フェラーリ デイトナSP3に初試乗! ベルギーはゾルダーでその真価を試す

フェラーリ最新のイーコナ・シリーズ「デイトナSP3」は、まだ優美だった頃のレーシングカーを現代解釈した走れるスペチアーレ

モンツァSP1、SP2に続くイーコナ・シリーズ第3弾がデイトナSP3。1960〜70年代にレースで活躍した「Pシリーズ」のオマージュである。
モンツァSP1、SP2に続くイーコナ・シリーズ第3弾がデイトナSP3。1960〜70年代にレースで活躍した「Pシリーズ」のオマージュである。
モンツァSP1、SP2に続くイーコナ・シリーズ第3弾がデイトナSP3だ。1960〜70年代にレースで活躍した「Pシリーズ」のオマージュとされるモデルだ。9250rpmで840psを発生する超高回転型V12気筒エンジンを搭載するSP3はベルギーのゾルダーサーキットと一般道でどのようなパフォーマンスを披露したのだろうか。

Ferrari Daytona SP3

レーシングカー並のスペック

ベルギーのゾルダーサーキットを駆けるイーコナ・シリーズ第3弾デイトナSP3。
ベルギーのゾルダーサーキットを駆けるイーコナ・シリーズ第3弾デイトナSP3。

その曲線は、無意識のうちに人を惹きつける不思議な力を宿している。まるで黄金比のように、世代や国境さえ越え、多くの人々に自然と受け入れられる普遍的な美しさ・・・。フェラーリ・デイトナSP3の魅力をそう表現するのに、私はいささかの躊躇も覚えない。

イーコナ・シリーズの第3弾として誕生したデイトナSP3は、1960年代に活躍したスポーツプロトタイプカーへのオマージュがテーマ。なかでもデザイン的には330P3ならびに330P4の影響を強く感じる。そのことは、330P3/4、330P4、412Pの3台が並んでフィニッシュした67年のデイトナ24時間をモデル名の由来としたことからも明らかだろう。

今回の国際試乗会はフェラーリのスポーツプロトタイプカーが活躍した6ヵ所のサーキットで開催。全体では二十数名のジャーナリストが参加するごく小規模なイベントだった。ちなみに私が訪れたベルギーのゾルダーには250LMや512Sが優勝した記録が残っている。

衝撃的な美しいルックス

搭載されるV12自然吸気エンジンは最高出力840psを9250rpmで発揮する超高回転型である。
搭載されるV12自然吸気エンジンは最高出力840psを9250rpmで発揮する超高回転型である。

デイトナSP3のハードウェアは、カーボンモノコックを含めてラ フェラーリ用をベースとしているが、いずれの部品にも改良が施されており、そのまま流用することはできないという。また、キャビン後方に搭載される排気量6.5リッターの自然吸気V12エンジンは、812コンペティツィオーネと同じF140HBだが、これをさらにチューンナップして840psの最高出力と697Nmの最大トルクを実現。最高許容回転数は9500rpm(!)に到達する。ちなみに840psのパワーは、フェラーリ・ロードカーに搭載されるエンジン単体のスペックとして史上最高とされる。

ラ フェラーリと違ってハイブリッドシステムを搭載していないのもデイトナSP3の特徴で、このため乾燥重量は1485kgと軽量。結果として0-100km/h加速を2.85秒で駆け抜け、最高速度は340km/hを上回る圧倒的なパフォーマンスを実現している。

ただし、そうしたスペック以上に注目されるのが、その美しいエクステリアデザインだろう。これについては、試乗前のプレゼンテーションでこんな説明があった。

「フェラーリがニューモデルを開発するときは、通常パフォーマンスとデザインの両方を最高レベルでバランスさせますが、デイトナSP3は、エンジニアがデザイナーに少しだけ譲歩する形で開発されました」

つまり、エンジニアリングだけを追求するのであれば、パフォーマンスをさらに向上させる余地はあったが、今回はあくまでもデザイン優先で開発を進めたというのだ。

その性能と相まって究極というにふさわしいデザイン

超高性能を秘めたスーパーカーとは思えぬほど一般道では従順。その気になれば日常にも使えるだろう。
超高性能を秘めたスーパーカーとは思えぬほど一般道では従順。その気になれば日常にも使えるだろう。

その一例として、デイトナSP3にはアクティブなエアロデバイスが一切搭載されていないことが挙げられる。その代わりにチムニーと呼ばれる新機軸を採用。F1マシンのために考案されたこのテクノロジーは、フロア下のエアフローをボディ上面に導くことで、フロア下の空気量を適正化するとともに、ボディ上面のエアフローを増やしてリヤスポイラーの効果を最大化する役割を果たす。また、リヤスポイラーを全幅いっぱいまで広げたのは、現代的なリヤウイングに匹敵するダウンフォースを生み出すための施策だったはず。そしてドアの比較的高い位置にエンジン冷却用のエアインテークを設けたのは330P3や330P4へのオマージュだが、このためドア内部をエアチャンネルが貫通しており、ドアハンドルは腰をかがめないと手が届かないほど低い位置に設けられた。これも、実用性よりデザイン性を重視した結果といえる。

そうした努力のかいあって、デイトナSP3はこの世のものとは思えないほどの美しさを手に入れている。その未来的で、そしてレーシングカー直系ともいえるスタイリングは、このまま公道を走らせることに躊躇を覚えるほど。とりわけ前後のタイヤを覆うフェンダーの肉感的な曲面は、60年代のスポーツプロトタイプカーをよく再現していて心を奪われる。そして、フロントフェンダー部分で一気に膨れあがった量感を、ドア後方で鋭く絞り込んだ“コルセット・デザイン”も、リヤフェンダーの存在感を際立たせるうえで重要な役割を果たしている。

ドライバビリティに見る実用性の高さ

しかも、これだけデザイン重視のスーパースポーツカーでありながら、前述のドアハンドルを除けば、実用性がほとんど損なわれていないのも驚くべき点だ。例えば、曲率がきついフロントウインドウを用いているにもかかわらず、視界が良好なことは特筆すべきだし、コクピット内の居住性は決して悪くない。むしろ、センターコンソールの前端が低く、ダッシュボードが水平に長く延びたデザインのため、広々とした印象を与えるほど。そしてモノコックに直接固定されたシートの掛け心地は決して悪くないうえ、ペダルとステアリングを前後して調整するドライビングポジションにもまったく違和感を覚えなかった。したがって、ドライバーにちょっとした勇気があるのなら、普段使いもできるほどの実用性を備えているとさえ言える。

実用性の高さは、その優れたドライバビリティにも見事に反映されていた。840psのV12エンジンは大排気量ゆえに極めて柔軟で、市街地走行でも期待どおりのトルクを瞬時に生み出してくれる。乗り心地だって、ピレリPゼロコルサを履いていることが信じられないくらい、路面からのショックをマイルドに吸収してくれる。ただし、乗り心地自体はソリッドで、ステアリングレスポンスも鋭い。とりわけ操舵初期のゲインが高く感じられたのは、ひと昔前のフェラーリと似た傾向。この点は、ラ フェラーリのデビューが2013年だったことと何らかの関係があるのかもしれない。もっとも、いくら操舵初期のゲインが高くても、リヤのスタビリティがそれを上回るほど優れているほか、ステアリングを通じて感じられる前輪の接地感も良好なので、かつてのように不安感を覚えることはない。いや、むしろ強い安心感とともに試乗を終えたといったほうが正しいだろう。

8000rpmで咽び泣くような咆哮

なお、試乗車は既にオーナーが確定しているためにサーキットでは最高速度が70km/hに制限されたので、限界的なハンドリングについて語る資格はない。ただし、エンジンに関しては高速道路で8500rpmオーバーまで回すチャンスを得た。

そのサウンドは、812スーパーファストとは異なって音程はやや低め。しかも吸排気音ではなくメカニカルノイズを中心としているため、澄んだ音色というよりも迫力あるサウンドと表現できる。いずれにせよ、巨大なV12エンジンは7000pmを越えても軽々と回り続け、これにあわせてパワーも一直線に立ち上がる様子は圧巻。このレスポンス、サウンド、そしてパワーカーブのリニアリティは自然吸気ならではと言える。素直な出力特性ゆえ、840psのパワー(実際にそれを使い切ったわけではないが・・・)も決して手に負えないとは感じられなかったことも印象的だった。

いずれにせよ、8000rpmオーバーのサウンドは、複雑で高精度なメカニズムが放つ咆吼のようにも、悲しみに咽び泣くようにも聞こえて、激しく心を揺さぶられる。この官能性こそ、自然吸気V12エンジンを搭載した最大の理由だろう。

価格が3億円にも迫るフェラーリのリミテッドエディションともなれば、かつては裕福なコレクターの手に渡り、そのまま日の目を見ずに生涯を終えるケースも少なからずあったはず。しかし、近年フェラーリはイベントに積極的に参加するオーナーを手厚くもてなす方針に転換。デイトナSP3も、その多くがアクティブなドライバーに届けられるものとみられる。思いのほか優れた快適性やドライバビリティも、こうしたドライバーを喜ばせるためにマラネッロが用意したプレゼントだったと考えれば納得できるいうものだ。

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/Ferrari SpA
MAGAZINE/GENROQ 2022年10月号

【SPECIFICATIONS】

フェラーリ・デイトナSP3

ボディサイズ:全長4686 全幅2050 全高1142mm
ホイールベース:2650mm
乾燥重量:1485kg
エンジン:V型12気筒DOHC
総排気量:6496cc
最高出力:618kW(840ps)/9250rpm
最大トルク:697Nm(71.1kgm)/7250rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前265/30ZR20 後345/30ZR21
最高速度:340km/h以上
0-100km/h加速:2.85秒
燃料消費量:16.2L/100km

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著者プロフィール

大谷達也 近影

大谷達也

大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌「CAR GRAPHIC」の編集部員…