新時代ラグジュアリーを具現したキャデラックの最新BEV

キャデラックの最新BEV「リリック」は旧き佳き1950〜60年代のアメリカを現代的再解釈したラグジュアリー電動車

キャデラックブランドにおいて、初のBEV専用の量産車となるリリック。アルティウムと呼ばれるGM肝煎りで開発を続けてきたアーキテクチャーが採用される。
キャデラックブランドにおいて、初のBEV専用の量産車となるリリック。アルティウムと呼ばれるGM肝煎りで開発を続けてきたアーキテクチャーが採用される。
アメリカのラグジュアリーブランドであるキャデラック初の電気自動車となるリリック。GMの新世代EV向けアーキテクチャー「アルティウム」を採用した最新モデルだ。最大航続距離483kmを誇るラグジュアリーEVに初試乗した。

Cadillac Lyriq

ラグジュアリーの新機軸

3094mmもあるホイールベース。そのおかげで後席の居住性は高レベル。
3094mmもあるホイールベース。そのおかげで後席の居住性は高レベル。

2035年までに販売する乗用車のすべてをゼロ・エミッション化する。壮大な目標に向かうGMの中でも、とりわけ野心的に電動化への道程を歩んでいるのがキャデラックだ。2030年には北米の販売をBEVに一本化することを発表している。

リリックはそのキャデラックブランドにおいて、初のBEV専用の量産車となる。アーキテクチャーとして用いられるのは、GMが肝煎りで開発を続けてきたアルティウムだ。

アルティウムのコアたる部品はラミネート型のリチウムイオンバッテリーセルだ。2010年に発売されたシボレー・ボルト/オペル・アンペラから積み重ねた知見も活かしながら開発されたそれは、セル同士の接続を面化してハーネスを廃するなど合理化を推し進め、24枚のセルを積層するバッテリーモジュールにおいては配線の90%以上を削減している。

アルティウムのこのバッテリーモジュールを6〜24の間で使い分けながら、車両のコンセプトに応じて50〜200kWhの容量を振り分けることが可能だ。ちなみにリリックは12モジュールを床面に2×6列で配し、100kWhのバッテリー容量となる。この床面のモジュール構造に合わせて、前後のフレームやコンパートメントを自在に組み合わせながら、専用設計となる3つのモーターを自在に組み合わせてすべての駆動方式をカバーする。アルティウムはCセグメントからフルサイズピックアップまでをカバレッジしながら、開発工数やコスト削減が両立するように設計されている。

BEVゆえの特異なシルエット

リリックのサイズを数字的になぞらえると、メルセデス・ベンツGLEクーペやBMW X6とほぼ同等の全長・全幅に対して全高が低く、エンジンのないBEVがゆえホイールベースが100mm以上は長いという特異なものとなる。現物を見ても妙に低くて長い。その印象を強調するのが、灯火類で往年のキャデラックらしいバーチカルラインを強調した新たなデザインランゲージだ。リリックのデザインは7月に発表されたフルサイズサルーンのコンセプトカー、セレスティックを源流としており、そのセレスティックはGMに長年在籍するインハウスの日本人デザイナーが手掛けたという。

内装はエスカレード以降のキャデラックのデザインに準拠しながら、メタリックな素材使いや間接照明の取り回しなどでモダンなイメージを巧く醸している。BEVの場合、バッテリー搭載の関係でやや高い床面が後席の着座姿勢にも影響を与えがちだが、リリックは超ロングホイールベースに加えて足元周辺のスペースも適切に設定されており、やや足を伸ばし気味に寛げる姿勢で座ることができた。

GMのミルフォード・プルービング・グラウンドに用意されたリリックは、オプションの22インチではなく標準の20インチを履いた後輪駆動モデル。つまり動的には最もベーシックな仕様といえるものだ。他に前後軸にモーターを搭載する四駆も設定されているが、来年前半に詳細が発表されるという日本仕様のラインナップは未定となっている。

ふわっと柔らかい足まわり

低重心に加えて理想的な前後重量配分が実現しやすい、そんなBEVの物理的マージンを快適性の側に振っている。リリックの乗り味からは造り手のそんな意図が汲み取れる。

路面アタリはふわっと柔らかく、接地感にもゴリゴリと筋張ったところがない。テストコースゆえ、随所に激しい凹凸も仕込まれているが、そこでの突き上げ感も小さく、ライドフィールは至って優しい。上屋の動きは過度に抑えれることなく適度にバウンドするが、その動きも心地よさを感じられるほどだ。

BEVといえばイニシャルトルクの大きさから、アクセル操作に対する変動が挙動に与える影響は大きいが、リリックの場合、その辺りはさすがにクルマ屋らしい仕事が行き届いていて、いかなる状況でもトリッキーな動きに現れることはない。モーターの側の出力特性もよく躾けられていて、動きのしなやかなアシがそれをゆったりと受け止めてくれる。

まったく新しいアーキテクチャーとパワートレインを得て、キャデラックは新たな自らのキャラクターとして、最も円熟だった1950〜60年代の存在感や乗り味を現代的に再解釈しようとしているのではないか。リリックの新しく心地よいフィーリングを知るに、アメ車好きの僕はそんな思いを抱かずにはいられなかった。

REPORT/渡辺敏史(Toshifumi WATANABE)
PHOTO/General Motors

SPECIFICATIONS

キャデラック・リリック

ボディサイズ:全長4996 全幅1977 全高1623mm
ホイールベース:3094mm
車両重量:2545kg
モーター最高出力:255kW(304ps)
モーター最大トルク:440Nm(44.9kgm)
駆動方式:AWD
EV航続距離(WLTP):482.8km
サスペンション形式:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前265/50R20 後275/35R20

【問い合わせ】
GMジャパン・カスタマーセンター
TEL 0120-711-276
https://www.gmjapan.co.jp/

EVコンセプトカー「キャデラック インナースペース」のエクステリア。

非公開: キャデラック、自律走行技術を搭載したEVコンセプト「インナースペース」を初公開

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