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Porsche 911 GT3 vs 911 GT3 RS
992型911のポテンシャルをとことん味わい尽くせる2台
ナナサンカレラを始祖とする911のRSシリーズは、1972年以降、世代の進化に合わせて911における最高峰のパフォーマーとして常に君臨してきた。その最新作がタイプ992ベースの「911 GT3 RS」だ。
ベースとなっているのは992型911 GT3。そのポテンシャルを、最新の空力テクノロジーにより可能な限り引き上げ、“最もレーシングカーに近い公道走行可能な911”として仕立てあげたのが“最新RS”だ。以降、「GT3」および「GT3 RS」として、両車の性能数値や装備などを比較検証する。
パワートレイン
まずはパワートレインの違いから。両車ともに搭載するのはドライサンプ式の4.0リッター水平対向6気筒NAユニットだが、GT3 RSはカムシャフトのプロファイルの見直しなどにより、最高出力525psと、GT3比でプラス15ps分の“筋力”が与えられている。なお、GT3は6速MTと7速PDKの両方を用意するが、GT3 RSは7速PDKのみの設定となるため、以降、両車の比較は基本的にPDK同士で行うこととする。
エンジン形式:水平対向6気筒自然吸気
総排気量:3996cc
ボア×ストローク:102.0×81.5mm
駆動方式:後輪駆動
GT3
最高出力=510ps/8400rpm
最大トルク=470Nm6100rpm
リッター当たり馬力=127.6ps
GT3 RS
最高出力=525ps/8500rpm
最大トルク=465Nm/6300rpm
リッター当たり馬力=131.4ps
車重はGT3が1435kg、GT3 RSは1450kg。CFRP(炭素繊維強化プラスチック)を積極的に用いて軽量化を徹底することで、GT3 RSはこれだけ大型の空力デバイスを複数装備しながら、車重はGT3比でわずか15kg増に抑え込んだ。
結果、パワーウェイトレシオはGT3が2.84kg/psであるのに対し、GT3 RSは2.76kg/psを実現している。
ボディディメンション
ボディ寸法は、GT3 RSの方が空力パーツの採用によりやや拡大しており、前後トレッドもさらにワイドになっている。
GT3
全長×全幅×全高=4573×1852×1279mm、ホイールベース2457mm
前後トレッド=前1601 後1552mm
GT3 RS
全長×全幅×全高=4572×1900×1322mm、ホイールベース2457mm
前後トレッド=前1630 後1582mm
なお、前ダブルウイッシュボーン/後マルチリンクというサスペンション構成は共通だが、GT3 RSはフロントのサスペンションリンクに、より空力効率に優れた形状を採用している。ブレーキは両車とも前6ピストン/後4ピストンのアルミニウム製モノブロック固定キャリパーを装備。GT3 RSのフロントブレーキはピストン径を30→32mmに拡大、ディスク厚さも34→36mmに拡大することで、自慢の制動力をさらに向上した。タイヤはGT3が前255/35ZR20、後315/30ZR21、GT3 RSが前275/35ZR20、後335/30ZR21インチを装着する。
GT3 RSはポルシェ初の「DRS」を搭載
GT3 RS最大のハイライトは、純粋な競技用車両から受け継いだ空力システムだ。なかでも目玉となるのがセンターラジエータコンセプト。ル・マンでクラス優勝を果たした911 RSR由来のテクノロジーは、従来搭載されていた3基のラジエーターに代わり、フロントのラゲッジコンパートメントに大型のセンターラジエーターを配置するというもの。それにより、サイドに生まれた余白スペースへ、高度な可変エアロダイナミクスデバイスを搭載することが可能になった。
さらに、フロントのスプリッターからフロントフェンダーのルーバー、ルーフ上のフィン、サイドブレードといった専用の空力パーツにより、GT3比でじつに3倍のダウンフォース量を実現。200km/h走行時で409kg、285km/hでは860kgものダウンフォースを生み出すという。
また、巨大な上下分割式のスワンネック式リヤウイングを採用。油圧により上部の角度が調整可能となっており、ポルシェ市販車としては初の「DRS」機能も実現している。F1でお馴染みのオーバーテイクウイングよろしく、ステアリングホイールのスイッチひとつで瞬間的に空気抵抗を減らすことができる。
加速性能
こうした数々の施策により、GT3 RSは次の通り、GT3を上回る加速性能を獲得した。
GT3
0-60mph(約97km/h)=3.2秒
0-100km/h=3.4秒
0-160km/h=7.0秒
0-200km/h=10.8秒
GT3 RS
0-60mph(約97km/h)=3.0秒
0-100km/h=3.2秒
0-160km/h=6.9秒
0-200km/h=10.6秒
GT3 RSは強大なダウンフォースを獲得し、より高いコーナリング速度を追求した結果、最高速度ではGT3が318km/hを掲げる一方、GT3 RSは296km/hに留まる。
くわえて、前後のリバウンド/コンプレッションダンピングを複数の段階に調整することができ、リヤディファレンシャルもレーシングカーのようにステアリングホイールのロータリースイッチで直感的に管理できるなど、GT3 RSにはサーキットでの走りをさらに際立たせる装置が数々搭載されている。フロントのラゲージスペースにさほどの未練を感じず、サーキットに赴く機会の多いオーナーであれば、GT3 RSにより強い魅力を覚えるに違いない。
両極端なオプションパッケージ
GT3を「レースカーの世界観を無理なく味わうことのできるユーティリティパフォーマー」とするならば、かたやGT3 RSは「レースカーの真髄を公道で味わうことのできるハードコアマシン」といえるかもしれない。その方向性は、互いに設定している魅力的なパッケージオプションの内容にも現れている。
GT3には、大型のリヤウイングをあえて装着しない「ツーリング パッケージ」を用意している(無償オプション)。自動展開式スポイラーを採用するこのパッケージは、“能ある鷹は爪を隠す”を地でいく内容であり、派手なアピアランスを避けつつハードコアな走りを折に触れて堪能したいユーザーには最適な選択肢である。
かたやGT3 RSは、無償オプションとしてスチール製ロールケージ、携帯型消火器、ドライバー用6点式ハーネスを含む「クラブスポーツ パッケージ」、さらにCFRP製ロールケージなどにより約6kgの軽量化を実現した有償の「ヴァイザッハ パッケージ」と、よりストイックなオプションメニューを設けている。
車両価格は、GT3が2438万円、GT3 RSが3134万円。GT3 RSがこれだけレーシングカーに近いパフォーマンスを与えられながら、プラス700万円高で抑え込まれているのは比較的良心的といえそうだ。
911も、今後予定されている改良新型ではハイブリッドモデルが登場するだろうというのがもっぱらの見立てとなっている。モーターやターボの助けを得ず、ボクサーシックスの旨味をとことんまで味わい尽くせるという点においては、GT3とGT3 RSが現時点で最良の選択であることは間違いない。