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McLaren Artura
マクラーレンの今後を左右するアルトゥーラの完成度
すべてが変わり、すべてが進化したアルトゥーラ。しかし、マクラーレンの思想はいささかも揺らいでいない。スペイン・アンダルシア地方で開催されたアルトゥーラの国際試乗会に参加した私は、いま、確信を持ってそう断言できる。
アルトゥーラはマクラーレン初の量産型プラグイン・ハイブリッドモデル(PHV)である。これまでにも彼らはP1やスピードテールといったPHVをリリースしてきたが、いずれも価格は“億越え”の限定生産モデルだった。それらに対し、継続的に生産されるカタログモデルで、価格も3000万円を切るアルトゥーラは、720Sとともに今後マクラーレンの主力機種となることが運命づけられた車種。しかも、プラグイン・ハイブリッドがスーパースポーツカーの次世代パワートレインとして本命視されている現在、アルトゥーラの完成度が同社の今後を左右するといっても過言ではない。マクラーレンがハードウェアとソフトウェアの両方を全面的に見直してまでアルトゥーラを開発した理由は、ここにあったと考えられる。
軽量・小型のパワートレインを搭載する
そう、アルトゥーラの主要コンポーネントはすべてが一新されている。マクラーレンのDNAというべきカーボンコンポジットモノコックは、キャビン背後の低い位置にプラグインハイブリッド用の高圧バッテリーを搭載するスペースを確保し、その上部に燃料タンクを積むレイアウトとされた。2010年以降に誕生したマクラーレンの全モデルを支えてきたV8エンジンは、排気量3.0リッターV6エンジンへとスイッチ。しかもそのVバンク角は120度で、フェラーリ 296GTBとまったく同じとされた。気になる2台の違いについては、このレポートの最後で紹介することにしよう。
ギヤボックスはDCTのまま7段から8段へと進化。しかもリバースギヤは設けず、モーターを逆転させて車両を後退させるというフェラーリ SF90 ストラダーレと同様の考え方を採用し、ギヤボックスの小型化と軽量化を実現した。PHV用のモーターはこのギヤボックスに完全に内蔵されるレイアウトで、エンジン前端からギヤボックス後端にいたるパワートレイン全体を小型・軽量にする役割を果たしている。
モーターのみで走り出すスーパーカー
足まわりではリヤサスペンションを従来のダブルウィッシュボーン式からマルチリンク式に変更。さらに、トーコントロールアームのアップライト側取り付け点をロワアームから遠ざけることでトー剛性やキャンバー剛性を格段に改善したという。スプリング/ダンパーユニットは、マクラーレン独自のプロアクティブシャシーコントロールではなく、マクラーレンGTと同じプロアクティブ・ダンピング・コントロール・システムを採用。パッシブタイプながら快適性とロードホールディング性の両立を図ったとされる。
マラガ近郊のホテルからアスカリサーキットを目指して、アルトゥーラを走らせる。PHVらしく、スタート直後はエンジンが始動せず、モーターのみで走行するが、「ウィーン」というモーターの軽いうなり音が聞こえるくらいで、キャビンは実に静か。発進時のマナーや市街地走行でのドライバビリティも良好だった。ただし10%を越す上り勾配では95psの電気モーターがやや力不足で、90km/h前後でスピードがほぼサチっていたこともあわせて報告しておきたい。
およそ26kmを走ったところでバッテリーの電力を使い尽くし、エンジン走行に移行。その際にも大音量のエキゾーストノイズを響かせるわけではなく、極めて知的かつ未来的なマナーを保ったまま、アルトゥーラは走り続けた。
マクラーレン伝統とも言える快適な乗り心地
新開発のV6エンジンは実にスムーズな回転フィールをもたらしてくれる。低中速域のレスポンスやドライバビリティも良好。ボトムエンドでは低音が強調された音色だが、回転数を上げるにつれて抜けのいい高音域に変貌し、ドライバーの聴覚を心地よく刺激し始める。おまけにレブリミットまで滑らかに吹け上がるほか、パワーも十分以上で、なにひとつ不満を覚えなかった。
引き続き油圧式パワーアシストを採用するステアリングは、やや軽めの操舵力ながら、路面からのインフォメーションを生き生きとドライバーに伝えてくれる。それでいながら無粋なキックバックとは無縁。これを体験すれば、マクラーレンが油圧式パワーアシストにこだわり続ける理由もきっと理解できるはずだ。
乗り心地は実に快適。それは12Cから続くマクラーレンの伝統的な特徴だが、アルトゥーラでは乗り心地のテイストが微妙に変化していた。タイヤが突き上げられたときのハーシュネスは720Sよりも明らかに軽く、優しい手触り。その後もサスペンションはスムーズにストロークしてくれるのだが、こうした快適性の高さと、720S以上に精度感の高いハンドリングを両立している点がアルトゥーラの最大の特徴といえる。このためワインディングロードでは、微妙なラインコントロールも自信を持って行うことができた。しかも、リヤサスペンションのグリップレベルが驚くほど高く、ドライバーの不安を呼び起こすような挙動は皆無。マクラーレンとして初採用の電子制御式リミテッドスリップデフも、軽快なハンドリングとバツグンのトラクション性能の両立に威力を発揮しているように思えた。
快適性と精度感の高いハンドリングの両立こそ最大の特徴
こうした印象はアスカリ・サーキットに舞台を移してからもまったく変わらなかった。驚くほどコントローラブルでスタビリティが高く、安心してハードコーナリングを楽しめたのだ。サーキット走行中、一度もリヤタイヤのグリップを失わせることはできなかったが、それさえもアルトゥーラの限界の高さを証明するものといっても差し支えないだろう。
そんなアルトゥーラに比べると、296GTBは一段とパワフルで刺激的。サーキットで容易にオーバーステアに転じようとするハンドリングも刺激的と表現できなくもない。一方のアルトゥーラは優れたスタビリティと洗練されたドライビングフィールが魅力的で、刺激は薄いかもしれないが上質でピュアなドライビング体験を味わえる。その意味において、アルトゥーラはいかにもマクラーレンらしく、電動化に向かうマクラーレンの姿を正しく反映したモデルであると感じた。
REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/McLaren AUTOMOTIVE
MAGAZINE/GENROQ 2022年 8月号
SPECIFICATIONS
マクラーレン アルトゥーラ
ボディサイズ:全長4539 全幅1913 全高1193mm
ホイールベース:2640mm
車両重量:1498kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
排気量:2993cc
最高出力:430kW(585ps)/7500rpm
最大トルク:585Nm(59.7kgm)/2250-7000rpm
モーター最高出力:70kW(95ps)
モーター最大トルク:225Nm(22.9kgm)
トータル最高出力:500kW(680ps)/7500rpm
トータル最大トルク:720Nm(73.4kgm)/2250-7000rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤサイズ:前235/35ZR19 後295/35ZR20
最高速度:330km/h
0-100km/h加速:3.0秒
車両本体価格(税込):2965万円
【問い合わせ】
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