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Porsche 911 reimagined by Singer – DLS Turbo
創業者が幼少時代に衝撃を受けた「934/5」
シンガー・グループは、タイプ964ベースのレストモッド「ダイナミクス&ライトウェイティング・スタディ(DLS)」ベースのターボチャージャー仕様の開発に際し、1970年代のレーシングカー「934/5」をオマージュ。また、IMSAと世界耐久選手権(WEC)に今シーズンから復帰した、プロトタイプレーシングカー「963」もイメージしているという。
ポルシェ 911は自然吸気エンジン搭載車としてその歴史をスタートし、公道とサーキットでのパフォーマンスを最適化するべく長年にわたって開発が続けられてきた。さらに、1970年代半ばからはターボチャージャーを搭載した911 ターボが登場。1977年シーズン、SCCAトランスアメリカン・シリーズに投入された「934/5」は全8戦中6勝を挙げて、見事チャンピオンに輝いている。
シンガー・グループの創業者であるロブ・ディキンソン会長は、この「934/5」をイメージの源泉として選んだ理由を次のように説明する。
「父の友人が、1977年の『ワトキンス・グレン6時間レース』の8mmフィルムを見せてくれた時、私は12歳でした。見慣れたポルシェ911のフロントフェイスに、大きく開いたフロントのエアインテーク、ありえない迫力のリヤフェンダー、巨大なダブルプレーン・リヤウイングを纏った934/5に、私はとてつもない衝撃を受けたのです」
「これが911のもうひとつの姿、レーシングカーなのだと実感したことを今でも覚えています。今回、私は子供の頃に感じた衝撃に立ち戻り、クライアントと協力して、934/5というクルマをオマージュしたのです」
サーキット仕様と公道仕様をラインアップ
製作プロセスは、ポルシェ 911(タイプ 964 )のオーナーが、そのクルマをシンガーへと送り、個別のレストアを依頼するところからスタートする。1989年から1994年にかけてポルシェによって製造されたタイプ964は、完成度の高い空冷ポルシェとして現在でも高い人気を集めているモデルだ。
まず、オーナー車両を慎重にオーバーホール。インテリアはもちろん、エクステリアのボディワークや、すべてのコンポーネントが取り外され、スチール製モノコック(シャシー)の状態へと戻す。シャシーは次のレストア段階に向けた準備として、丁寧に評価・洗浄・強化が施される。
ボディワークには、軽量化と剛性向上のため、カーボンファイバー製コンポーネントを採用した。その形状は数値流体力学(CFD)解析を経て、エアロダイナミクスを最適化。フロント中央に配置されたインテークとボンネットのエアスクープはエンジン冷却用、リヤフェンダーのインテークとNACAダクトはブレーキとターボチャージャーのクーリングをサポートする。
今回、オーナーの希望に合わせて、サーキット性能に特化した仕様、公道走行に特化した仕様を用意。サーキット仕様は、調整可能なアッパーエレメントを備えたハイダウンフォース・リヤウイングと、大型スプリッターを備えたフロントバンパーが特徴となる。一方、公道仕様は空気抵抗を低減するリヤのダックテールスポイラー、公道走行に特化したフロントフェイシアを装備する。
また、オーナーの希望に合わせて、サーキット仕様と公道仕様を組み合わせたバージョンをオーダーすることも可能。フロントフェイシアとリヤデッキ・アセンブリは、取り外して交換することができる。
700PSオーバーを実現したフラット6ターボ
シンガーのすべてのレストアとモディフィケーション・サービスで最も重要な作業が、エンジンの改良となる。搭載される3.8リッター水平対向6気筒エンジンは、ブロックまで分解された後、高性能コンポーネントを追加。シンガーに期待されるパフォーマンスを実現するための改造が施される。
今回、電動ウェイストゲート、空冷式インタークーラー、水平マウント電動ファンを備えたツイン・ターボチャージャーを採用。シンガーの人気レストモッド「DLS」用に開発された自然吸気エンジンの進化版となり、9000rpm以上で709PSという最高出力を実現した。このパワフルなターボエンジンに、6速MTが組み合わせられ、後輪を駆動する。
シンガーは、2023年7月13~16日に英国で開催される「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」への参加を予定。また、2023年8月に北カリフォルニアのモントレーで行われる「モントレー・カー・ウィーク」でも公開される。