ポルシェが放つ2台の「GTS」、911 カレラ GTSと718 ケイマン GTS 4.0を公道で味わう

選ぶべき「GTS」はどちらか? ポルシェ 911 カレラ GTSと718 ケイマン GTS 4.0を比較試乗!

ポルシェ 911 カレラ GTSと718 ケイマン GTS 4.0のツーショット
ポルシェ 911 カレラ GTSと718 ケイマン GTS 4.0のツーショット
現在のGTSとGTS 4.0はともに911と718の最高峰の一歩手前、つまりターボを除けばGT3やGT4のひとつ格下のグレードである。サーキット外におけるもっともファンなスポーツグレードは今どのような位置づけにいるのか冬の山道で考察した。

Porsche 911 Carrera GTS×718 Cayman GTS 4.0

GTSのネーミングが意味するもの

ポルシェにおける「GT」はもともと、モータースポーツに直結する特別な称号だった。GTSを初めて名乗った904 カレラ GTSも、当時のGTレース規定を意識したホモロゲモデルだった。

しかし、今回の2台を含む現代のGTSは、基本的にモータースポーツとの関連は意識されていない。現代のGTSの元祖は初代カイエンで、同GTSは専用チューンのV8 NAエンジンを積み、シャシーも専用だった。とくにシャシーは専用ワイドフェンダーを与えるなど、最上級のターボ以上に凝った内容だった。こうして「最上級のNAポルシェ」として復活したGTSだったが、NAが消えつつある現在は、GTSも大半がターボ車となっている。

というわけで、今のGTSの本質は過給器の有無ではない。最上級シャシーにあえて控えめなエンジンを積んで、比較的後発グレードとして追加される「熟成されたアシのいいヤツ」といったところか。実際、昨2021年末に上陸した新しい911 カレラ GTSも国内受注開始は昨年の6月で、992型自体のそれから2年半が経過している。718 ケイマンも、最初のGTSはベースと2年ほどのラグがあった。

専用チューンを施した特別な911 カレラ

ポルシェ 911 カレラ GTSの走行シーン
試乗した911 カレラ GTSはリヤアクスルステアリング(約38万円)とポルシェセラミックコンポジットブレーキ(約162万円)を装備。どちらも購入時には積極的に選択しておきたいオプションだ。

新しいカレラ GTSもまた、エンジンとシャシーは専用チューンとなる。エンジンの基本設計はカレラ系と共通の3.0リッターターボだが、カレラ Sより30ps高い480psを絞り出す。これよりパワフルな911といえば3.8リッターの“ターボ”となるから、過給器がついたとはいえ「ターボの次にパワフル」という序列はかつてと変わっていない。

PASM付きサスペンションは10mmローダウンされているが、それだけではないのが、この992型GTSの特徴である。フロント20インチ、リヤ21インチのタイヤサイズはターボに準じており、ホイールもターボ同様のセンターロック。リヤにヘルパースプリングを備えるのもターボ流だ。さらにはブレーキもターボスペックのものが備わる。

操る楽しさを満喫できるショートストローク化された7速MTを採用

もうひとつ注目すべきは、試乗車の変速機が7速MTだったことだ。992型のMTは個人的に初体験だったが、GTSのそれは専用にショートストローク化されている。

そのパワートレインは洗練の極みだ。クラッチは昨今のホットハッチ程度の軽さであるのに、ミート感覚もしっかり伝わってくる。レバーも確実なゲート感があるのに操作力そのものは軽い。ポルシェの7速MTといえば少なくとも操作感覚はあまり冴えなかった記憶があるのだが、この最新7速MTはまるでちがう。

エンジンもパワフルなうえに濃厚なドラマを演じる。本格的にトルクが立ち上がるのは2000-2500rpmからで、そこから回転上昇とともにトルクとレスポンスを積み増していく。5000rpmあたりからいよいよ本領発揮。突き刺すようなレスポンスとサウンドが7500rpmまで上り詰めていくのだ。標準装備のスポーツエキゾーストも専用チューンで、防音材も一部省略されたことで、そのメタリックサウンドもさらに快音となっている。さらに驚くのは、ここまでハイチューンなターボながら、過給ラグめいた遅れが体感的には皆無なことだ。これを「NAです」と渡されていたら、私はそれを間違いだと指摘する自信は、はっきりいってない(涙)。

カレラ GTSは乗り心地も驚異的に素晴らしい。ノーマルモードではまるでサルーンのようなストローク感で、少なくとも公道レベルなら、ほぼどんなコースでも480ps/570Nmを御し切ってしまう。スポーツモードはさらに俊敏だが、しなやかな乗り心地は失われない。

試乗車にはオプションの電子制御スタビライザーPDCCとリヤアクスルステア(カレラ GTSでは同時装着しかできず、合計91万円)が装着されていたこともあってか、アマチュアの私が乾いた舗装路でテールをムズムズさせるのは不可能に近い。こちらは存分に振り回してやったつもりでも、実際はカレラ GTSの手の上で遊んでいるだけだ。

911と718、そのヒエラルキーは崩れないが・・・

ポルシェ 718 ケイマン GTS 4.0の走行シーン
911 GTS同様にこちらもPCCB(約111万円)を装備。制動力は抜群だ。なおタイヤは両車とも専用のピレリPゼロを装着していた。

そんなカレラ GTSと比較すると、718 ケイマン GTS 4.0はとにかくヒラヒラと軽快である。単独だと素晴らしく安定したミッドシップにしか思えないし、乗るたびに「911に迫ったか?」と思うのだが、こうして同時直接比較すると、ケイマンは良くも悪くも明らかに“尻軽”なのだ。そこには現時点では911の設計が新しいこともあろうが、本質的はヒエラルキーを絶対に崩さない繊細なクルマ造りである。どの世代でも乗れば911が兄貴分。それが逆転することは決してない。

ただ、ケイマンをカジュアルポルシェとして見れば、これほど振り回して楽しいミッドシップはほかにない。間違いなく世界でももっともバランスの取れたミッドシップである。乗り心地もカレラGTSより少しだけ荒っぽいが、けっしてガチガチではない。荒れたワインディングでもしっかりと接地感を伝えてくるのがいい。

ご承知のように、ケイマン GTS 4.0のエンジンはNAフラットシックスだ。718 ケイマンは4気筒になったから“718”のはずなのに、このクルマは6気筒、しかもフェードアウトするはずだったNAを積む。反則にもほどがあるが、ときに自分たちの原理原則をスルーしてでも、ファンが素直に望んでいる商品を造ってしまうのもまた、ポルシェのもうひとつの顔なのだ。

突き刺すようなレスポンスとサウンド。ターボにせよNAにせよ快感は同等

試乗を終えた筆者は「一般公道で乗っているだけでも十二分に溜飲を下げられるのが、現代の『GTS』のコンセプトである」と語る。その一方でそのポテンシャルを公道では味わい尽くせないのは残念とも。

取材前、エンジンフィールだけはNAのGTS 4.0の圧勝だろうと思っていたがさにあらず、カレラ GTSのターボも負けず劣らず素晴らしい。しかし、トップエンドでより憂いのある“泣き”が入るサウンドだけはNAに軍配を上げたい。日本が誇るアイシン製6速MTの操作感も、最新7速MTよりゴリっと重めだが、そのリアルな手応えはいまだに“名機”といって差し支えない。

今回の取材は東名高速から伊豆や箱根を数百km走った。役物ポルシェだからクローズドサーキットでも素晴らしい走りを見せるだろう。しかし、こうして一般公道で乗っているだけでも十二分に溜飲を下げられるのが、現代の「GTS」のコンセプトである。ひとつだけ不満をあげるとすれば、どちらも2速で130~140km/hまで伸びるハイギヤードゆえ、それぞれ美味しいシフトフィールを味わうスキが、日本の公道では非常に少ないことである。

REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/平野 陽(Akio HIRANO)

ポルシェの車名解説

ポルシェのモデル名の謎。様々な意味が与えられた「モデル名」と「サブネーム」 【Part.2】

ポルシェの全モデルには正式名称と社内型式番号が存在し、その数字と文字列にはそれぞれ意味がある。ポルシェ独自の神秘的なコードを詳らかにする第2弾は、「9」で始まる3桁のナンバーが定着した経緯、そして「モデル名」や「サブネーム」の意味を紹介しよう。

【SPECIFICATIONS】
ポルシェ 911 カレラ GTS
ボディサイズ:全長4520 全幅1850 全高1303mm
ホイールベース:2450mm
車両重量:1500kg(DIN)
エンジン形式:水平対向6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2981cc
ボア×ストローク:91×76.4mm
圧縮比:10.2:1
最高出力:353kW(480ps)/6500rpm
最大トルク:570Nm(58.1kgm)/2300-5000rpm
トランスミッション:7速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:ベンチレーテッドディスク
ディスク径:前408 後380mm
タイヤ&ホイール:前245/35ZR20(8.5J) 後305/30ZR21(11.5J)
最高速度:311km/h
0-100km/h加速:4.1秒(スポーツクロノPKG装着)
CO2排出量:234g/km
消費税込価格:1868万円

ポルシェ 718ケイマン GTS 4.0
ボディサイズ:全長4405 全幅1800 全高1285mm
ホイールベース:2475mm
車両重量:1440kg(DIN)
エンジン形式:水平対向6気筒DOHC
総排気量:3995cc
ボア×ストローク:102×81.5mm
圧縮比:13:1
最高出力:294kW(400ps)/7000rpm
最大トルク:420Nm(42.8kgm)/5000-6500rpm
トランスミッション:6速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後マクファーソンストラット
ブレーキ:ベンチレーテッドディスク
ディスク径:前後350mm
タイヤ&ホイール:前235/35ZR20(8.5J) 後265/35ZR20(10.5J)
最高速度:293km/h
0-100km/h加速:4.5秒(スポーツクロノPKG装着)
CO2排出量:246g/km
消費税込価格:1113万円

【問い合わせ】
ポルシェ カスタマーケアセンター
TEL 0120-846-911

【関連リンク】
・ポルシェ 公式サイト
http://www.porsche.com/japan/

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