BMW M4 CSLを富士スピードウェイで全開テスト

貴重な限定車「BMW M4 CSL」の富士スピードウェイ全開アタック実録ドキュメンタリー

BMW M社の創立50周年を記念して発売されたM4 CSL。クーペ・スポーツ・ライトウエイトの頭文字を車名に掲げる1000台限定モデルの実力を富士スピードウェイで試した。

BMW M4 CSL

「M4 CSLでタイムアタックするぞ!」

M50周年を記念したスペシャルラインナップの中でも、サーキット走行を可能としたMハイパフォーマンスモデルがM4 CSLだ。世界限定1000台で日本への割り当てはわずか25台である。M4コンペティションのRWDモデルをベースに、100kgの軽量化と最高出力を40‌PSアップしたエンジンで、ニュルブルクリンク北コースを7分20秒で駆け抜けるという。これはタイムアタックを担当したドライバーの速さと技術も素晴らしいが、ニュルブルクリンク北コースで速く走るには、高速域で走る時に加わる大入力に耐える強度とクルマの高い完成度が求められる。単に高出力エンジンとハイグリップタイヤでは到達できない領域だ。

「M4 CSLでタイムアタックするぞ!」BMW Team Studie監督兼Studie AGのBOB鈴木会長から連絡が来た。正直「え? こんな貴重なクルマをサーキットで走らせるんですか!?」と思った。BMW M屈指の速さを持つマシンを走らせられる嬉しさと同時に、スーパーGTのQF1と同じレベルの緊張感に襲われた。

タイムアタックは混雑するスポーツ走行枠の中で行った。当日、富士スピードウェイには多くの車両が集まっていたので、クルマとタイヤが1番良い状態のタイミングでクリアラップを取るのが重要だ。どんなクルマが混走するかもチェックして、クリアラップをとるための作戦を考える。スーパーGTのレースウィークと同様にタイヤの温め方やコースインのタイミングのイメージトレーニングを繰り返す。

はっきり感じられる軽量化の威力

気温は低いが太陽は出ている。低い気温はエンジンパワーを引き出し、日光はタイヤのウォームアップを助ける。本当は走行ギリギリまで走るタイヤを日光で温めたいところだが、残念ながらロードカーなのでピット内の日陰で冷え切った状態でコースインした。

最近のスーパースポーツカーに装備される電子制御は本当に賢く、とてもハイレベルだ。M4にもスーパーGTやワールドチャレンジアジアを戦うM4 GT3同様にトラクションコントロールの介入量を調整できる機能が備わっている。装着されるミシュラン・パイロットスポーツカップ2Rのピークグリップを、上手く使うことを考えるとトラクションコントロールの介入は最小限にしておきたい。しかし、この日が初の全開走行なので基準となるデータがない。過去の経験をもとに色々と考えた結果、スーパーGTの予選アタックと同じポジション3をチョイスして、あとは右足でコントロールすることにした。シャシーやエンジン、シフトタイミング、ステアリングなどのセッティングは1番スポーティなセットにした。

ピットロードエンドから加速すると、なんとスーパーGTのアウトラップより滑る。前を走るStudie AGの相澤専務が乗るM3についていけない。1コーナー、Aコーナー、まだグリップは出ない。100Rで少しグリップしてきたが、ヘアピンではやはり大きくスライドする。

タイヤをウォームアップさせながらの走行だが、この時点で100kgの軽量化の威力をはっきり感じられる。ステアした際のレスポンスの良さ、スライドした時のグリップの回復の速さ。そして300Rで速度を上げた時のダウンフォース。シケインの切り返しでも動きが軽い。これは上手く走らせれば速そうだ。まだグリップの出ていないアウトラップでもそう感じた。

狙ったインに正確に行ける感覚

そこから丁寧に2周ほどタイヤをウォームアップさせ、グリップが出てきた計測3周目にアタックを開始した。最終コーナーを立ち上がり重視のラインでストレートスピードを稼ぐ。ここで初めてアクセル全開。2.1barまでアップしたブースト圧で、510PS仕様のM4コンペティションより気持ちいい! シフトスピードも速く、1コーナーに向けて加速し続ける。これはGT300を戦うM4 GT3より速いとすぐにわかる(走行後にデータロガーを確認すると最高速は285km/hだった)。だが、ここでいきなり前方にトラフィックを発見。安全マージンを取って1コーナーのブレーキングを250m看板手前から開始しタイムロス。だがタイヤのグリップ感は良好なので引き続きプッシュする。

Aコーナーはインサイドのポールギリギリを狙う。ゼブラの段差でも跳ねることなく安定している。続く高速コーナーの100Rではクルマのバランスに加えて前後のダウンフォースのバランスも良くとても乗りやすい。100Rからの横Gがゼロになる前にブレーキングしてヘアピンを旋回。この時に狙ったインに正確に行ける感覚はレーシングカーの領域だ。スプリングやダンパーだけでなく、サスペンションの取り付け剛性もかなり高いレベルにあるのがわかる。

300Rはフルスロットルのままクリアしてシケインのブレーキング。カーボンブレーキと100kgの軽量化で制動感も抜群だ。シケインの切り返しも狙ったところに正確に行ける。早目のパワーオンで……と思ったところでホイールスピンを多く発生させてしまった。13コーナーはクルマのバランスが良い。スープラコーナーまでスピードを稼げる。だがスープラコーナーと最終コーナーの立ち上がりでもホイールスピンが多い。やはりトラクションコントロール3は少なすぎたか。この周は1分50秒2。上手く走らせたら、もっと速そうだという感触を得てピットインし、タイヤを温存する。

GT3レーシングカーの領域へ

ピットで相澤専務にタイムアタックの走りをフィードバックする。「もう1回いきましょう!」ということで次の走行枠を待つ。今度は全車コースインした後に少し間を置いて、何がなんでもクリアラップを取る気持ちでコースイン。トラクションコントロールは少し介入量を増やしてポジション5。今回もタイヤを丁寧にウォームアップさせてアタックに入る。2回目なのでブレーキングポイントもアジャストして正確にコーナースピードを合わせる。しかし、十分に距離を取ったはずが、やはり他車に追いついてしまった……。だがトラクションコントロールの介入量がバッチリ決まり、ミスしないようにまとめられた。タイヤのピークグリップから少しダウンしてしまっているが、コントロールラインを通過してラップタイムを確認すると1分49秒台を記録していた。

この車重と550PSの最高出力で1分50秒を切る速さは、Mの頂点を極めるM4 CSLの高いパフォーマンスを示している。BMWによる重量物を中心に集めたクルマづくり、そのバランスの良さを究極に追求したのがM4 CSLだ。この貴重なMは単なる象徴ではなく、洗練された走りが魅力だった。

REPORT/荒 聖治(Seiji ARA)
PHOTO/市 健治(Kenji ICHI)
COOPERATION/Studie AG
MAGAZINE/GENROQ 2023年4月号

SPECIFICATIONS

BMW M4 CSL

ボディサイズ:全長4805 全幅1920 全高1385mm
ホイールベース:2855mm
車両重量:1630kg
エンジン:直列6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2992cc
最高出力:405kW(550PS)/6250rpm
最大トルク:650Nm(66.3kgm)/2750-5950rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前275/35ZR19(9.5J) 後285/30ZR20(10.5J)
最高速度:307km/h(電子制御)
0-100km/h加速:3.7秒
環境性能(WLTP):10.1-9.9km/L
車両本体価格:2196万円

【問い合わせ】
BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
https://www.bmw.co.jp/

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ビー・エム・ダブリューは、全世界1000台限定で生産される究極のBMW Mモデル「M4 CSL」の注文の受付を、BMWオンライン・ストア限定で2022年9月26日午後11:59まで実施する。日本国内には限定25台の導入が決まっており、限定台数より注文数が上まわった場合は、厳正な抽選により10月初旬までに当選者を決定する。デリバリー開始は、2022年第四四半期以降を予定している。

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荒 聖治