フェラーリ 812 GTSで世界最高のオープンエアモータリングを味わう

V12の咆哮を全身に浴びる贅沢! フェラーリ 812 GTSのグランドツーリング性能をロングトリップで味わう

デイトナ・スパイダー以来のフロントエンジン・フェラーリ12気筒モデルとなる812 GTS。電動リトラクタブルハードトップによる爽快さと快適性を両立したスーパーGTマシンである。初夏のロングトリップで思う存分、その素晴らしき性能を満喫してきた。

Ferrari 812 GTS

フェラーリ 812 GTSの走行シーン

フェラーリが誇るV型12気筒エンジンの咆哮を思う存分楽しめるオープントップモデル、812 GTS。今回は江戸時代の風情を今に伝える、長野県の旧宿場町までロングツーリングを行った。

「江戸時代の街道に思いを馳せるロングツーリング」

毎月いくつもの記事が掲載されるのだから、たまには脱線から始まる記事があってもいいではないか。

トビラ写真でフェラーリ 812 GTSを停車させている古風な町並みは長野県塩尻市の奈良井宿だ。江戸時代、中山道六十九次のちょうど中間に位置する宿場として栄えた街で、約1kmにわたって古い建物群が保存されている。観光地でありながら、建ち並ぶ古風な民家や商店には今も人々が暮らしており、夕方の撮影中、仕事や買い物から帰宅する人々の往来がちらほらあった(その節は大変お邪魔しました)。

中山道は幕府直轄の道路として江戸時代に整備された五街道のひとつ。同じ江戸と京都を結ぶ東海道に比べ、宿場が16も多いのは、40km長いだけでなく、峠が多く、雪深い地域を含むからだろう。当時の人々は中山道を約2週間かけて歩いたという。ということは中間ポイントの奈良井宿までざっと1週間か。江戸時代の旅は「七つ立ち」というから今の午前4時頃出発し、暗くなるまで歩いたようだ。我々は同じ場所まで、午前11時頃に東京を出て、途中別の場所で数時間かけて撮影し、ゆっくり昼食もとったうえで、16時頃到着した。直接向かえば3時間あまりで到着したはずだ。

フェラーリ 812 GTSのインテリア

インパネの意匠はクーペの812 スーパーファストと同様。ルーフ開閉とリヤウインドウのスイッチはセンターコンソールに設置される。

「跳ね馬が蹴り上げる力の強さ、いななき、機敏さがあればこその“ワープ”を味わう」

なにしろ2021年になお残る奇跡の12気筒自然吸気エンジンを搭載する跳ね馬だ。もし制限速度と交通渋滞がなく、さらに私にアスカリ、ヌヴォラーリ、ファンジオ並みの腕があればその半分だって可能だっただろう。実際にはほぼ常に前後に他の車両が存在していた。仮に道路がガラガラだったとしても、交通ルールを無視してぶっ飛ばすわけにはいかない。

それでもかつて江戸時代の人が1週間かけて歩いた目的地まで、フェラーリを駆り、たった数時間で到着するというのは特別な体験だった。しかも着いた先が江戸時代の宿場町の風景そのものだったので、時空を超えたワープのようだった。他のクルマで同じことをしたのでは、かかる時間が同じであったとしても、ここまでの特別感を味わうことはできなかったはずだ。跳ね馬が蹴り上げる力の強さ、いななき、機敏さがあればこそだ。

フェラーリ 812 GTSのエンジン

今や貴重となった珠玉の6.5リッターV型12気筒自然吸気エンジンは、最高出力800ps/最大トルク718Nmのパワースペックを、いずれも8000rpm以上という高回転域で発揮する。

「官能的なエンジンサウンドが常に聞こえてくる」

フェラーリ 812 GTSは2019年に登場した。その2年前に登場した812 スーパーファストというフロントミッドに12気筒自然吸気エンジンを搭載するクーペのオープンバージョンだ。リトラクタブル・ハードトップが付き、14秒でクーペからオープンカーに、またその逆に姿を変える。トップを上げた状態では、812スーパーファストとはスタイリングが若干異なるものの、フィックスドヘッドのクーペに見える。見えるだけでなく、快適性、耐候性ともにクーペと変わらない。

静粛性? 官能的なエンジンサウンドが常に聞こえているのをどうとらえるかによる。ただし始動直後の一発の咆哮の後のアイドリング音はフェラーリとしてはかなり静かなほうだ。

フェラーリ 812 GTSのシート

筆者をして「マラネッロへ出向いてシート合わせしたかのよう」と言わしめるほど、シートの座り心地は極上。快適な座り心地はグランドツーリングマシンにとっては必須の条件でもある。

「マラネッロへ出向いてシート合わせしたかのようにぴったりくる」

取材日、集合場所でキーを受け取って乗り込む。低い座面のバケットシートに腰を落ち着ける。マラネッロへ出向いてシート合わせしたかのようにぴったりくる。だれに聞いても同じ感想が返ってくるから不思議だ。例によってスイッチの多いステアリングホイールはアシストが強く、軽い力で操舵できる。さらに2ペダルということもあって、スーパースポーツにもかかわらず、移動レベルで走らせるだけなら容易だ。緊張を強いられないという意味で、ミッドシップV8フェラーリとは対照的だ。

中央道へ合流し、エンジンを楽しむことにする。車名の由来でもある最高出力800ps/8500rpm、最大トルク718Nm/7000rpmという現実感のないスペックを誇る6.5リッター12気筒エンジンの実力の一端を味わうべく、右足に力を込める。8500rpmでピークパワーに到達するエンジンは底なし沼かマトリョーシカのようだ。どこまで踏み込んでも、踏み続けても回転上昇とともに際限なくパワーが上がっていく。

フェラーリ 812 GTSの走行シーン

ワインディングでも812 GTSの優れたGTカー性能は際立ち、筆者は「812 GTSは積極的に操れば、どんな場面でも一級の性能を味わわせてくれ、快適性を望めばそれも与えてくれる」と絶賛した。

「快適性と恍惚感を同時に味わえる文句のつけようがないGTマシンだ」

すぐに理性による自制が求められる領域に達するが、興奮が興奮を呼び、連続的にその先を味わいたいという誘惑にかられる。例えば現代のほとんどのエンジンで頭打ちとなる6500rpmは、このエンジンにとっては幕開けで、頭打ちどころかこの辺りを境にもう一段階、鋭さを増す。音の甲高さとボリュームも明らかに切り替わる。全身に電気が走る。たった一度の加速について長々描写してしまったが、実際ペダルを踏み込む度に大河ドラマの総集編のように濃密な内容が脳内に押し寄せるのだ。

ワインディングロードでは、ステアリングのクイックさが際立つ。フロント(といっても前車軸より完全に後ろだが)に12気筒エンジンがあるとは信じられないほど簡単に向きを変えられる。後ろ足を強く蹴り出すことでその傾向に拍車をかけることもできる。能力を引き出せていると思うほどうぬぼれてはいないが、自由自在に操っていると思わせてくれる親切さが、このクルマには備わっている。

812 GTSは積極的に操れば、どんな場面でも一級の性能を味わわせてくれ、快適性を望めばそれも与えてくれる。渋滞に機嫌を損ねることもない。文句のつけようのないグランドツーリングカーだ。

REPORT/塩見 智(Satoshi SHIOMI)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2021年 8月号

【SPECIFICATIONS】
フェラーリ 812 GTS
ボディサイズ:全長4693 全幅1971 全高1276mm
ホイールベース:2720mm
乾燥重量:1645kg
エンジン:V型12気筒DOHC
総排気量:6496cc
最高出力:588kW(800ps)/8500rpm
最大トルク:718Nm(73.2kgm)/8000rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤサイズ:前275/35ZR20 後315/35ZR20
0-100km/h加速:3.0秒以下
最高速度:340km/h以上
車両本体価格:4523万4000円

【関連リンク】
・フェラーリ 公式サイト
http://www.ferrari.com/ja_jp/

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著者プロフィール

塩見 智 近影

塩見 智

1972年岡山県生まれ。1995年に山陽新聞社入社、2000年に『ベストカー』編集部へ。2004年に二玄社『NAVI』…