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Audi RS Q e-tron E2
グループBマシンから採られたコードネーム
今回公開された「アウディ RS Q e-tron E2」は、ボディ形状が完全に刷新され、エアロダイナミクスを強化。これにより、大幅に重心を下げることが可能になった。また、新しい「オペレーティング・ストラテジー」の導入により、電動ドライブトレインの効率がさらに向上。車内における操作系統も改善され、ホイール交換の際にクルーは、これまで以上に作業を容易に行うことができるようになった。
今回の進化を受けて、RS Q e-tronには、新たに「E2」というコードネームを追加。この名称は、1980年代に世界ラリー選手権(WRC)を席巻したグループBマシン開発の最終段階で投入された、伝説のラリーカー「アウディ スポーツクワトロS1 E2」から採られている。
アウディ・スポーツGmbHのマネージングディレクター兼アウディ・モータースポーツ責任者を務めるロルフ・ミヒェルは、RS Q e-tron E2について次のようにコメントした。
「私たちは、今年RS Q e-tronでダカールラリーに初参戦し、アウディとして初めてステージ勝利を収めるという、素晴らしい成果を達成しました。チームは一丸となって次のダカールに向けた準備を行い、同じ方向に進んでいます。開発の初期段階においては、ドライバー、コ・ドライバー、エンジニアが、開発目標について迅速に合意することができました。その結果、大幅に進化した『RS Q e-tron E2』が完成したのです」
優れた空力性能と軽量化を実現した新ボディ
チーフデザイナーを務めるアクセル・レフラーは、ボディシェルの大幅刷新について「RS Q e-tron E2は、先代モデルと共通のボディパーツは一切使用していません」と、説明する。RS Q e-tron E2はレギュレーションで定められた室内寸法に対応すべく、以前はルーフに向かって狭くなっていたコクピット幅が拡大された。これを受けて、前後カウルも完全な新設計となっている。
「新しいモデルでは、Bピラー左右に装着されていたリヤフードのアンダーフローが廃止されました。複合素材の最適化したファブリック層と組み合わせ、改良されたレイアップ構造により、重量を削減することに成功しています」とレフラー。
ダカールラリー「T1U」規定プロトタイプの最低重量は、将来的には2000kgから2100kgに増加が決まっている。ただ、第1世代のRS Q e-tronはこの重量を超えていたため、数十kgの軽量化が求められることになった。
デザイナーはより多くの重量を削減し、同時にエアフローを最適化。「砂漠のラリーにおいても、エアロダイナミクスを過小評価すべきではありません」とレフラーは説明する。新しいコクピットの寸法はボディ断面が大きくなったにもかかわらず、ボディ全体のCd値は約15%も削減された。
最高速度はレギュレーションで170km/hに制限されているが、エアフローを改善したことで大きなメリットを得ることになった。「数値流体力学(CFD)を活用し、ボディ全体の空力計算を実施しています。これにより、この電動モデルのエネルギー効率がさらに改善されることになりました」と、レフラーは付け加えている。
最適化されたエネルギーマネージメント
搭載される電動ドライブトレインは、内燃エンジンと発電機から構成されるエネルギーコンバーター、高電圧バッテリー、前後アクスルに搭載された2基の電気モーターから構成。電動パワートレインに関しては、このエネルギーマネージメントが重要な役割を果たす。
RS Q e-tronは、参戦したラリーにおいて、極端な状況で様々な問題が発生した。例えば、ダカールラリーでは、ジャンプ中や起伏が激しい路面において、短時間だが、出力制限の上限値を超えるという問題が発生している。イベントを管轄するFIAのオフィシャルは、2キロジュールの超過エネルギーが確認された時点で介入し、レギュレーションに基づいてペナルティを課している。
ソフトウェア/アプリケーション/テストベンチ開発エンジニア、フローリアン・ゼムリンガーは、電動パワートレインの制御について、次の様に説明した。
「ダカールラリーのような過酷な状況では、許容範囲に対して、毎秒100倍以上のエネルギーがモーターに流れます。単純に基準値を数キロワット低く設定することもできましたが、その場合、全体のパフォーマンスが低下してしまいます。その代わりに、パワーコントローラーに数多くのファインチューニングを施しました」
今回の改良を受けて、ソフトウェアはふたつの個別の出力制限値を、数ミリ秒以内に再計算。その結果、出力の限界値内で正確に作動するようになったという。制御システムを最適化したことで、補器類にもメリットがもたらされた。サーボポンプ、エアコンディショニング冷却ポンプ、ファンといった補器類は、エネルギーバランスに好影響を与えている。
2022年シーズン、様々なラリーに参戦したことでチームは、貴重なフィードバックを得ることになった。例えば、エアコンディショニングシステムは頻繁に作動するため、常に最大出力で作動している場合、クーラントが凍結する可能性が判明した。これを受けて、システムは断続的なモードで作動するよう改良。これによりエネルギー消費量が少なくなり、長時間の走行でも室内温度を快適に保つことが可能になった。
クルーのためにコクピットの操作系が向上
アウディは2023年のダカールラリーに向けて、マティアス・エクストローム/エミール・ベリークヴィスト組、ステファン・ペテランセル/エドゥアール・ブーランジェ組、カルロス・サインツ/ルーカス・クルス組という、経験豊富でスピードを持ったドライバー/コ・ドライバーラインアップを揃えた。
彼らがタフなラリーを戦い抜くためにも、コクピットの操作性やホイール交換の作業性の改善は急務だった。ディスプレイはこれまでどおり、センターコンソールのドライバーの視野内に置かれ、スイッチパネルも中央に配置。同時にディスプレイとコントロール性が見直されている。
テストに参加したペテランセルのコ・ドライバー、ゼムリンガーは、RS Q e-tron E2の操作系の進化について、次のようにコメントしている。
「すべての機能をひとつにまとめると、混乱が生じてしまいます。そのため今回初めて、ドライバーとコ・ドライバーは、ロータリースイッチを介して、4つのシステムエリアからひとつを選択できるようになりました」
「ステージ」エリアは、速度制限のあるセクションでのリミッターやエアジャッキなど、競技走行において重要な機能を集約。「ロード」エリアは、ウインカーやリヤビューカメラなど、リエゾン(移動)区間で頻繁に使用する機能が含まれている。「エラー」エリアは、エラーの検出、分類、記録に使用。「セッティング」エリアでは、各システムの詳細な温度など、テスト中や車両がビバークに到着した際にエンジニアに素早くフィードバックを行うことができる。
パネルやホイールの変更でタイヤ交換が容易に
ステージ走行中にパンクした場合、これまでよりも簡単にタイヤ交換ができるようになった。ボディ側面に搭載されたスペアタイヤは、従来の大型カバーに代わり、シンプルで簡単に取り外しが可能な、ボディコンポーネントを装着。また、パートナーの「Rotiform」製10スポークホイールは、これまでよりも簡単に取り外しが可能になった。
これらの改良により、一刻を争う状況でパンクした場合でも、ドライバーとコ・ドライバーはより簡単かつ安全に、タイヤ交換を完了することができるようになった。
アウディ・スポーツは、テストエンジニアリング責任者のアルナウ・ニウボ・ボッシュによる初期テスト後、10月1~6日に開催されるラリー・ ドゥ・モロッコに参戦。3組のクルーが北アフリカ南西部に位置するモロッコの都市アガディールを拠点に開催される、砂漠ラリーにおいてニューマシンの評価を行う。