軽量スポーツカー「A110」と超軽量スポーツカー「セブン170R」の比較試乗

買うなら軽量スポーツカー「A110」か超軽量スポーツカー「セブン170R」か寒空の中で試乗して確かめた

もはやセブン170と同じ土俵で比べられる、軽量なスポーツカーは今やアルピーヌA110以外にはない。
もはやセブン170と同じ土俵で比べられる、軽量なスポーツカーは今やアルピーヌA110以外にはない。
ケータハム史上最も軽量な440kgという車重を実現したのがセブン170Rだ。 現行ジムニー用のスズキ製R06A型658ccエンジンを搭載するれっきとしたスポーツカーである。対するはこちらも量産スポーツカーとしては軽量なアルピーヌA110GT。それぞれに強烈な個性を持つ2台を比較することで見えてきた世界とは。

Alpine A110 GT
×
Caterham Seven 170R

共通するのは熱きドライビングプレジャー

試乗したのはセブン170R。ヒーターやフロントスクリーンを取り去り、カーボン製ダッシュパネルやケブラーシートを備え、わずか440kgの軽量を誇る。

現行ジムニーの直列3気筒エンジンを始めとしたスズキ製ランニングコンポーネンツを要所に使い、そのトレッドを狭めてナローボディ化することで、軽自動車の枠に収められたケータハム・セブン。2014年に登場して国内で200台以上を売り上げた「セブン160」の後継機種として、「セブン170」が再び我々の前に姿を現した。先代ジムニーが現役を退いたことで止まっていたエンジン及びトランスミッションの供給が、現行ジムニーのデビューで再開されることになったのだ。

そんなセブン170の対抗馬として今回用意されたのは、アルピーヌA110のベーシックグレードである「GT」であった。軽自動車のセブン相手にアルピーヌ? しかしよくよく考えるとこれはこれで、筋が通っている。そもそもセブン170と同じ土俵で比べられる、軽量なスポーツカーなど他にはないのである。ロータス・エリーゼなき今、それに変わる存在があるとしたら、やはりアルピーヌA110以外にはない。そして実際に比較してみると、そのコントラストが両者のキャラクターを、より鮮明に描きだしたのであった。

用意されたセブン170は、2つあるグレードのうちの、よりレーシーな「R」グレードだった。キーを捻ってスターターボタンを押すと、“プルン”とエンジンが掛かる。「なんだか可愛いなぁ」。そんなふうに思いながら走り出した筆者だったが、これが大間違いだった。軽とはいえこれが、レーシングセブンだということを、すっかり忘れていた。寒風が、顔をブン殴る。路面が恐ろしく近い。あの牧歌的で最高にハッピーな乗り物だったセブン160の面影が、170Rにはまるでない。

セブン170Rの車重は驚異の440kg

動力性能は現行ジムニーの「R06A」型を新たに搭載したことで、アウトプットが85‌PS/116Nmと向上している。このR仕様はヒーターやフロントスクリーンを取り去り、カーボン製の薄っぺらいダッシュパネルやケブラーシートを備えることで、なんと440kgの車重を実現していたのだ。

だからちょっと元気にアクセルを踏み込んだだけでも、容赦なく風が襲いかかってくる。エンジンは7000rpm手前でレッドゾーンを迎えるが、この車重なら3000rpm以上回せば十分な加速がどこからでも得られる。5速MTのギヤ比は2速が低く、山道を走るなら3速と4速を使う方がリズムがいい。

鼻水を垂らしながらもそのスピード感に慣れてくると、段々とキャラがわかってきた。その速さとトルクの大きさに対して、まず軽自動車枠のリヤトレッドが狭い。3気筒ターボはコンパクトで、前輪軸よりも後ろにマウントされてはいるが、ドライバーもリヤタイヤの直前に座らされているから、ボディバランス自体はそんなによくない。

くせ者なのは、15インチのエイボンタイヤだ。65扁平でエアボリュームが多く、グリップが低い割に縦バネが強いから、ブレーキペダルを離すのが早すぎると、ポーンとノーズが浮いてしまう。

だがこれを攻略すると、セブン170Rが愉しくなってくる。別にブレーキを詰めろ、なんて言わない。むしろ進入速度を落としてでも一呼吸置き、コーナーの手前でゆっくりとアクセルからブレーキに足を置き換える。そこでフロント荷重をドンピシャに合わせターンインすると、まさにクルマと一体になれるのだ。

ほどよいサスとエンジンが魅力のA110

旋回中はナロートレッドに横Gを掛けすぎないように。クリップからはじわっとアクセルを開けて行く。熱くなりすぎるとズルリと行くが、その時はクワイフ製LSDがマイルドに利いてトラクションを保つ。小径ステアリングでほんの少しずれを修正するだけで、挙動はまとまる。鼻水を垂らしながら笑ってるオッサンの顔は、さぞかしキモかっただろう。ただやっぱり個人的にはフロントスクリーンが欲しいと感じた。

バイク以上に、バイク的。そんなセブン170Rから乗り換えたら、さぞかし刺激が足りないだろうと予想した筆者だったが、こちらもまた大間違いだった。ワインディングで走らせるA110GTは、文句の付けようがないスポーツカーだった。

セブンに慣れた身体には、その着座位置がSUVのように高かった。足まわりはねっとりしなやかで、乗り心地はロールスのようだ。しかしハンドルを切り始めると、途端に世界が変わる。素早くロールしたあと、張り付くように姿勢が安定する。コーナリング中のインフォメーションは抜群に豊かで、道路を手の平でなぞっているかのようだ。

ブレーキングから、ターンイン。アクセルを離したエンジンが、バラバラと内燃機関最後のバブリングをまき散らすのも痛快。そしてクリップからアクセルを足して行けば、トラクションがしっかり掛かる。GTはアルピーヌにおいて最もベーシックなグレードだが、むしろその行き過ぎないサスペンション剛性と、300PSのほどよいパワー感がいい。

双方の個性が炸裂

箱根の山頂に佇む2台。A110もセブン170Rも軽量ならではの走りが楽しめた。

アルピーヌA110GTの洗練された身のこなしと比べてしまうと、セブン170Rはまるで棍棒を持った原始人のようだ。両者のキャラクターは、あまりに対照的である。

しかしドライビングプレジャーを追い求める姿勢は、どちらも一歩も引かないほど熱い。よってプリミティブなセブン170RとミニマルなA110GTのどちらを選ぶかは、乗り手の性格に委ねられると感じた。どっちがいい? ではなく、どちらに乗りたいかで選ぶべき2台だ。

REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2023年1月号

SPECIFICATIONS

ケータハム・セブン170R

ボディサイズ:全長3100 全幅1470 全高1090mm
ホイールベース:2225mm
車両重量:440kg(Dry)
エンジンタイプ:直列3気筒DOHCターボ
総排気量:658cc
最高出力:62.6kW(85PS)/6500rpm
最大トルク:116Nm(11.8kgm)/4000-4500rpm
トランスミッション:5速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前ベンチレーテッドディスク 後ドラム
タイヤサイズ:前後155/65R14
0-100km/h加速:6.9秒
最高速度:168km/h
車両本体価格:599万5000円

アルピーヌA110 GT

ボディサイズ:全長4205 全幅1800 全高1250mm
ホイールベース:2420mm
車両重量:1120kg
エンジンタイプ:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1798cc
最高出力:221kW(300PS)/6300rpm
最大トルク:340Nm(34.6kgm)/2400rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前205/40R18 後235/40R18
0-100km/h加速:4.5秒
最高速度:250km/h
車両本体価格:930万円

【問い合わせ】

エスシーアイ
https://www.caterham-cars.jp

アルピーヌコール
TEL 0800-1238-110
https://www.alpinecars.jp/

アルピーヌ A110 Rのフロントスタイル

続々新作が登場する「アルピーヌ A110」のオススメとは? 「価格」「装備」「性能」で比較

「過激」を表すRadicalから頭文字をとったアルピーヌ A110シリーズの新作「A110 R」がワールドプレミアされた。すでに唯一無二のライトウェイトミッドシップスポーツとして定評のあるA110だが、その軽量性能とエアロダイナミクスに磨きをかけたのが「A110 R」となる。進化を続けラインナップを拡充する稀代のライトウェイトスポーツ「A110シリーズ」の現在地を考察する。

キーワードで検索する

著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

モータージャーナリスト。自動車雑誌『Tipo』の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した…