フェラーリ初のSUV「プロサングエ」に初試乗

725PSのV12自然吸気エンジンを積むSUV「フェラーリ プロサングエ」をスポーツカーのように振り回してみた

雪道を試す機会も得たが、スリッピーな道での完璧なトルク配分、またマネッティーノのモードによって安定志向からオーバーステアまで自由自在の走りを披露してくれた。
雪道を試す機会も得たが、スリッピーな道での完璧なトルク配分、またマネッティーノのモードによって安定志向からオーバーステアまで自由自在の走りを披露してくれた。
ベントレー・ベンテイガも発売間近、ランボルギーニ・ウルスの話も伝わってきていた頃、噂されていたフェラーリのSUV計画がついに現実の物となった。フェラーリ初のSUV「プロサングエ」初試乗の印象をお届けする。

FERRARI Purosangue

SUVではなく4ドアスポーツである

今、SUVは予想を遥かに上回る勢いでクルマ界を席巻し、そのパフォーマンスも驚くほどの向上を見せている。それに伴ってフェラーリがSUVを出すことへの違和感も徐々に払拭されてきた。ただ、それがどのようなクルマであるのか。その期待感の高さは他ブランドの比ではない。それがフェラーリの宿命だ。

プロサングエは、SUVではなく4ドアスポーツというアナウンスではあったが、そのフォルムはどう見てもSUV。しかし1589mmという低い全高や最高出力725PS/7750rpm、最大トルク716Nm/6250rpmを発揮する6.5リッターV型12気筒NAエンジンをフロントミッドシップに、8速DCTをリヤアクスル上に搭載するトランスアクスルレイアウトや完全4シーターのインテリアなど、その成り立ちは完全にスポーツマシンと言えるものだ。

逆アリゲーター式のボンネットを開けると、V12エンジンは驚くほどバルクヘッド側に食い込んでいる。そして2名分の後席はそれなりには座れるものの、程よくタイトという印象。しかし観音開き式のドアのためにアクセス性は非常に良好だ。ちなみにこのリヤドアは完全電動式で、開けるのも閉めるのもスイッチに触れるだけで済む。

注目はアクティブサスペンションシステム

プロサングエの優れたビークルダイナミクスを実現するのは、まずこれらの理想的パッケージングに加えて、軽量ボディと最先端のメカニズムだ。完全新設計のシャシーは基本的にアルミ製で軽量化と剛性アップを実現し、ボディパネルもアルミ製。さらにルーフはカーボン製として乾燥重量は2033kgというから、パワーウエイトレシオは2.08kg/PSという脅威的な数字となる。

最高速度は310km/h、0-100km/h加速は3.3秒と、まさにスーパースポーツカー並みの数字が並ぶ。この3.3秒の0-100km/h加速はランボルギーニ・ウルス・ペルフォルマンテと同じだが、このくらいの性能は今後のスーパーSUVにとっては必須条件となってくるのだろうか。恐ろしい時代だ。

V12気筒の自然吸気エンジンは6.5リッターの排気量をもつバンク角65度のF140がベース。しかしパーツのほとんどを新設計し、高回転でのパワーの伸びと2100rpmで最大トルクの80%を発生するという扱いやすさを併せ持つ。フロント側に置かれた新設計のPTU(パワートランスファーユニット)は状況に応じてフロント左右輪にトルクを配分、またAWSも備えているが、後輪は左右で独立操舵されるという凝りようだ。

そしてプロサングエのメカニズムの花形はアクティブサスペンションシステムだろう。これはスプール・バルブ油圧式ダンパーと電気モーターを一体化し、このモーターがダンパーのピストンロッドに直結したスクリューを駆動し、ロールとピッチの剛性を独立してコントロールし、クルマの動きをアクティブに制御するというものだ。

まるでフェラーリ最新テクノロジーの見本市のようなプロサングエはインテリアも他のモデルとは異なる新デザインを採用。触れると上昇するロータリースイッチなど、初見では使いこなすのは難しそうなギミックもあるが、運転にまつわるほぼすべての操作が可能なステアリング周りは従来とほぼ同様だ。

ライトウエイトスポーツカーのようなコーナリング

イタリア・ドロミテ地方の国道を流れに合わせて走っている分にはエンジンが2000rpmを超えることはほぼなく、V12エンジンはやや乾いた心地よいエキゾーストを聴かせてくれるが極めてジェントル。サスペンションはよくダンピングが効いており、路面の荒れなども無理やり抑え込むという力技ではなく懐の深ささえ感じさせる豊かさで、乗り味はとても自然。それでいて姿勢はフラットに保たれる。これぞフェラーリ流サルーンの乗り心地というものか。

だがアクティブサスペンションが真価を発揮したのはやはりワインディングに入ってからだった。デフォルトのコンフォートモードでさえ、姿勢は徹頭徹尾安定している。決してロールが皆無というわけではなく、むしろ自然なロールと共に4輪のグリップもしっかりと伝わってくるのでクルマの状態が完璧に把握できる。

マネッティーノをスポーツにすると安定感はさらに増し、コーナー手前で減速すると間髪を入れずにDCTがシフトダウン、フロントに荷重が乗ったところでステアリングを切り込んでスロットルを開けていくと、2tのプロサングエはまるでライトウエイトスポーツカーのように理想のラインをクリアしてコーナー出口へと突き進む。

フェラーリとして最適のパッケージング

6.5リッターV型12気筒NAエンジンをフロントミッドに、8速DCTをリヤアクスル上に搭載するトランスアクスルレイアウトは完全にスポーツカーの仕立てだ。

アクティブサスペンション、トルクベクタリング、インディペンデントAWS、さらにSSC8.0などによる緻密な制御の恩恵、特にアクティブサスペンションはこれが完成したからこそプロサングエを世に出すことができた、とフェラーリ自身が語っていたシステムだが、なるほどその効果は絶大だ。

雪道を試す機会も得たが、スリッピーな道での完璧なトルク配分、またマネッティーノのモードによって安定志向からオーバーステアまで自由自在の走りを披露してくれた。道路の環境がどうあれ、この上ない快感をドライバーに与えてくれる。今回は一般道での試乗だったが、サーキットでも相当なタイムが出るだろう。

4枚のドアを持ち、4人が快適に乗降&乗車できるフェラーリが欲しい、そんな要望が顧客からあがるのは時代を考えれば当然だろう。それに応えるためにフェラーリとして最適なパッケージングは何か。プロサングエを見ると、そんなフェラーリの熱い想いがひしひしと伝わってくるようだ。

SPECIFICATIONS

フェラーリ プロサングエ

ボディサイズ:全長4973 全幅2028 全高1589mm
ホイールベース:3018mm
車両重量:2033kg
エンジン:V型12気筒DOHC
総排気量:6496cc
最高出力:533kW(725PS)/7750rpm
最大トルク:716Nm/6250rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/35ZR22 後315/30ZR23
0-100km/h加速:3.1秒
最高速度:310km/h以上
燃料消費率(WLTCモード):17.3L/100km
車両本体価格:4760万円

デザインは技術的なアンダーボディとしなやかな曲線を描くアッパーボディという2つのステージに分かれている。

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著者プロフィール

永田元輔 近影

永田元輔

『GENROQ』編集長。古典的ジャイアンツファン。卵焼きが好き。愛車は993型ポルシェ911。カメラはキヤノン。