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ランドローバー ディスカバリー SE D300×ボルボ XC90リチャージ・プラグイン ハイブリッドT8 AWDインスクリプション
ジャガー譲りのスポーティさを発揮するディスカバリー
近ごろ体験したエンジンで最も印象的だったのは、意外なことにランドローバーのディーゼルだった。3.0リッターの直6インジニウムディーゼルである。直列6気筒は衝突安全などの観点から一時はマーケットから消えそうな時期もあった。同じ6発ならコンパクトで縦にも横にも搭載できるV6の方が使い勝手がいい。
だが時代は変わり、ダウンサイジングが全盛となった。シリンダーヘッドもカムもターボも倍の数を必要とするV6より、実は直6の方がコストが抑えられる。さらには電動化との相性まで含めて考えると、シリンダーブロックの側面に補器類を抱えやすかったのである。
だが、いちクルマ好きの視点では、完全バランスとかV12の半分という概念も手伝い、直4やV6よりストレート6の方がただただアリガタイ。その質感の良さを実感したのは、先月ディフェンダー 110を試乗した時だった。300psを発揮するインジニウム直6は、ディーゼルでありながら静粛性に優れ、ありふれた4発ターボとの格の違いを感じさせてくれたのだった。2022年モデルのディスカバリーにもそんな現代の名機が搭載されたと聞き、すぐにでも試乗したいと思った。
緻密で変則的なシステムを採用するXC90 リチャージ
今回連れ出したもう1台、ボルボ XC90 リチャージ プラグインハイブリッド T8は同じく電動化を含んでいるが、機構的にはまるで別物といっていいほどの違いがある。
エンジン、ギヤボックス縦置きのディスカバリーのパワートレインが今日的なMHEV4駆のスタンダードだとすれば、以前はツインエンジン T8と名乗っていたボルボのそれは変則的だ。フロントに横置きされる4気筒エンジンは、グループBラリーカーのように低回転を受け持つスーパーチャージャーと上の回転を伸ばすターボ、さらにモーターにより目いっぱいまでドーピングされ前輪を駆動。一方プロペラシャフトの通じていないリヤはモーターによって駆動されている。こちらは外部充電でき、モーターのみの走行も可能となっている。XC90の他のグレードはMHEVだが、最上位のT8のみPHVとなっているのだ。
力強く、しかし緻密に回る心臓を得たディスカバリーの印象は、以前のそれとは確かに違った。ディフェンダー 110の時と同じようにMHEVの仕事ぶりを感じることはできなかったのだが、でも2.4トン近い重さも苦にならない。
ディスカバリーはリニアリティあふれるハンドリングを手に入れた
それよりも驚かされたのが、包み込むようなドライバーズシートやリニアなステアリング特性と言ったSUVらしからぬ部分だった。他に先んじた安全性や北欧デザインの良さがそのままブランドイメージとして強く根付いているボルボに比べると、現代のランドローバーのイメージはそこまで確立されていない。特に299万円からというバーゲン価格で泥っぽく使い倒すことができた初代と比べれば、現代のお洒落なディスカバリーはイメージが希薄だ。
だが20世紀中のすべてのランドローバーの常識だったリジッドアクスルのアシから脱却し、ジャガーとの結婚。そんな流れを経た現在のランドローバーは「実は」ハンドリング大国イギリスの名に恥じないリニアリティ溢れるドライブフィールも秘めている。3列シート7人乗り、ディーゼルというスペックからは想像がつきにくいが、ディスカバリー D300はドライバーとの一体感が非常に高い。ランドローバーとはいえ、実際のほとんどの時間オンロードを走ることを考えれば、これは歓迎すべきキャラクターといえる。
さすが最上位モデルといった佇まいを見せるXC90
一方2代目となるXC90も秀逸だった。2016年に上陸しているので、ずいぶんと時間が経過しておりその間シャシーはもちろんだが、複雑なT8パワートレインの熟成も進んでいる。以前は振動の収束が悪く、特定の周波数帯でフロアが振動していたのだが、現行モデルではその悪癖が完全に払拭されている。
スロットルを静かに踏み込みEV走行させたときの静粛性は、さすが最上位モデルといった佇まいがある。ディスカバリーで試したように少しペースを上げるとしかし、XC90はそこまでまとまりが良くなかった。微かに前後の駆動にズレが感じられ、コーナーリングでは前後のオーバーハングの重さが残りがちに感じられる。そんなXC90から再びディスカバリーに乗り換えると、重量物が中央に集中したミッドシップのようなまとまり感がある。頭の中に「動のディスカバリー」と「静のXC90」という構図ができあがる。
だが高速道路でACC走行を試みると、立場は一気に逆転してしまった。ボルボのパイロットアシストは相変わらずトップレベルの仕上がりを見せるが、ランドローバーのそれは文字通りレーンキープアシストに留まっている印象だったからだ。
女性の推しはXC90か。しかしクルマ好き男子にはディスカバリーが刺さる
3列シートのSUV選びで、もしこの2台が俎上に上がったら、決断は容易ではない。女性の好みで言えばボルボが有利だろうか。プレミアムなマンションやコンクリート打ちっぱなしの都会的な建築と馴染みがいいのもボルボだろう。
だがクルマ好き男子が動的質感で選ぶとすればディスカバリーを推すはずだ。このクルマの本性は、ファミリーカーでありながら、スポーツカーのオルタナティブにもなり得る。ずいぶんと大人びた印象の現行モデルだが、それでもボルボよりは泥っぽさとの馴染みもいい。
この先は嫌でも電動化てんこ盛りの未来が待っているのだとすれば、個人的にはディスカバリーを選ぶ。今回の2台を無理やり結論付けるなら、そういうことになるだろう。
REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/田村 翔(Sho TAMURA)
MAGAGINE/GENROQ 2021年 10月号
【SPECIFICATIONS】
ランドローバー ディスカバリー SE D300
ボディサイズ:全長4956 全幅1995 全高1888mm
ホイールベース:2923mm
車両重量:2362kg
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCディーゼルターボ
総排気量:2996cc
最高出力:221kW(300ps)/4000rpm
最大トルク:650Nm(66.3kgm)/1500-2500rpm
モーター最高出力:-
モーター最大トルク:-
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
燃料消費率:8.3km/L(WLTCモード)
車両本体価格:950万円
ボルボ XC90リチャージ・プラグイン ハイブリッドT8 AWDインスクリプション
ボディサイズ:全長4950 全幅1960 全高1760mm
ホイールベース:2985mm
車両重量:2370kg
エンジンタイプ:直列4気筒DOHCターボ+スーパーチャージャー
総排気量:1968cc
最高出力:233kW(318ps)/6000rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2200-5400rpm
モーター最高出力:前34kW(46ps)/2500rpm 後65kW(88ps)/7000rpm
モーター最大トルク:前160Nm(16.3kgm)/0-2500rpm 後240Nm(24.5kgm)/0-3000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前ベンチレーテッドディスク 後ディスク
燃料消費率:12.8km/L(WLTCモード)
車両本体価格:1139万円
【問い合わせ】
ランドローバーコール
TEL 0120-18-5568
ボルボお客様相談室
TEL 0120-922-662
【関連リンク】
・ランドローバー 公式サイト
https://www.landrover.co.jp/
・ボルボ 公式サイト
https://www.volvocars.com