スポーツカーとして生まれ変わったメルセデスAMG SL43に試乗

「これはポルシェ911に匹敵するかも!?」メルセデスAMG SL43を箱根路で試乗して痛感した実力

スーパースポーツ的ハンドリングのSL43は、ラグジュアリースポーツではなく、紛れもなくAMGが本気で造ったスポーツカーだ。
スーパースポーツ的ハンドリングのSL43は、ラグジュアリースポーツではなく、紛れもなくAMGが本気で造ったスポーツカーだ。
メルセデスのモデルの中で最も長い歴史を持つのがプレミアムオープンのSLだ。誕生70年という記念すべき年に7代目となる最新モデルが上陸を果たした。電動ターボ、AMG初のフロント5リンク式サスなど先進技術を採用した、AMG完全自社開発モデルの走りを箱根路で堪能してきた。

Mercedes-AMG SL 43

AMGによる独自開発

ソフトトップの開閉はメディアディスプレイから行う。指先で画面をドラッグする新鮮な操作系だ。
ソフトトップの開閉はメディアディスプレイから行う。指先で画面をドラッグする新鮮な操作系だ。

「Sport Leicht」、ドイツ語の“軽量スポーツ”を略したモデル名を冠されて1952年に登場した300SL(W194)。この公道も走行できるスポーツカーは、ル・マン24時間耐久レース優勝のほか、世界各地のレースで輝かしい戦績を収めたメルセデスにとって栄光のマシンだ。

初代300SLの登場から70年が経ち、7代目となる新型SLがついに日本に上陸を果たした。思えば300SLは近年のAMGモデルの象徴である縦型グリル「パナメリカーナグリル」を採用した初のスポーツカーであった。高性能モデルを生み出すAMGブランドの象徴的アイコンは初代SLから生まれたのだ。

そう考えると、生誕70年という節目に新型SLがメルセデス・ベンツ・ブランドからではなく、メルセデスAMGによる完全自社開発モデルとして生まれ変わったのは、なにか因縁めいたものを感じてならない。

AMG専用モデルとなった新型SLのラインナップは実にシンプルだ。M139型2.0リッター直列4気筒ターボを搭載する「SL43」の1グレードのみの展開となる。世界でも最も有名なラグジュアリースポーツカーが1グレードのみ? しかも2.0リッターエンジン? 熱心なスポーツカーファナティックほどこの事実に首を傾げるに違いない。

電動ターボを搭載する

だが、それは杞憂にすぎない。SL43は今メルセデスが持ちうる最新の技術がふんだんに落とし込まれた、まさに最先端のオープンスポーツに仕上がっている。

その象徴がF1の技術をフィードバックしたエレクトロニック・エキゾーストガス・ターボチャージャーを採用した2.0リッター直4エンジンだろう。排気側のタービンホイールと吸気側のコンプレッサーホイールの間のターボチャージャーの軸に電気モーターを一体化する本システム。排気圧が低い状態でも電気モーターがタービンを回すことで、アイドリングスピードから全回転域に渡って鋭いレスポンスを生み出す画期的なものだ。

F1由来の電動ターボを採用したことで、SL43に搭載される2.0リッター直4エンジンは、最高出力381PS、最大トルク480Nmを実現。先代モデルに搭載される3.0リッターV6エンジンとほぼ同等の性能を達成しているという。

AMGが新開発したアーキテクチャーも注目だ。軽量なアルミニウムをメインに、スチール、マグネシウムなどの複合素材を組合わせたことでねじり剛性は先代から18%向上し、横方向剛性はAMG GTロードスターに比べ50%も増加している。SLの名に恥じないスポーティな走りを実現するために徹底した軽量化と剛性を両立させたAMGの意地がここに垣間見える。

驚くべき静粛性

湖面から湯気が立ち上る「気嵐(けあらし)」が出現した寒い早朝の芦ノ湖を横目に眺めつつ、箱根路でSL43を走らせる。リュックサックは後席に放り投げ、発着場所のホテルを後にした。そう、新型SLはR129以来となる2+2シートレイアウトを採用している。身長150cmまでの乗員しか座れない制約のある狭い後席だが、ちょっとした荷物が置けるのはとても有り難い。

ホテルから国道1号までの細い道は状態が悪く、激しい凹凸や深い轍が混在する。まず驚いたのはそんな不整路でもロードノイズが車内に侵入してこない極めて高い静粛性だ。新型はこれまたR129以来となる電動ソフトトップを採用するが、これが実によくできている。外側シェルとルーフライナーの間に防音マットを挟む3層構造としたことが効いているのか、トップを閉めた状態だと、まるでSクラス並(大げさではない)の静寂が車内を包み込む。

トップを開放するのは実に簡単な作業だ。メディアディスプレイの画面を指先で操作すると約15秒で開閉が完了する。60km/hまでならば走行中も開閉可能だ。国道1号に入り、早速トップを降ろす。この日は冷え込みが強く、12月中旬の気温と天気ニュースが伝えるほど寒かったが、ヒーター&エアスカーフにより首元や腰部が暖められ、寒さはほぼ感じない。

意のままの加速を瞬時に引き出す

F1由来のエレクトリック・エキゾーストガス・ターボチャージャーを採用したM139型2.0リッター直4を搭載。低回転時から電動モーターがタービンを回すことで、ターボラグのない鋭いレスポンスを味わえる。
F1由来のエレクトリック・エキゾーストガス・ターボチャージャーを採用したM139型2.0リッター直4を搭載。低回転時から電動モーターがタービンを回すことで、ターボラグのない鋭いレスポンスを味わえる。

道が空いてきたのを見計らってドライブモードをスポーツに設定し、少しアクセルを強めに踏んでみる。すると今まで粛々と回っていたM139が目覚め、アクセルに瞬時に呼応して潤沢なトルクが湧き出した。椿ラインに入ると、ツイスティなワインディングが続くが、ここで電動ターボが威力を発揮した。減速→ターンイン→加速を頻繁に繰り返すシチュエーションだが、エンジン回転数が落ちようともアクセルを踏めば瞬時にトルクが立ち上がり、猛烈な加速を生み出す。ターボラグなどまるでない。例えるならば自然吸気並のレスポンスと恍惚感を味わいながら、どの領域でもターボならではの過給を楽しめる初の体験だ。湿式多板クラッチを採用したトルコンレスのAMGスピードシフト9速ATもダイレクト感ある変速で非常にスポーティだ。

箱根ターンパイクに入り、走行モードをスポーツ+に変えてみたが、より獰猛なエキゾーストノートと過敏すぎるエンジンレスポンスにやや躊躇し、再びスポーツに戻した。スポーツ+モードは相当な手練か、サーキットシチュエーションでの使用が合っているのかもしれない。ワインディングロードではスポーツモードで十分だ。

本気のスポーツカー

ソフトトップの開閉はメディアディスプレイから行う。指先で画面をドラッグする新鮮な操作系だ。
トップを閉めた状態だと、まるでSクラス並(大げさではない)の静寂が車内を包み込む。ソフトトップの開閉は60km/h以下で約15秒。

箱根路を駆け抜け、私は確信した。SL43はラグジュアリースポーツではなく、紛れもなくAMGが本気で造ったスポーツカーなのだと。その証拠にハンドリングはスーパースポーツのそれだ。ステアリングを切れば切るだけドライバーの意思に忠実にノーズがコーナーに吸い込まれていく。4気筒ゆえのノーズの軽さが効いているのだろう。とにかく鼻先が軽いのだ。それでいてちょうどいい握りのステアリングからは、安っぽさの微塵もない上質でしっとりとしたフィールが掌に伝わってくる。路面の状況が上質なステアフィールから的確に伝達されるのだ。

欧州のスーパースポーツが軒並みパワーウォーズに巻き込まれる中、電動ターボ付きの2.0リッターを積んだ新型SL。数値的には381PSだが、はっきり言って十分すぎるパワーであり、そんなことよりもそのレスポンスとピュアスポーツカーとしての走りに素直に感銘を受けた。純然たるライバルのポルシェ911と乗り比べてみるのが今から楽しみだ。

REPORT/石川亮平(Ryohei ISHIKAWA)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2023年1月号

SPECIFICATIONS

メルセデスAMG SL 43

ボディサイズ:全長4700 全幅1915 全高1370mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1780kg
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1991cc
最高出力:280kW(381PS)/6750rpm
最大トルク:480Nm(48.9kgm)/3250-5000rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後5リンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前265/40R20 後295/35R20
燃料消費率(WLTC):10.8km/L
車両本体価格:1648万円

【問い合わせ】
メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
https://www.mercedes-benz.co.jp/

専用プラットフォームに新開発の電動ターボを搭載するエンジンなど、大幅なブラッシュアップが施された新型SL。しかも先代では2シーターだったが新型では2+2となった。

メルセデスを代表するスポーツカー「SL」は新型でどれほど進化したのか新旧モデルで比較する

長く愛されてきたモデルは、その歴史の中で研ぎ澄まされてくる。それはつまり、最大のライバルは過去の自分自身であることを意味する。メルセデス・ベンツの最高峰スポーツとして長い歴史を誇るSLにとって、最大のライバルと言えるのは、先代モデルなのかもしれない。

キーワードで検索する

著者プロフィール

石川亮平 近影

石川亮平

スーパーカー&プレミアムカー雑誌「GENROQ」に在籍しながらも、カジュアルなフレンチカーも大好物な編集…