオールトラックのイメージを鑑みて、燃費にすぐれるディーゼルエンジンとの組合せを選択しました」(広報担当者)としている。

オールトラックの燃費は、リアルな数値が表示されるWLTCモードでリッター15.0km。余裕あるボディサイズで、車重1740kgあるクルマとしては、けっして悪くない数値だと思う。

エンジンの最高出力は140kW(190ps)/3500〜4000rpm、最大トルクは400Nm/1900〜3300rpm。数値から期待できるとおり、低回転域からしっかりと力が出て、とりわけ低い回転域をキープするような走りで扱いやすい。

ワゴンの使い勝手と4WDの安心感を兼備

フォルクスワーゲン パサート オールトラックのラゲージルーム
フォルクスワーゲン パサート オールトラックのラゲッジルーム容量は639リットルから最大1769リットルと広大。余計な凹凸のない荷室空間は使い勝手に富む。

オンロードを走る車両をベースに開発されたオールトラックだけに、本格的なオフロードでの走破性がどれだけあるのか未知数であるものの、たとえば専用タイヤを履いたうえでスキーリゾートなどを丁寧に走るときなど、操りやすく安心感が高い。

これまでのオールトラックは、実際にスノータイヤを履けば雪道での走破性が高かった。とくに「TDI 4MOTION Advance」には電子制御ディファレンシャルロックも搭載されるので、さらに安心して走れそう。

夏に雪の話をするのもなんだけれど、荷室は広いし、ステーションワゴンをベースとしているため全高が1535mmしかなく、ルーフラックを使って荷物を積むのも比較的容易。ウィンタースポーツなどの趣味をもつひとには、使い勝手がよい。

ドイツ的な機能美をもつ良質ワゴン

フォルクスワーゲン パサート オールトラックのリヤシート
明るくて広々としたフォルクスワーゲン パサート オールトラックのリヤシート。良質なクルマの「ツボ」をしっかりとおさえて作られているというのが、使えば使うほどに分かってくる。

白状しておくと、私はそもそもパサート ヴァリアントが好きである。容量639リットルと大きなサイズの荷室を持つボディは、まさにドイツ的と言いたい機能をもつゆえの美しさを感じさせる。ボディのラインはクリーンで、一部のフランス車のような“けれん味”とは皆無。パサートの直球勝負を私はおおいに気に入っている。

さらに、タクシーに使ってもいいぐらい広い後席スペースと、乗降の際、頭をぶつけにくいまっすぐ水平に近いドアの上端開口部とでもって、キャンプとかが好きなファミリーには最強の1台だろう。あるいは、フェラーリとパサート ヴァリアントの組合せなんて、なかなか洒落ているかもしれない。グループ企業としてランボルギーニかな。

“腰から下”にアクティブ感をプラス

フォルクスワーゲン パサート オールトラックのフェイシア
パサート オールトラックのコクピット。シンプルで操作性に優れたダッシュボード周りの設計は、フォルクスワーゲン車に共通する美点。

オールトラックは、あまりセールスがかんばしくないという我が国のステーションワゴン市場において、SUV的な要素を持つクロスオーバーなので例外的ともいえる人気を持つ。

すこし車高を上げて、かつフロントバンパーから下をはじめ、ホイールアーチのオーバーフェンダーなどにクラッディングと称される合成樹脂製のカバーをつけることで、スポーティなオフロードテイストが加味されている。

このコンセプトを最初に採用したのは、スバル アウトバック(1995年に初代登場)で、最新モデルが北米市場に導入された際、デザイナーは「クラッディングをデザインするにあたって参考にしたのはトレッキングシューズ」と語った(最新のレガシィアウトバックは日本未導入)。

つまり、スポーツウェアばやりの昨今、とくにこの手のデザインがもてはやされても不思議ではない。現行車において同様のモデルは、メルセデス・ベンツ(Eクラス オールテレイン)やボルボ(V60及びV90 クロスカントリー)が思いつく。

北米で「ステーションワゴンはちょっとジジむさい」と敬遠され、若いひとたちがSUVに流れたという経緯がある。そんなひとにもオールトラックは、手に入れたあと生活の楽しみが拡大しそうな期待を抱かせるので、けっして年寄りっぽいイメージはないだろう。

時代の空気にぴったりなオールトラック

フォルクスワーゲン パサート オールトラックのフロントビュー
フォルクスワーゲン パサート オールトラック。スマートカジュアルな装いの足元に、ちょっとスポーティなシューズを合わせたような、軽やかなスタイルが時代の空気感にぴったりと合っている。

あたらしいオールトラックは、ボタンのひと押しで同一車線内全車速運転支援システムを作動させる「トラベルアシスト」をはじめ、フォルクスワーゲンが「IQ.LIGHT」と呼ぶLEDマトリックスヘッドランプ、それに新意匠のフロントグリルやエアダム、新ロゴを配したリヤゲートなどが採用された。

さらに、eSIMを搭載しているので、常時コネクテッド(Wi-Fiで外部と接続)の状態でインフォテインメントシステムが使える9.2インチモニター使用の「ディスカバープロ」も。オンラインで車載地図のデータ更新を行うのも特徴としてあげられている。

パサート ヴァリアントで運転を楽しみたいなら、はっきりいって、ガソリンモデルを勧めたい。一方、さきに触れたように、長い距離を走って夏はキャンプやさまざまなアウトドアアクティビティ、冬もウィンタースポーツに行くのが好きだというひとなら、オールトラックという選択はおおいにアリ。

フォルクスワーゲン パサート オールトラックのリヤビュー
フォルクスワーゲン パサート オールトラックの日本仕様は、ベーシックモデルと、豪華仕様の「Advanced」という2グレード構成。サーフボードホルダーやルーフボックス、バイシクルホルダー、ラバーマットといったアクティビティ系の純正アクセサリーもラインナップしている。

ゴルフ場のクラブハウスに乗りつけるにも、スポーティな雰囲気のオールトラックは、なんというかオシャレである。Gショックやアップルウォッチが、ロレックスやIWCやウブロといったスポーティな精密時計とは別の文脈で評価されるのとすこし似ているような気がする。

パサート オールトラックのモデル展開は、「TDI 4MOTION」(552万9000円)と、「TDI 4MOTION Advance」(604万9000円)。後者は、アラウンドビューカメラ、駐車支援システム、ヘッドアップディスプレイ、ナパレザー張りのシート、アダプティブシャシーコントロール(DCC)、電子制御ディファレンシャルロック、それに17インチに対して18インチリム径の235/45R18タイヤが標準装備となっている。

REPORT/小川フミオ(Fumio OGAWA)
PHOTO/峯 竜也(Tatsuya MINE)

【SPECIFICATIONS】
フォルクスワーゲン パサート オールトラック TDI 4MOTION Advance
ボディサイズ:全長4785×全幅1855×全高1535mm
ホイールベース:2790mm
車両重量:1760kg
エンジン:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
総排気量:1968cc
最高出力:140kW(190ps)/3500-4000rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1900-3300rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前ベンチレーテッドディスク 後ディスク
タイヤサイズ:前後245/45R18
車両本体価格(税込):604万9000円(テスト車:626万9000円)

【問い合わせ】
フォルクスワーゲン カスタマーセンター
TEL 0120-993-199

【関連リンク】
・フォルクスワーゲン 公式サイト
https://www.volkswagen.co.jp

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