シビックタイプR対ゴルフRの300PS超のホットハッチ対決!

今もっともホットなハッチバック対決「シビック タイプR」と「ゴルフR」を市街地試乗で比較する

昨年12月、8代目ゴルフのフラッグシップとして登場した新型ゴルフR。ゴルフ史上最もパワフルな320PSを発生するホットハッチAWDだ。対するライバルは日本のスポーツカーを牽引してきた新型シビックR。スペックが酷似する2台だが、実際に比較してみるとその個性は対照的だった。

Honda Civic Type R
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Volkswagen Golf R

異なる駆動方式と近い最高出力

スーパーGTのGT500マシンも2024年シーズンからシビックタイプRのシルエットに変更される。新型シビックタイプRがNSXなきあとのホンダのスポーツイメージを引き受けるのだ。

最大の違いは、2台の駆動方式が異なるという点だろう。ゴルフRは言わずもがなのAWD、対するシビックタイプRはもちろんFWDだ。

道行く成人男性がけっこうな確率で振り向くチャンピオンシップホワイトの新型シビックタイプR。デリバリーはすでに始まっているが日本割り当ての台数も少なく、出会うこと自体がレアなのだろう。

対するゴルフRはマイナーチェンジを受けてなおお馴染みのラピスブルーメタリックなので、少しも変わり映えしない。AWDシステムの名称は4モーションのままなのだが、リヤ部分は大きな変更を受けている。センターとリヤのデフが廃され、その代わりに駆動力の分配はファイナルギヤのケーシングの両脇に追加された電子制御油圧多板クラッチで行われるようになっているのだ。

「Rパフォーマンストルクベクタリング」を可能にするこのトルクスプリッターはつまり、現行アウディRS3の売りである「ドリフトモード」を可能にしているそれと同じマグナ社の製品。それが目指すところは、4輪をこれまで以上に細かく制御したいということなのだろう。

マイナーチェンジを経たゴルフRのもうひとつのトピックはエンジンにある。最高出力が10‌PS上がり、320PSになったのだ。ところがシビックタイプRの方も今回10‌PS上乗せして330PSになってしまったので、差は縮まらず。とはいえ今回2台が数値的に最も接近しているのはこの部分かもしれない。

ワクワクさせてくれるタイプR

AWDシステムの名称は4モーションのままだが、センターとリヤのデフが廃され、ファイナルギヤのケーシングの両脇に追加された電子制御油圧多板クラッチで行われる。

新型のシビックタイプRは6代目。以前はイギリスで生産されていた時代もあるが、今回は再び日本製。スタイリングは5ドアのファストバックスタイルとなっている。

見る人が見れば専用のブルーに少しだけオーラが感じられる程度のゴルフRに対し、シビックタイプRはリヤウイングも聳え立って賑々しい。フロントマスクもシルエットもこれといって特徴的なわけではない。だが白くてワイドなボディに赤いブレーキキャリパーとエンブレム、シートというだけで「タイプR」を直感させ、ワクワクさせてくれるのだ。

NSXなきあとのホンダのスポーツイメージを引き受ける新型シビックタイプRには覚悟のようなものが感じられるのである。そういえばスーパーGTのGT500マシンも来シーズンからシビックタイプRのシルエットに変更される。敵はGRスープラとフェアレディZなので、イメージ的にホンダが得するような気がするのは筆者だけ?

ともあれ、みんなが振り向くタイプR。今回の撮影に参加したスタッフ全員が「乗ってみたい!」と口を揃える人気者。ということで白い方から試乗してみることにした。

やりきっているブランドの強み

ホールド性の高い赤いバケットシートに腰掛け、6速マニュアルのシフトの動きを確かめてから発進する。第一印象はやっぱりエンジンだった。車体の軽さやボディの硬さといった車体の印象を自然吸気のように鋭いスロットルレスポンスが覆い隠す。主役はあくまでエンジンというスタンスは実にホンダらしく、そして目が覚めるように速い。

このVTECとターボを備えた2.0リッター4気筒は、レブリミットにぶち当たるまでパワーがもりもりと膨らみ続けるのだ。

シャシー面で興味深かったのは、トルクステアが盛大に出ること。フロントアクスルは以前からデュアルアクシスストラットという巧妙なサスペンションを装備しているが、それでも前輪駆動の限界は避けられないということなのだろう。とはいえ無理をしなければ、トルクステアもジャダー(タイヤの縦跳ね)は起きないので問題とは言えないと思う。

アダプティブダンパーはモードごとに大きく減衰を変化させる。公道ではCOMFORTでも十分にスポーティ。SPORTははっきりと硬めで、かなりのハイペースでなければ使う気にならない。さらにシフトレバー脇のボタンで+Rモードを選ぶと、路面の不整をきっかけに車体の縦揺れが止まらなくなる。これはまるで、昨シーズンのF1で問題になったポーパシングの如しである。

だが、そんな攻め過ぎた部分もひっくるめて「やり切っているな」と思えるところが、ホンダのタイプRのブランドとしての強さなのだと思う。これは日常のアシではなく、ここぞという時の戦闘機なのである。

鮮やかなコントラスト

鮮烈な印象のシビックから乗り換えたゴルフRは、落ち着きはらったオトナの乗り物だった。変更点に関してもスピードを高めてコーナリングを試すまで、どこがどう変わったのかさっぱり感知できなかった。

コーナーで感じたリヤのトルクベクタリングの仕事は少し不自然な感じがした。具体的にはオーバーステアを抑えようとしている状態と、プッシュアンダーを抑えようとしている状態が交互に現れる。アウディRS3のそれは積極的に曲げる方向にピントが合っていたが、ゴルフRはギミック同士がせめぎ合っている感じ。サーキットならもう少し攻撃的な部分が顔を覗かせるはずだが、基本的にドライバーを楽しませようというサービス精神はなさそうだ。スタビリティの高さによって信用を積み上げていくクルマなのだろう。

今回の2台は駆動方式に留まらず、多くの部分が違っている。ここまでベクトルが違うと優劣のつけようがないように思う。だが一歩下がって俯瞰すれば、今という時代にメーカーの威信をそのまま反映した、手間暇かけたスポーツモデルが息づいている事実こそ価値があると思う。

REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2023年3月号

SPECIFICATIONS

フォルクスワーゲン・ゴルフR

ボディサイズ:全長4295 全幅1790 全高1460mm
ホイールベース:2620mm
車両重量:1540kg
エンジンタイプ:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1984cc
最高出力:235kW(320PS)/5350-6500rpm
最大トルク:420Nm(42.8kgm)/2100-5350rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後235/35R19
車両本体価格:639万8000円

ホンダ・シビックタイプR

ボディサイズ:全長4595 全幅1890 全高1405mm
ホイールベース:2735mm
車両重量:1430kg
エンジンタイプ:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1995cc
最高出力:243kW(330PS)/6500rpm
最大トルク:420Nm(42.8kgm)/2600-4000rpm
トランスミッション:6速MT
駆動方式:FWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後265/30ZR19
車両本体価格:499万7300円

【問い合わせ】
フォルクスワーゲン カスタマーセンター
TEL 0120-993-199
https://www.volkswagen.co.jp/

Hondaお客様相談センター
TEL 0120-112010
https://www.honda.co.jp

羊の皮をかぶった狼を体現するゴルフRと、全身からただ者ではない雰囲気を醸し出すシビック・タイプR。どちらも独特の魅力を持っている。

エンジン性能が似た「ホンダ シビック タイプR」と「フォルクスワーゲン ゴルフR」2台のRを比較する

Cセグメントハッチバック随一のハイパフォーマンスモデルという括りで見れば、シビック・タイプRとゴルフRは、好敵手といえる関係だ。しかし、そのキャラクターはやや異なる。ニュル最速を宿命づけられた、いわばゴリゴリの体育会系であるシビック・タイプRに対して、ゴルフRの普段の顔は紳士的。ただし、そのマイルドな乗り味は、いつでも狂気じみた走りに変貌できるのだが……。

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著者プロフィール

吉田拓生 近影

吉田拓生

1972年生まれ。趣味系自動車雑誌の編集部に12年在籍し、モータリングライターとして独立。戦前のヴィンテ…