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MICHELIN PRIMACY SUV+
プレミアムコンフォート基準を投入したSUV専用タイヤ
ミシュランの調査によれば、現在国内にあるSUVのうち、実に83%がその足下にサマータイヤを通常着用(※2017年以降に発売された国産SUVのうちサマータイヤを装着する車種の割合)しているという。
そしてこの状況に基づき同社は、今回SUV専用の夏タイヤとして「プライマシーSUV+」をラインナップ。それまでこのレンジをカバーしていたM+SのSUV専用タイヤ「プレミアLTX」と比べることで、その性能の違いを我々メディアに体験させてくれた。
試乗車はトヨタ ハリアーハイブリッドで、タイヤサイズは225/65R17を用意。これを高速周回路と、今度はウェット制動の2ステージで比較した。
前述したがプレミアLTXは北米を中心に展開するM+S(マッド&スノー)タイヤであり、比べる相手は新型の夏タイヤ。だから走らせる前からある程度その答えは事前に予測できていたとは言えるのだが、それにしても両者の比較は非常に興味深かった。
比較対象は定評のあるプレミアLTX
なぜならプレミアLTXは、M+Sタイヤとは思えないほど均整の取れた、夏タイヤにも近しいタイヤだったからだ。そしてプライマシーSUV+は、そのプレミアLTXに輪を掛けて走らせやすいタイヤに仕上がっていたのである。それはつまり、ジャンルこそ違うがPS4からPS5への進化にも通じるアップデートだったと言える。
高速周回路におけるプレミアLTXの乗り味は、実に満足のいくものだった。もちろんカローラスポーツのような感覚でバンクに進入することはできないが、手前で適切に減速してからターンすれば、タイヤはきちんとハリアーのボディを支え、傾いたバンク内でもケースをふらつかせることなく安定して走り抜いてくれる。
通常M+Sタイヤはぬかるんだ路面や雪上路面に対応するべく、そのトレッド面を夏タイヤに比べて幾分細かくして路面追従性を高める傾向にある。しかしこのプレミアLTXは踏面の剛性もきちんと保たれており、スラロームやレーンチェンジなど入力の早いの転舵時でも、トレッドがぐにゃぐにゃとムービングすることはない。試乗時には雨が降っていたが排水性も良好で、総じて夏タイヤと言ってもいいほどのトータルバランスを備えていた。
しなやかだが荷重が一気に移動せず、より高い速度に対応
しかしプライマシーSUV+は、ここからさらなる安定性と、上質感を訴えかけてくる。当たりの柔らかさから言えば同等かむしろしなやかに感じるくらいなのだが、ハリアーの挙動は落ち着いていて、雨の中でも非常に心地良く運転ができるのである。
たとえればそれは、ダンパー性能がワンランク上がったかのような、過渡特性の穏やかさだ。タイヤのたわみ方と、コンパウンドの追従性が段違いに良いのだろう。ロールスピードが緩やかになって、なおかつ舵が効く。
コンパウンドのしなやかさには、PS5同様に増量されたシリカがかなりの効果を発揮している。そしてサイプ内に突起を設けた「スタビリ・グリップ・サイプ」によってブロックの倒れ込みを防いだり、ケース剛性の高さをバランスさせることで、プレミアムコンフォートタイヤと呼ぶに相応しい乗り味を得ている。
相対比較で言うと、プレミアLTXよりもその乗り味はしなやか。しなやかなのだが、たわみ方がゆっくりだから、荷重が一気に移動せず、結果より高いスピードでバンクに入っていくことができる。
新設計コンパウンドとU字溝がウェット路面に効く
また今回は雨のせいで比較できなかったが、プライマシーSUV+は、そのトレッド面においてブロック数を増やしながらデザインを最適化することで、プレミアLTXに比べ27.9%も騒音エネルギーを低下しているのだという。
そして雨ついでで言うと、主溝をU字型に構える「U字グルーブ」及びフルデプスサイプの投入により、プライマシーSUV+は摩耗末期でも排水性能の低下を抑制している。
ちなみにプレミアLTXは主溝を台形に取ることで摩耗時の排水性を保っていた(エクスパンディグ・レイングルーブ)。タイヤが減って主溝面積が狭くなっても、主溝を広げることで排水性が確保できる仕組みだ。
つまりこれをU字溝にできたプライマシーSUV+は、コンパウンドの路面密着性や、排水性の良さでウェット性能をバランスできているのだろう。そしてU字溝でトレッド剛性が高められた分だけ、上質な乗り味を保ちながら、夏タイヤとしてのグリップ性能も獲得できているのだと思われる。
大幅に向上したブレーキング性能
0-80km/h加速からの制動比較では、さらにその差が数値として明確に現れた。その加速はプレミアLTXの2.6秒に対してプライマシーSUV+が2.3秒と速く、にも関わらずその制動距離は26.3mに対して25mと短かった。ちなみにミシュランのテストだと、プライマシーSUV+はプレミアLTXに対し、8.2%ウェットブレーキング性能を向上している。
またこうしたウェット性能を持ちながらも、低燃費性能を示すラベリング制度では、グレーティング「A/b」を全28サイズ中24サイズで取得している。
一方、制動GはプライマシーSUV+の1.1G(ピーク)/1.0G(Avg)に対し、プレミアLTXもピーク/Avg共に1.0Gを発揮していたから、プレミアLTXの性能が劣っているというわけではない。むしろ夏タイヤなみのウェット性能を持つプレミアLTXをプライマシーSUV+に履き替えることで、さらに高い安全性が担保できるようになったと見るべきである。
日本のSUV事情にマッチした専用タイヤだ
総じてプライマシーSUV+は、より日本のSUV事情にマッチングしたSUV専用タイヤだということが今回の試乗で確認できた。あとは冬場をどう乗り切るかだが、アイスバーンを含みやすい日本の雪質を考えれば、夏場はプライマシーSUV+を履き、冬場はスタッドレスという組み合わせがベストだろうか。
もちろんアイスバーンへの対応は厳しいが、その中間を取ってプレミアLTXや、もっと言えばオールシーズンタイヤであるクロスクライメート2を選ぶのもありだ。その使い方を精査・吟味できさえすれば、ミシュランはその門戸を大きく開いてくれているというわけである。
REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/日本ミシュランタイヤ