最上級SUVの実力はどれほどか?ベントレー ベンテイガスピードに試乗

絶滅しつつある12気筒SUV、ベントレー ベンテイガスピードに乗ったら悶絶するほど上質だった

雨にそぼ濡れるベンテイガスピード。走る前からただならぬ雰囲気を醸している。
雨にそぼ濡れるベンテイガスピード。走る前からただならぬ雰囲気を醸している。
世界最速SUVを標榜する究極のベンテイガが、ベンテイガスピードだ。最高出力635ps、最大トルク900Nmを発生する6.0リッターW12ツインターボを搭載し、巨大なSUVでありながら0-100km/h加速3.9秒の実力を持つ。夜の東京を流しつつ、改めてベンテイガスピードの魅力に触れてみた。

Bentley Bentayga Speed

比類なき存在

ベンテイガスピードの美しいリヤスタイリング。コンチネンタルGTなどと同じく最新ベントレーのデザイン言語が用いられる。
ベンテイガスピードの美しいリヤスタイリング。コンチネンタルGTなどと同じく最新ベントレーのデザイン言語が用いられる。

ニッチな存在だったSUVが今のような存在になるまでにいくつかの節目があったが、最近の大きなターニングポイントといえば、世界で最も格式が高いブランドのひとつだったベントレーがベンテイガを世に問うた2015年だと個人的には思っている。その数年後、ランボルギーニ、ロールス・ロイス、アストンマーティンといったハイエンドブランドがセキを切ったようにSUVを発売。ついには、あのフェラーリも参入するという。そんななか、ベントレー全体に占めるベンテイガの販売比率は昨年4割に到達。いまや最も売れるベントレーになった。

これら「やんごとないSUV」の元祖ともいえるベンテイガは、後発のライバルに先んじて第2、第3のフェーズに足を踏み入れている。当初は6.0リッターW型12気筒ツインターボだけだった心臓部にも、V8やV6プラグインハイブリッドが追加された。20年夏にはベントレー自身が「2代目」と称するほどの大規模改良を実施。さらに最近はロングホイールベース版の「EWB」も姿を現すなど、いよいよ完成度を高めて熟成期に入っている印象が強い。

今や希少な12気筒エンジンを搭載する

今や貴重な6.0リッターW型12気筒ツインターボエンジンを搭載。最高出力635ps、最大トルク900Nmを発揮する。0-100km/h加速はわずか3.9秒だ。

今回連れ出したのは、いわばオリジナルエンジンともいえる12気筒を搭載するベンテイガで、現在は最速モデルの称号「スピード」を名乗る。ベンテイガスピードの存在価値はなにより、12気筒エンジンを搭載するという事実そのものだ。12気筒のSUVは現在、ベンテイガ以外にはロールスにしかない。アストンやフェラーリにこそ12気筒のウワサはあるものの、今のところは、その姿を拝むことはできない。

ベンテイガスピードは、そのグレード名や12気筒というスペックから想像するような荒馬ではけっしてない。むしろその正反対である。エンジンフード下に鎮座するW12自体も世界的に希少な逸品なのだが、ベンテイガはそれをことさら強調するような下品なふるまいはしない。それと分かる明確な識別点は楕円形の2本出しエキゾーストくらい。超高速性能をにおわせる大型リヤスポイラーはV8の「S」にも見られるディテールだし、アルカンターラを多用した試乗車の内装はスピード専用コーディネートというが、そこはお好みでいかようにも仕立てられるのはいうまでもない。

まるでモーターの如し、である

それにしても、パワートレインの尋常ならざる滑らかさは、さすがの12気筒というほかない。日本の法定速度内で周囲の交通環境とシンクロして走るかぎりは、市街地だろうが高速だろうが、12気筒は2000rpm以下でハミングするだけ。体感的には無音・無振動に近い。スポーツモードに入れても、ラグジュアリーブランドゆえか、その存在を声高に主張することはない。6000rpmのハイエンド付近でやっと粒ぞろいのハイトーンボイスが耳に届くが、ここにいたっても、その音量はあくまで控えめだ。

最近は仕事がら、ピュアな電動車に乗る機会も激増した。右足のわずかな動きにも間髪入れずに反応する電動モーターに馴染むと、いかに高性能スポーツエンジンでも内燃機関特有のアクセルレスポンスの遅れがどうにも気になる体質になってしまった。しかし、ここでも12気筒は別格といってよく、ベンテイガスピードの鋭いスロットルレスポンスと振動の少なさは「まるでモーターのごとし」としか形容できない。

豪快なのに上品という二面性が魅力

サイドシルに輝くスピードのロゴ。ドアを開けると足元を照らすカーテシランプが装備される。

標準のベントレーモードの乗り心地は、22インチ低扁平というタイヤの薄さをまるで感じさせない毛足の長いじゅうたんのような快適さだ。山坂道に分け入っても、手元のダイヤルでスポーツモードにするだけで、少なくとも上り勾配では小型ホットハッチのように軽々と振り回せるのには素直に驚く。電子制御シャシーの「ベントレーダイナミックライド」に加えて、熟成されたボディ剛性や4WDも優秀なのだろう。この豪快なのに上品・・・という二面性は、まさにベントレーの真髄といっていいが、この12気筒のベンテイガスピードには文句なしの説得力がある。

ちなみに、世界一厳しいCO2排出規制が施行されている欧州市場では、12気筒のベンテイガはすでにカタログ落ちしてしまった。V8の上級モデルとして登場した「S」が、欧州で「スピード」が抜けた穴を埋める役割を担うそうだ。しかし、いまだにどちらも手に入る日本のエンスージアストはなんとも幸せである。

REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/田村 翔(Sho TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2022年 7月号

【SPECIFICATIONS】
ベントレー ベンテイガスピード
ボディサイズ:全長5145 全幅1995 全高1755mm
ホイールベース:2995mm
車両重量:2520kg
エンジン:W型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:5945cc
最高出力:467kW(635ps)/5000rpm
最大トルク:900Nm(91.8kgm)/1750-4500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
0-100km/h加速:3.9秒
最高速度:306km/h
車両本体価格(税込):3356万円

【問い合わせ】
ベントレーコール
TEL 0120-97-7797

【公式ウェブサイト】
ベントレー公式ウェブサイト

ベントレー ベンテイガ EWBのフロントビュー

ベントレー ベンテイガに180mm長いロングホイールベース仕様登場。ミュルザンヌの精神を受け継ぐSUV

ベントレーは2022年5月10日、新型車「ベンテイガ エクステンデッド ホイールベース」を発表した。ベンテイガの頂点に立つフラッグシップモデルで、広大なキャビンには4シーター、5シーターに加え、変則的な4+1レイアウトも採用。最新の車載ウェルネス、240億通りのトリム仕様など意欲的な内容を盛り込んだ。デリバリーは2022年第4四半期にスタートする予定という。

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