ラグジュアリーSUVでもスポーティは必須か? アルピナ XB7 vs レンジローバースポーツ SVR

BMW アルピナ XB7とレンジローバースポーツ SVRを比較試乗! 2000万円超の高級SUVに求められるハイパフォーマンスの解釈

ランドローバー レンジローバースポーツ SVR(左)とBMW アルピナ XB7のフロントスタイル
活況を呈しているラグジュアリーSUVカテゴリーにアルピナが参入。そのパフォーマンスを、ライバルの1台であるランドローバー レンジローバースポーツ SVRと比較試乗して確認した。
もはやハイパフォーマンスを誇るSUVは珍しい存在ではなくなった。しかし、ひと口に速さと言っても、そのテイストは大きく異なる。名門アルピナとランドローバーが生み出すフラッグシップは、それぞれどのような“速さ”を見せてくれるのだろうか。

BMW Alpina XB7 × Land Rover Range Rover Sport SVR

伝統のアルピナマジックは健在か?

ランドローバー レンジローバースポーツ SVRとBMW アルピナ XB7の走行シーン
ランドローバー レンジローバースポーツ SVRとBMW アルピナ XB7。名門アルピナが初めて放つ大型SUVと老舗4WDメーカーのランドローバーが、それぞれ自信を持って提示するラグジュアリーSUVの完成形だ。

もはや一過性のブームではなく、クルマのカテゴリーとして完全に定着した感のあるSUV。そのモデルラインナップが増殖するスピードは驚くばかりで、とりわけ昨今はハイパフォーマンスSUVの充実振りが目を惹く。ここで紹介するアルピナ XB7もその一例だが、まるで熟成されたワインのように深い味わいを備えたアルピナのことを“ハイパフォーマンスSUV”のひと言で片付けるのは気が引ける。せめて「ラグジュアリーなハイパフォーマンスSUV」と説明したくなるのが、創業者のブルカルト・ボーフェンジーペン氏をインタビューしたことのある私の率直な思いである。

もっとも、XB7のライバルになりうるモデルは決して多くない。例えばベントレーのベンテイガスピードはその最右翼だが、XB7より価格が800万円以上も高く、同じクラスとして比較するには無理がある。ただし、同じイギリスのレンジローバースポーツ SVRであれば、価格差は400万円弱と急接近。ボディサイズはXB7のほうがひとまわり大きいが、それでもエンジンのパフォーマンスや動力性能に決定的な差は見当たらない。というわけで、今回はレンジローバースポーツ SVRとの比較テストでXB7の実力を再評価することとした。

まずは一般道と高速道路で2台を乗り比べる

レンジローバースポーツ SVRの走行シーン
最近フルモデルチェンジを受け、旧型となったレンジローバースポーツだが、SVRとなれば話は別である。

実は、このレンジローバースポーツ SVRは2ヵ月ほど前にも試乗したことがあるが、そのときに比べると路面からのゴツゴツ感を明確に伝えるようになっていることにまず驚いた。強烈なダンピングを備えた足まわりのその先に、踏面がいかにも硬いタイヤを履いているという印象だったのだ。ただし、これだけの大入力を受け止めてもボディがミシリともいわないばかりか、嫌な微振動を一切伝えない点はさすがというしかない。したがって、乗り心地としては確かに硬いが、嫌な硬さでもなければ安っぽさ感じることもなかったことを申し添えておきたい。

対するXB7の足まわりは、オプションの23インチタイヤが装着されていたにもかかわらず、路面から伝わる細かな振動を見事に吸収するしなやかさを備えていた。これは、ストローク量でいうと2〜3cmほどの振動をアルピナのサスペンションが巧みに“いなして”しまうからにほかならない。しかも、それ以上の振幅に対してはダンパーが効果的に働き、ボディをフラットな姿勢に保ってくれる。この“しなやかさ”と“ダンピング”の絶妙なバランスこそ、アルピナ伝統のマジックと呼ぶべきもの。ただし、振動の周期が素早いときのみ足まわりが微妙にバタつく傾向も認められた。これについては、スタンダードの21インチに履き替えた影響も確認してみたいところだ。

しなやかさとダンピングの絶妙なバランス

BMW アルピナ XB7のエンジン
パワフルだが決して過激ではなく、あらゆる回転域で溢れるほどのトルクを生み出すXB7のパワートレイン。回転が上がるにつれて気持ちの良いエキゾーストを発する。

続いてワインディングロードにステージを移したところ、当初は足まわりが“硬い”と感じたレンジローバースポーツ SVRの狙いがはっきりと理解できた。着座位置が高いせいもあって、XB7よりもずっと腰高に感じられるSVRだが、コーナーを攻めてもロールは最小限に抑えられているため、姿勢変化に伴う不安をほとんど覚えることなく、小気味いいステアリングレスポンスを味わえるのだ。また、取材日はあいにくの雨模様で路面はぐっしょりと湿っていたのに、スロットルペダルを積極的に踏み込んでもリヤのスタビリティが微塵も損なわれなかったのも立派といえるだろう。

ただし、弱点がないでもなかった。ハイペースでワインディングロードを走り抜けてもボディの姿勢変化がごく小さいのは、足まわりにアンチノーズダイブ効果が盛り込まれている恩恵だろうが、このため荷重移動を積極的に行ってもボディがフラットな姿勢を守り続け、どのタイヤにどの程度の荷重がかかっているかを感覚的に捉えるのが難しい。しかも、ステアリングを通じて得られるインフォメーションが乏しいので、タイヤのグリップ限界の何割程度まで達しているかが判断しにくい。このため、かなりのマージンを残してコーナリングしなければならなかったのは、なんとももどかしかった。

エンジンのパワフルさは甲乙つけがたい

レンジローバースポーツ SVRのエンジン
レンジローバースポーツ SVRの5.0リッターV8はスーパーチャージャーを装着し575psを発揮。エアダクトのあけられたボンネットはカーボン製だ。

一方のXB7の足まわりは、前述のとおり数cmまでの領域であればしなやかにストロークしてくれるため、荷重移動の様子を捉えるのは容易。しかも、ステアリングの感触は洗練されているのに必要な情報はしっかり伝わってくるので、SVRとは違ってタイヤのグリップ限界に近づいていく過程を正確に把握できる。このため、ウェットコンディションでもタイヤの性能をかなりの部分まで引き出せ、深い満足感を味わうことができた。

SVRもXB7もエンジンのパワフルさでは甲乙つけがたかったが、回転フィーリングの滑らかさではXB7のほうが一枚上手。また、一度スロットルオフしてから再度踏み込んだときのパワーの“つきかた”でも、XB7がSVRを確実に凌いでいた。

軍配はどちらに上がるのか?

というわけで「ラグジュアリーなハイパフォーマンスSUV」選手権はXB7の勝利としたい。そんなアルピナも2026年にはBMW傘下に組み込まれ、独立した自動車メーカーとしての地位が失われるとの発表があった。ファンにとっては極めて残念な事態だが、自動車の電動化が急速に進むなかではやむを得ない判断というべきだろう。

一方のレンジローバースポーツは先ごろフルモデルチェンジが実施されたばかり。したがって彼らの名誉のためにも、できるだけ早くXB7とのリターンマッチを実施したいところだ。

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2022年 7月号

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ランドローバーコール
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【公式ウェブサイト】
BMW ALPINA ジャパン・ブランドサイト
ランドローバー公式サイト

【SPECIFICATIONS】
BMW アルピナ XB7
ボディサイズ:全長5165 全幅2000 全高1830mm
ホイールベース:3105mm
乾燥重量:2580kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
排気量:4394cc
最高出力:457kW(621ps)/5500-6500rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2000-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後マクファーソンストラット
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前後285/45R21
最高速度:290km/h
0-100km/h加速:4.2秒
車両本体価格(税込):2528万円

ランドローバー レンジローバースポーツ SVR
ボディサイズ:全長4880 全幅1985 全高1800mm
ホイールベース:2920mm
乾燥重量:2420kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCスーパーチャージャー
排気量:4999cc
最高出力:423kW(575ps)/6500rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/3500-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後ウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前後235/65R19
最高速度:283km/h
0-100km/h加速:4.3秒
車両本体価格(税込):2165万円

新型ランドローバー レンジローバースポーツのオフロード走行イメージ

新型レンジローバースポーツ、デビュー! 激流を駆けあがる迫力の動画も同時公開 【動画】

ランドローバーは2022年5月10日、新型「レンジローバースポーツ(Range Rover Sport)」をワールドプレミアした。内燃機からBEVまで対応する先進アーキテクチャーをベースに開発された3代目は、まず3タイプの内燃機+PHEVモデルから導入をスタート。追ってBEVモデルも投入する。

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著者プロフィール

大谷達也 近影

大谷達也

大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌「CAR GRAPHIC」の編集部員…