先代ルノー カングーオーナーが新型を市街地で試乗して進化を確認

旧型ルノー カングーの元オーナーが3代目となる新型を市街地で試乗して感じた戸惑いと進化

横浜の街を走る新型ルノー カングー。1750rpmから270Nmを発生する1.5リッターディーゼルはストレスフリーな加速を見せる。
横浜の街を走る新型ルノー カングー。1750rpmから270Nmを発生する1.5リッターディーゼルはストレスフリーな加速を見せる。
「ルドスパス(遊びの空間)」をコンセプトに日本で 大ヒットしたルノー・カングー。累計3万台以上の販売を誇るルノーの代表モデルが3代目へと進化を遂げた。圧倒的なユーティリティ、選べる2つのパワートレイン、先進安全装備など、盤石とも言える正常進化を果たしているのが特徴だ。

Renault Kangoo

ヒエラルキーからの脱出

全長が+210mm、全幅は+30mm拡大したが、最小回転半径は5.6mと先代に比べて0.2mの拡大に留まっている。
全長が+210mm、全幅は+30mm拡大したが、最小回転半径は5.6mと先代に比べて0.2mの拡大に留まっている。

初代&2代目で約3万台以上の販売台数を記録したルノー・カングー。その愛らしいルックスと商用車出自ゆえの積載性と使い勝手、フランス車らしい柔らかな乗り味……etc。魅力を挙げればこのように枚挙に暇がないが、類まれなる強烈な個性が日本人の心を捉えたからこその大ヒットとなった。

個人的な話で恐縮だが、筆者も2代目(通称デカングー)の初期モデルをかつて所有していた。当時、家族が増え、荷物を多く積載できるクルマを探していたが、どうも日本メーカーのミニバンには触手が伸びなかった。日本のミニバンはスモールサイズからビックサイズまで各メーカー豊富なラインナップを揃えているが、どのモデルを選んでも結局メーカーが提案(推奨)するライフスタイルの範疇から抜け出せない気がして、それが嫌だったのだ。

また明確に日本のミニバンには価格帯とサイズにヒエラルキーが存在し、それに囚われるのも抵抗があった。そんなとき、カングーはひとつの救いであった。カングーを選べば、自由な生活(または自分らしい生活)を満喫でき、日本のミニバンヒエラルキーから逃れられるカウンターのような存在に感じたからだ。電動スライドドアもなければ、特に目新しい装備もない。それでも自分にとっては“カングーを選ぶ”“カングーと暮らす”生活は唯一無二の時間であり、かけがえのないものとなった。

カングーユーザーにとってカングーを選択する理由は様々だろうが、皆さんカングーのある生活を存分に楽しんでいるのは確かだ。ユーテリティやフランス車らしい走りが魅力のカングーだが、皆さん選ぶ理由はそれだけではないというのが不思議なモデルなのである。

大きくなったボディと広くなった室内

そんな日本における特異な存在であるカングーが、ついに3代目へとスイッチした。ボディサイズ拡大による積載性&居住性の向上、先進安全装備の採用など、従来のユーザーが待ち望んでいた部分を徹底的に磨き上げた、いわば正常進化版といえるモデルだ。

ボディ同色バンパー仕様のディーゼルエンジンを搭載した「インテンス」に試乗してきたので、気になる走りやユーティリティについてレポートしたい。

従来のカングーオーナーの方はここまで読んで「ボディ同色バンパー仕様?」と思われる人もいるはずだ。そう、新型カングーは「ボディ同色バンパー仕様」と鉄チンホイールや樹脂製黒バンパーを前後に施した「ブラックバンパー仕様」が用意される。また、エンジンは1.3リッターターボと1.5リッターディーゼルをラインナップする。つまり新型カングーは2つのボディ仕様に2つのパワートレインがそれぞれ用意されることになる。個人的には従来のカングーの無骨なデザインを好む向きならば、ブラックバンパー仕様の一択だろうと思うが……。

横浜にあるルノー・ジャポンでクルマを借り出し、外観を眺めるとボディサイズが大きくなったことにすぐ気がついた。全長が+210mm、全幅は+30mm拡大している。だが、最小回転半径は5.6mと先代に比べて0.2mの拡大に留まっているので、実際の取り回しはほぼ変わらないはずだ。

ボディサイズ拡大の恩恵は大きく、3座独立式の後席に乗り込んだときの居住性には驚いた。身長175cmの筆者が乗り込んでも膝周りに余裕があり、非常に快適だ。もうひとつ驚いたのはリヤスライドドアの開閉のしやすさだった。2代目はスライドドアが重く、大人でも開閉に苦労することがあったが、新型は驚くほど軽く、スムーズに開閉することができる。これならば子供でも開閉に難儀することはないはずだ。

走行性能は圧倒的に進化

乗用車ライクな低い着座位置の運転席に座り、実際に横浜の街を走らせてみる。わずか1750rpmから270Nmを発生する1.5リッターディーゼルは非常にトルキーで発進時から合流時までストレスフリーな加速を見せる。少し気になるのはアクセルがやや早開きな点か。ステアリングは切り始めからクイックにノーズが動き、コーナーをなめるように正確にトレースしていく。

初代&2代目はしっかりとストロークするサスペンションにより、深いロールを伴ってコーナーを曲がる特性が痛快だったが、新型ではこの感覚は味わえない。絶対的なコーナリング速度やボディ剛性は新型が圧倒的に勝るが、従来のいかにもフランス車然とした走りが好きだった向きはちょっと戸惑うかもしれない。

待望のADASは文句のつけようもない優れたシステムを採用している。アダプティブクルーズコントロールはもちろんのこと、車線からの逸脱を防ぐルノー車初搭載のエマージェンシーレーンキープアシストも装備される。実際に高速道路で試してみたが、実に快適で見事な制御を披露した。

圧倒的なユーティリティと居住性、安全装備を備えた3代目カングー。個人的には諸手を挙げて歓迎したいところだが、初代&2代目の無骨で道具に特化した“カングーならではの感覚”を知っているだけに、少し物足りなさも残ったのは事実。クルマとしては正常進化だが、そこに“カングーらしさ”を見いだせるか。ヒットのポイントはまさにそこだろう。

REPORT/石川亮平(Ryohei ISHIKAWA)
PHOTO/市 健治(Kenji ICHI)
MAGAZINE/GENROQ 2023年4月号

SPECIFICATIONS

ルノー・カングー インテンス(ディーゼル)

ボディサイズ:全長4490 全幅1860 全高1810mm
ホイールベース:2715mm
車両重量:1650kg
エンジン:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
総排気量:1460cc
最高出力:85kW(116PS)/3750rpm
最大トルク:270Nm(27.5kgm)/1750rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:FWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後トーションビーム
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後205/60R16
燃料消費率(WLTC):17.3km/L
車両本体価格:419万円

【問い合わせ】
ルノーコール
TEL 0120-676-365
https://www.renault.jp

フルモデルチェンジを果たした、新型ルノー カングーのエクステリア。

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著者プロフィール

石川亮平 近影

石川亮平

スーパーカー&プレミアムカー雑誌「GENROQ」に在籍しながらも、カジュアルなフレンチカーも大好物な編集…