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Pagani Utopia
クライアントがパガーニに求めた3つの希望
オラチオ・パガーニはニューモデルに関するいくつかの明確なアイデアを持っていた。しかし、彼はパガーニのニューモデルを熱望する最も親しいクライアントたちに、あえて希望を聞いたという。ゾンダやウアイラという美しく優れたハイパースポーツを所有していたクライアントの希望は、「シンプル」「ライトウェイト」そして「ドライブの楽しさ」という3つの言葉だった。
C10プロジェクトの立ち上がり時点で、当時の自動車メーカーが邁進していたトレンドからは逆行することになった。C10には重いバッテリーもハイブリッドパワートレインも存在せず、ただ最高のサウンドを奏でる6.0リッターV型12気筒ツインターボエンジンのみが搭載されている。
あえて複雑なデュアル・クラッチ・ギヤボックスは採用せず、極めてピュアでプリミティブな操作が楽しめるXトラック製7速MTを介してリヤを駆動。最も純粋でありながら新鮮、古典的ドライビングプレジャーをもたらすよう開発された。
これらの理念を体現するハイパースポーツにどんなネーミングが相応しいのか? パガーニは理想郷を意味する「ウトピア(Utopia)」を選んだ。1516年、英国の思想家トマス・モアが出版した著作『ユートピア』に登場する、架空の国家名である。
1950年代のデザインからインスパイア
ウトピアのフォルムは、シンプルさが特徴。パガーニらしいラインを描きながら、これまでのパガーニとはまったく異なるストレートな自己主張が存在する。流れるような曲線や、ウィンドスクリーン上端が丸みを帯びていることから、よりソフトな印象を見る者に与える。
その開発において、最も困難だったのは、その時代の流行に左右されることなく、時代を超えたデザインを創り出すことだった。スタイリングディテールは、ベスパ・スクーターの流線型ヘッドランプや、リーヴァ・スピードボートなど、1950年代のデザインからインスパイアされたという。
空力的な追加デバイスがほとんど装着されていないにも関わらず、ウトピアはこれまで以上に高いエアロダイナミクス効率を獲得。現代のハイパースポーツの多くが、多数のスポイラー類を装着しているのに対し、ウトピアはスポイラーやカナードなどの機能をボディ全体に組み込んだ。そのデザインのみによって、強大なダウンフォースとドラッグ低減を実現している。
風洞実験によるエアロダイナミクスの進化
ホイールには、タービン形状のカーボンファイバー製エクストラクターを装着。ブレーキから発する熱を排出し、アンダーボディの乱流を軽減する効果を持つ。カーボンセラミック製ディスクに装着されるブレーキキャリパーは、軽量化された新デザインが採用された。
協力関係にあるピレリ製タイヤはフロントが21インチ、リヤが22インチ。あえて、大径サイズをチョイスしたことで、サイドセクションに新たな創造性と際立った自由度をもたらした。タイヤのサイドウォールにはウトピアのシルエットが描かれ、このタイヤが専用開発されたことを物語っている。
空中に浮いているようなサイドミラーは、風洞実験による形状の最適化が施された。ウイング型サポートによってボディから離され、空力的な透過性を高められている。テールライトはリヤウィングのサイドに浮かんでおり、エアエクストラクターにセット。その形状はまるで宝石のような美しさを讃えている。
パガーニを象徴するチタン製クワッドエキゾーストも健在。熱を効率的に放散するため、テールパイプにはセラミックコーティングが施されており、エキゾーストシステム全体の重量はわずか6kgに留められている。
彫刻作品のようなクラシカルなインテリア
ウトピアのドアを開けると、まるで彫刻作品のような独創的なインテリアが広がる。そのタッチはモダンでもレトロでもなく、タイムレスなデザインを目指した。スクリーン類はドライバー前方の小型ディスプレイのみ。多くのクルマが採用する巨大スクリーンは、装着が簡単でデザインの手間を省くことができるが、美しさを損なうとパガーニは指摘する。
すべての計器類は純粋なアナログ式を採用。読みやすいダイヤルのひとつひとつが、まるで高級時計のスケルトンムーブメントのように、そのメカニズムの一部をさりげなく見せている。
ステアリングホイールは、スポークや中空リム、エアバッグを内蔵するステアリングコラム・ボスまで、すべてがアルミブロックから製造された。7速MTのシフトレバーはパガーニ・モデルではお馴染みとなった、あえてメカニカル部分を見せるコンセプト。これまで以上に洗練されたフォルムとなり、同時に人間工学に基づき、効率的かつ簡単に操作できるように改良されている。
ウアイラ Rの開発プロセスからフィードバック
ウトピアは、エアロダイナミクス徹底的に追求することで、極限の高速域においても確実なハンドリングと安定性が確保された。アクティブ・エアロダイナミクスは、電子制御ショックアブソーバーと組み合わせることで、あらゆる走行条件下で最適な挙動を提供する。
航空宇宙用アルミニウムを使って製造されたダブルウイッシュボーン式サスペンションは、サーキット専用仕様「ウアイラ R」で行われた長期開発作業からのフィードバックを得て開発。ただ、ウトピアはロードゴーイングモデルのため、日常域での快適性も考慮された。
これまでのパガーニ製ハイパースポーツに採用されてきたカーボンファイバー製モノコックは、強度・軽さ・精度などがウトピアに継承された。パガーニはカーボンファイバー繊維の織り方を改善、カーボチタンやカーボトライアックスなど、新たな複合素材の導入も進めている。また、今回導入されたAクラス・カーボンファイバーは、特にボディワークなどに使用され、同じ密度で38%もの剛性アップを実現した。
安全性に関しては、少量生産モデルということに甘えず、あらゆる面で世界で最も厳しいレギュレーションをクリアした。開発段階からプレテスト、各国のホモロゲーション取得に至るまで、50以上の厳しい衝突テストをパスしている。
ウトピアのクーペ仕様は99台を製造予定
ウトピアに搭載されるパワーユニットは、メルセデスAMGがパガーニのために製造した、最高出力864ps、最大トルク1100Nmを発揮する6.0リッターV型12気筒ツインターボ。世界で最も厳しい米国・カリフォルニア州の排出ガス規制を含む、あらゆる規制クリアしながら、より高回転でよりパワフルな走りを実現した。
1992年、パガーニ・アウトモビリ設立当時の社員数は25名でいわば家内制手工業のような雰囲気を持っていた。現在もオラチオ・パガーニをトップとする家族的な企業であることに変わりはないが、180名のスタッフを擁している。
イタリア・モデナ近郊のサン・チェザーリオ・スル・パーナロにある「アート&サイエンス・リサーチセンター」には、各分野のエンジニア、デザイナー、テクニシャンが在籍。この製造施設は、年間50台の生産キャパシティを持つ。ウトピアのクーペ仕様は99台が製造される予定。最初の生産枠はすでに特権的なクライアントに割り当てられたという。