ラグジュアリー4ドアクーペ2台のライバル対決

輸入高級4ドアクーペの過激化はどこまで進む? BMW M8グランクーペとメルセデスAMG GT53を比較試乗で確かめた

M8コンペティション・グランクーペとAMG GT53を箱根のワインディングというステージで比べた、その結果は?
M8コンペティション・グランクーペとAMG GT53を箱根のワインディングというステージで比べた、その結果は?
美しいクーペデザインでありながら、4枚ドアにより利便性を高めたツアラーの2台。スーパースポーツに匹敵する高出力エンジンを搭載したことで、快適かつ快速な移動を実現した良き好敵手同士である。マイナーチェンジを遂げたライバル2台を箱根のワインディングで比較してみた。

BMW M8 Competition Gran Coupe×Mercedes-AMG GT 53 4Matic+

プレミアム4ドアクーペの最前線

BMW M8コンペティション・グランクーペ対メルセデスAMG GT53 4マティック+。言わずと知れたプレミアム4ドアクーペの代表格にしてライバル同士。

BMW M8がMモデルのフラッグシップとして君臨しているのに対し、メルセデスAMG GT53は王者63に次ぐ存在という印象が強い。だが現行のラインナップでは53がトップモデルの任を負っているのである。今回はマイナーチェンジを経て、今年本邦上陸を果たした2台の対決という構図なのである。

マイナーチェンジの内容をチェックしてみると、M8コンペティション・グランクーペには走行性能を左右するような仕様変更は見当たらなかった。ヘッドライトのシャドーラインが標準装備となった他、車体の前後にBMW Mの50周年を記念した特別なエンブレムを掲げている。室内ではセンターディスプレイが12.3インチと大型になったこと、そしてカーボン筐体のフロントバケットシートがオプションで選べるようになっている点が新しい。

まずはAMGからステアリングを握る

一方AMG GT53には新しいダンパーが採用されているというトピックがある。AMGライド・コントロール+エアサスという構成自体はこれまでと同じだが、ショックアブソーバーに2つの圧力制御バルブが追加されている点が新しい。伸び側と縮み側それぞれに作用することで減衰力の幅が広がっているという。

ステアリングも新しい意匠になっている。AMGパフォーマンスステアリングと命名されたそれは、スポークの形が細く分割されて精悍さを増した印象。左右のスポーク下にダイヤルスイッチが追加され、右側はドライブモード切り替え、左側は様々なモードの中から2つの機能を設定できるようになっている。

都心から箱根までの道中でステアリングを握ったのはメルセデスAMG GT53の方だった。

青い艶消しのボディカラーは、新たに加わったスペクトラブルーマグノ。試乗車はAMGダイナミックプラスパッケージ(85万7000円)というオプションが組み込まれていた。これは後輪操舵やバケット形状のパフォーマンスシート、電子制御LSD、さらにはAMGダイナミックセレクトにドリフトモードが追加されるなど、このクルマをAMGらしく走らせるために欠かせない、本来であれば標準で装備されるべきパッケージオプションである。

高速道路を走行中、「いいな!」と感じたのは新しくなったアシではなく、エンジンの方。このクルマが4ドアのAMG GTを名乗る前、AMG CLS53の時代から搭載されている3.0リッター直6ISGユニットである。電気的に盛られている排気音とパワーの盛り上がり感が上手くシンクロしていて気持ちがよく、ついついエンジン回転を引っ張り、パドルシフトで遊びたくなるのだ。

乗り替えて気づいたMの真価

電動スーパーチャージャーとモーターにより低回転域のパワーを補っているとはいっても、2.1tの車重に対する435psなので、加速は期待するほど強烈とは言えない。むしろエンジンパワーが若干控えめ、そしてブレーキもスチールローターであるが故、ストローク感のあるアシの動きが唐突なものにならず、シャシーの質感を際立たせる結果にもつながっているようだ。もちろん新しいショックアブソーバーの効果も発揮されているはずだが、高速道路の流れに乗って静かに走っている限りではマイチェン前との違いは見つけられなかった。

熟成されたはずのAMG GT53だが、2つほど気になる点があった。荒れた路面にさしかかると21インチのミシュラン・パイロットスポーツ4Sが急にロードノイズ製造機に豹変すること。そしてACCで追従走行している際、新しくなったステアリングの右スポーク上にあるキャンセルのボタンを不意に押してしまうことが何度かあった。

それでも伸びやかなボディの鼻先にパナメリカーナグリルを掲げた不敵な見た目からすると、AMG GT53はバランス重視の堅実な1台という印象に落ち着いたのである。

ところが箱根の稜線上でM8に乗り換えてみると、予め想定していた“2台の特性の違いとその落としどころ”が的外れなのだとわかった。

AMG GT53から乗り換えたM8コンペティション・グランクーペの印象は鮮烈という以外になかった。信じられないほど軽く滑らかで、万能感に満ち溢れていたのである。

圧倒的なM8の走り

そういえばこの日、AMG GT53で箱根ターンパイクを駆け上がっている最中、いつもは秒で見えなくなってしまうゆったり派のE氏がドライブするM8がぴたりとついてきていたので不思議に思っていたのだが、M8のステアリングを握ってみてすぐに納得がいった。

M8コンペティション・グランクーペの走りで印象的だったのは、信じられないほどのスピードを、乗り手が掌握しやすい点だった。エンジンのレスポンスやステアリングの中立付近のリニアさ。短めのストロークながら決してバネ下を暴れさせないアシ。重心を下げるカーボン製のルーフやクルマが発するインフォメーションをしっかりと伝えてくれるカーボン製のシートもいい仕事をしている。これらの要素が少しずつクルマの感度を高めることで、ドライバーとの距離感を詰めてくれる、そんな感覚なのである。

当代最高のハンドリングマシンは個人的にはアルピーヌA110だと思っている。そして最小限の舵角とスロットルワークで意のままに操れる今回のM8コンペティション・グランクーペのドライバビリティは、意外なことにA110のそれに似ていると確信したのだった。

M8の車重はAMG GT53より100kgほど軽量なのだが、ワインディングでは300kgくらい軽く感じる時もある。おそらくスロットルペダルにジワッと力を込めた瞬間から一気呵成に炸裂するパワーと、瞬時にストロークし減衰する秀逸なアシのおかげで重量感が相殺されてしまっているのだと思う。

それでもただひとつ、M8の走りにも気にいらない点があった。コーナーの入り口でフロントに荷重を掛けて可能な限り旋回させ、立ち上がりは直線的にというのは、誰もが考える理想的なコーナリングの方法だと思う。

その点M8は、ターンインでは後輪操舵のおかげもあってキレイな旋回姿勢が決まりやすいのだが、立ち上がりでもまだ後輪の舵が残って旋回が収まらずフラつくことがあった。そもそも僕はスポーツドライビングを補完する目的の後輪操舵が好きではないので、より一層気になってしまったのかもしれないが。

ハイパフォーマンスモデルの着地点は変わらない

ボディサイズも箱根の勾配も忘れてしまうほど機敏なM8コンペティション・グランクーペを体験してから再びAMG GT53をドライブしてみると、その印象が変わらないはずはなかった。

路面の凹凸をフワッといなしてくれるエアサスや、メルセデスらしい重量感を感じさせてくれるボディがワインディングでは鈍重なものに感じられた。リヤに備わっているはずの電子制御LSDの締結もほとんど感じられない。その代わりといっては皮肉っぽいのだがタイヤやブレーキがタレはじめてきていることだけはちゃんと伝わってくるのだ。

もちろんこの2台でロングツーリングに出たとしたら、2台の評価がここまで開くことはないだろう。むしろ快適な移動という点ではカーボン製の矯正的シートを備えたM8よりAMG GT53の方が優れているとされることは容易に想像がつく。

ただ箱根のワインディングというステージで比べた場合、M8コンペティション・グランクーペがAMG GT53を簡単にラップ遅れにしてしまうということなのである。

本邦導入はアナウンスされていないのだが、メルセデスAMGは63SEパフォーマンスというシステム総計843psを誇るPHVもリリースしている。M8の本当のライバルはこの怪物の方だと思うのだが、しかし両者を比較しても着地点は大して変わらないはず。それこそメーカーの個性そのものだからである。

用途や好みがはっきりしていれば、この2台で迷うことはあり得ない。ハイパフォーマンスモデルの個性は今なお少しも色褪せてはいないのだ。

REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2022年11月号

SPECIFICATIONS

BMW M8コンペティション・グランクーペ

ボディサイズ:全長5105 全幅1945 全高1420mm
ホイールベース:3025mm
車両重量:2000kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4394cc
最高出力:460kW(625ps)/6000rpm
最大トルク:750Nm(76.5kgm)/1800-5860rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式 AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ :前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35R20 後285/35R20
燃料消費率:8.8km/L(WLTC)
車両本体価格:2440万円

メルセデスAMG GT 53 4マティック+

ボディサイズ:全長5050 全幅1955 全高1440mm
ホイールベース:2950mm
車両重量:2080kg
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2996cc
最高出力:320kW(435ps)/6100rpm
最大トルク:520Nm(53.0kgm)/1800-5800rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式 AWD
サスペンション:前後マルチリンク
ブレーキ :前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前265/40R20 後295/35R20
燃料消費率:9.5km/L(WLTC)
車両本体価格:1839万円

【問い合わせ】
BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
https://www.bmw.co.jp/

メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
https://www.mercedes-benz.co.jp/

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著者プロフィール

吉田拓生 近影

吉田拓生

1972年生まれ。趣味系自動車雑誌の編集部に12年在籍し、モータリングライターとして独立。戦前のヴィンテ…