目次
BMW & MINI Racing
BMWとMINIによるレースの魅力をハードウェアから深掘りする
「BMW & MINI Racing」は、BMWの入門用レーシングカーである「M2 CS Racing」と、MINI ジョンクーパーワークス(JCW)及びクーパーS(CPS)のワンメイク用レースカーが混走する、新しい形のワンメイクレースだ。
コストを落としながらレース性を高めるタイヤの使用本数制限や、2ヒート制レースにおけるリバースグリッドの採用など、そのシステムの面白さも含めて前回はその概要をレポートしたが、今回は各カテゴリーにおけるマシンの解説を、さらに深掘りしてみよう。
【M2 CS Racing】
高出力な伝統の直列6気筒エンジンを搭載するレーシングカー
M2 CS Racingは先代2シリーズクーペのM仕様、さらにその限定車である「M2 CS」(CSはクラブスポーツの意)をベースに作られたワンメイクレースカーだ。
M2 CSがベースとなっていることからもわかる通り、フロントコンパートメントに納められるエンジンはBMW伝統の直列6気筒ツインパワーターボ。組み合わされる7速DCTは、モータースポーツ専用のソフトウェアで制御されている。
3.0リッターの排気量を持つ「S55」ユニットは最もハイパワーな状態で450ps/6250rpm、550Nm/2350〜6250pmのパワー&トルクが発揮できるようになっており、これを「パワースティック」と呼ばれるメモリースティックによって、段階的に制御することが可能となっている。
レースに特化した足まわり&パワートレイン
こうした制御を行う理由は各国のレースカテゴリーに合わせて性能調整を手早く行うためだ。ちなみに日本の「M2 CS Racing Series」では、高出力な450psあるいは365psのバージョンで参戦可能だ。
そして5月15日のラウンド2(富士スピードウェイ)では、さっそく1ヒート目の優勝車両のパワーを1段階絞る(450ps→365psに減少)ことによって、オーガナイザーがレースの展開を拮抗化させていた。
性能調整をウェイト搭載ではなく出力調整で行うことにより、安全性を確保しながらゲーム性を高めたのはなかなかに興味深い試みだ。確かに富士のようなハイスピードコースでのパワーダウンは大きなハンディだが、たとえばこれがウェットレースになった場合などは、むしろその方が全開率が上がる場合もあり、ウェイト搭載によるドライビングの難しさをアマチュアドライバーに強いるよりもずっと安全にレースを楽しむことができる。もちろんパワーのないマシンで勝つには相応のテクニックが必要となるため、M2 CS Racingのコンセプトにも符号する。
本格的レーシングカーの中身はシンプルだが頑強
駆動方式は、当然ながらフロントエンジン・リヤドライブ(FR)。そのサスペンション形式は市販車に準じてフロントにダブル・ジョイント式のストラット、リヤには5リンクが奢られている。
肝心なタイヤは、ダンロップ製スリックタイヤ(260/655R18)のワンメイク。そのトラクションは、機械式LSDによって路面へと伝えられる。対してブレーキシステムには、Alcon製のキャリパーシステム(フロント6pot/リヤ4pot)と2ピースローターを装着。その速さに対して耐久性とストッピングパワーを大きく向上させている。
ドライバーズエイドとしては専用チューンを施したABS/DSCが標準装備され、なおかつMDM(Mダイナミックモード)を使うことも可能だ。また量産車には装着されていないFDSモード切替スイッチが装備されており、DME、DCTおよびEPS (電動パワステ) のセッティングをウェット用、ドライ用に変更可能だ。3種類のトラクションセッティング(DSCオン/MDM/DSCオフ)と組み合わせることで幅広いセッティングが可能となり、様々な路面状況に対応できる。
メーターはAIM製ダッシュロガーが搭載され、車両のシステム管理だけでなくドライバーの走行データもロギングが可能。小径ステアリングにはウインカーや無線用ボタン、ピットレーンリミッターやドリンク用ボタンが集約され、メインスイッチやライト類、室内の温度を保つエアコン用のスイッチはセンターパネルにひとまとめにされる。
ドライビングに集中できる、まさにコクピットというべき室内
車両重量は1500kgと、レーシングカーとしてはやや重たい。しかし過激な軽量化を行わないのには、きちんとした理由がある。それは、エントラントのコストを軽減するため。市販車で標準装備となるカーボンパーツはルーフのみが踏襲されており、フロントスプリッターやリヤディフューザー、リヤスポイラーはFRP製。オプショナルパーツとしてはカーボン製ボンネット、同フロントフェンダー、同リヤトランクが用意されるに留まる。
こうすることで車両価格だけでなく、クラッシュ時のパーツ交換コストをも抑えることができるのだ。ワンメイクレースでは、こうした配慮がとても大切である。
こうしたマシンメイクによってM2 CS Racingは、入門用と呼ぶにはもったいないほどエキサイティングな操縦性と、高い安全性を兼ね備えたレーシングカーとなった。ニュルVLNレースやスーパー耐久、GTレースへの参戦を目指すジェントルマンドライバーや、プロドライバーとしてのステップアップを目指す若手ドライバーにとっては最適なワンメイクレーサーだと言えるだろう。
M2 CS Racingの購入が可能なBMW M MOTORSPORT DEALER 株式会社モトーレン東都
【MINI JCWクラス】
軽量なMINIのキャラクターを活かしたコーナリングが魅力
「MINI CHALLENGE」は、2002年にイギリスでスタートしたワンメイクレースのフォーマットを、日本におけるMINIのオーソリティであるジオミックモータースポーツがそのまま日本に導入したスプリントレース。
よってその車両も、本国のMINIチャレンジで使われる「New MINI F56 JCW チャレンジカー」そのものが使われている。
耐久性を考慮してノーマル準拠だが専用ECUを採用するエンジン
チャレンジカーの成り立ちは、これぞピュア・レーシングカーといえる内容だ。
エンジンは市販車のJCWに搭載される2.0リッター直列4気筒ターボ「B48A」ユニットをそのまま使用する。耐久性も考慮して出力は約240psに抑えられてはいるが、吸気系に専用インテークシステムと大型インタークーラー、排気系にキャタライザー付きのレーシングエキゾーストシステムを装着し、これを専用ECUでマネージメントすることでそのレスポンスを向上している。なおかつそのトランスミッションは、点火カット機能付きの6速シーケンシャルとなっている。
ソリッドな仕上がりはまさにスプリンター
ボディはロールケージで安全性を確保しながらも、その重量は約1070kgと非常に軽量。さらに専用のワイドボディキットでトレッドを拡大しながら、その足下には215/625R17インチのダンロップ製スリックタイヤを履かせている。
さらにその足まわりにはNitron製の3WAYダンパーが奢られ(スプリングはEibach製)、より本格的なセッティングが可能。ブレーキはリア荷重の少ないFWDレイアウトを考慮してリアブレーキこそ純正システムだが、フロントにはAlcon製の4ピストンキャリパー&ベンチレーテッドディスクを装着し、バランサーによって前後配分を調整することができる。ちなみにABSやDCT(トラクションコントロール)といったドライバーズアシストはない。
この様子からもわかる通りJCWチャレンジカーは、極めてソリッドなレーシングカー。M2 CS Racingがジェントルマンドライバーをも想定したハイエンドなGTレーサーだとすれば、こちらは完全なスプリンターだと言えるだろう。よってストイックにテクニックを磨きながらステップアップを目指すドライバーにとっては、うってつけのレーシングカーだと言える。
【MINI CPSクラス】
ナンバー付きの気軽さが魅力だがレースは真剣
対してクーパーSクラス(以下CPS)は、市販車のCPSをベースに安全装備を施したナンバー付きの「Nゼロ」車両である。
そのコンセプトはMINIがもたらす走りの楽しさを、より手軽に楽しむ参加型レースであり、ミニマルな装備としては市販車のCPSにロールバーとバケットシート、牽引フックと4点シートベルトを装着するだけで、ホモロゲーションを取得することができる。
改造範囲はNゼロ車両の性格から車検対応が大前提だが、そのなかでもMINIならではの「カスタムの楽しさ」を味わえる仕組みとなっている。
改造範囲を絞ったNゼロ車両
足まわりはサスペンション(指定部品)とブレーキが変更可能で、タイヤはダンロップのスポーツラジアル「ディレッツァ ZIII」が指定となっている。
エンジンはマフラーの交換が可能で、ブーストアップによって出力向上が見込めるターボ車の特性から、コンピューターはオフィシャルが封印。AIM製データロガー(SOLO2 DL)を指定部品とすることでドライバーの運転技術向上を促しながら、同時に車両情報をロギングして車両の公平性を保っている。
さらに最低重量をドライバー込みで1300kg以上と定めることにより、大幅な軽量化をも抑制。マシンの性能ではなくドライバーの技術で楽しめる、ユーザーフレンドリーなホビーレーサーである。
REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/ビー・エム・ダブリュー株式会社
BMW & MINI 第3戦リザルト
M2 CS Racingクラス
Pos | No. | Driver | Team | Lap | Time |
1 | 8 | 河口まなぶ | LOVECARS!BMW | 12 | 22’37.637 |
2 | 101 | 高橋裕史 | BMWリーガルトップレーシング | 12 | 22’39.265 |
3 | 18 | 奥村浩一 | BRP★Toto BMW M2 CS Racing | 12 | 22’41.681 |
JCWクラス
Pos | No. | Driver | Team | Lap | Time |
1 | 9 | 平田雅士 | IDI 平田空調 RH坂井 F56JCW | 12 | 23’55.568 |
2 | 17 | 鈴木建自 | BRP★F56 JCW EVO | 12 | 23’56.275 |
3 | 57 | 小平直紀 | TEAM ABE MOTORS F56 JCW | 12 | 24’52.682 |
CPSクラス
Pos | No. | Driver | Team | Lap | Time |
1 | 77 | 古田聡 | ガレージピットハウスF56S | 11 | 23’41.259 |
2 | 52 | 森岡史雄 | MINI Kofu BIG LOVE. F56CPS | 11 | 23’46.313 |
3 | 32 | 川副健太 | IDI アウティスタ★F56CPS | 11 | 23’41.259 |
BMW & MINI 第4戦リザルト
M2 CS Racingクラス
Pos | No. | Driver | Team | Lap | Time |
1 | 18 | 奥村浩一 | BRP★Toto BMW M2 CS Racing | 9 | 23’28.687 |
2 | 8 | 河口まなぶ | LOVECARS!BMW | 9 | 23’58.328 |
JCWクラス
Pos | No. | Driver | Team | Lap | Time |
1 | 19 | 木村建登 | BRP★木村金属 F56 JCW EVO | 9 | 23’49.409 |
2 | 17 | 鈴木建自 | BRP★F56 JCW EVO | 9 | 23’52.402 |
3 | 500 | 中島功 | 5ZIGEN SHINSEI K.K. MINI | 9 | 23’53.168 |
CPSクラス
Pos | No. | Driver | Team | Lap | Time |
1 | 32 | 川副健太 | IDI アウティスタ★F56CPS | 9 | 24’43.702 |
2 | 5 | 面野一 | M.A.R.T. F56CPS | 9 | 24’45.292 |
3 | 77 | 古田聡 | ガレージピットハウスF56S | 9 | 24’48.844 |
EVENT
BIG LOVE DAY by MINI @ 富士スピードウェイも併催
レーシングコースで「BMW & MINI Racing」の第2ラウンドが行われる一方、イベント広場ではMINIファンの集う「BIG LOVE DAY」も併催。四駆走行フィールドや愛車コンテスト、ベイビーカー試乗エリア、気球体験、マルシェ等、多彩なプログラムが来場者を楽しませていた。
かたやガチンコの真剣バトル、こなたピースフルで牧歌的な野外イベント。相反するふたつのムードを一度で味わえる不思議な空間は、ピクニック気分で草レースを楽しむファミリーで賑わう英国のサーキットを彷彿させる。「柔」と「剛」の顔をあわせもつMINIだからこその、幅広いファン層を思わせる1日だった。
REPORT/三代やよい(Yayoi MIYO)