目次
Lotus Emira First Edition
待望の4気筒版エミーラ
新しくなったロータスのファクトリー前に、抜けるような青空に似たセネカブルーの「エミーラ」が置かれていた。この個体が、今回急に試乗できることになったエミーラだろうか?
フロント側から近づいていって識別箇所を探す。サイドウインドウ越しに見えるシフトレバーはATモデルであることを示している。リヤクォーターのバッジはV6モデルと同じファーストエディションのもの。リヤエンドにもグレードを見分ける手がかりはなかった。青空を映すリヤウインドウ越しにエンジンカバーを凝視して、ようやくこれがエミーラ4気筒モデルなのだと確信が持てた。
ロータス・エミーラは電動化を促進しているロータスが、昨年生産を開始した同社として最後のガソリンエンジン車である。デビュー当初はロータス・ファンにとってはおなじみの、3.5リッターV6スーパーチャージドユニットを搭載したエミーラV6のみだった。
だがV6のデビュー当初から直列4気筒ターボが搭載されることも発表されており、今年7月のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでようやく4気筒版のエミーラがお披露目されたのである。
リッターあたり180PSのAMG製2.0リッターターボエンジン
4気筒版エミーラに搭載されているエンジンはメルセデスAMG製の2.0リッター直列4気筒ターボという現代的なユニットである。エンジンの型式はM139、つまりメルセデスAMG A45 S 4MATICに搭載されているエンジンと同じと言えばわかりやすいのではないか?
ツインスクロールシングルターボチャージャーと直噴システム、そして可変バルブタイミング等のギミックをフルに詰め込んだこのエンジンは、A 45 S用で421PSの最高出力を発揮。メルセデスAMG自身が世界最強の4気筒エンジンであることを謳っている。
だがロータスがエミーラのシャシー特性と合わせて開発し、専用マッピングを組み込んだユニットは365PSという若干控えめな数値に落ち着いている。それでもリッターあたりの出力が180PSを越えるとなれば、不満があるはずもない。そしてこのM139ユニットは、ロータス史上最強の4気筒エンジンという肩書も持つ。
V6モデルではMTとトルコンATから選べたトランスミッションだが、直列4気筒版は8速DCTのみとなる。だがロータスが今をときめくアルピーヌA110や2020年で生産が終了してしまったアルファロメオ4CといったDCTギアボックスを備えたライバルに対し、ようやく真っ向勝負を挑めるモダンなスペックを得たことは感慨深い事実だろう。
足まわりにV6との違いは?
エミーラの外観は前述の通りV6モデルと全く同じといっていい。室内の意匠に関しても基本的には同一。ツアーモードで6500rpm、スポーツモードで7000rpmまで引き上げられるレブリミットもV6と直4ターボでほぼ同じである。
エンジンを受けるサブフレームはV6と直4では違いがある。ロータスはエリーゼやエキシージ、そしてエヴォーラなどシャシーがアルミ接着バスタブモノコックになって以降一貫して、鋼板溶接によるボックス構造のリヤサブフレームを採用してきた。最新のエミーラでもV6用のそれはエヴォーラ由来の鋼板だが、直4用は新造されたアルミ鋳造のものが採用されている。その結果リヤのサスペンションアームも別物となっており、アーム長も僅かだが直4用が長くなっているという。
今回ヘセルのテストラックにおいて行われた試乗は、最初にエミーラV6をドライブし、その後すぐ直4に乗り換えるというかたちで行われた。ちなみに試乗車の2台はどちらもオプションのスポーツシャシーがインストールされた個体となる。スポーツシャシーはアップレートされたアイバッハのコイルスプリングとビルシュタインのショックアブソーバーを備えており、タイヤも標準装着のグッドイヤー・イーグルF1スーパースポーツLTSからミシュラン・パイロットスポーツカップ2 LTSに換装される。
みなぎる一体感とキビキビした反応
タイトなバケットシートに腰を沈め、スターターボタンに掛かった赤いガードを跳ねのけ、直4ターボを覚醒させる。走りはじめは意外なほどの静けさに驚かされた。エリーゼのようにアルミシャシーがきしむ音もしないし、直4ターボが発する音もV6に比べて非常にまろやかでボリュームも抑えられている。
2周ほど流して走り、その軽快な身のこなしを確認したあと、スロットルを奥まで踏み込んで6500rpmのリミットまで回してみた。鋭く回り、雄叫びのような排気音を発するV6と比べると、AMGユニットはDCTの変速も含めてまろやかなものに感じられた。全開加速でもターボラグは極小で、クルマをどんどんと加速させていく。
エミーラ直4とV6の違いは、たとえ低速で走っていても看破できるものだった。両者の車重は僅か12kg、直4モデルの方が軽いだけなのだが、実際にドライブした感触ではもっと重量差があるように感じられた。なにしろ直4版はフロントからリヤエンドまで一体感が漲っており、早めのステアリングギアレシオにクルマ全体がキビキビと反応する。
エミーラ直4でV6モデルを追いかけながらヘセル南側のヘアピンカーブに進入すると、ターンインから立ち上がり、そしてストレートの中盤にかけてどんどん距離が詰まっていくことがわかる。トップスピードは若干V6が伸びる印象だが、サーキット1周のラップタイムが速いのは4気筒の方だと確信した。
4気筒が継いだ魂とは?
最高出力はV6のほうが直4より40PS強力な405PSとなっているが、トルクは逆に直4の方が10Nm上回っている。直4の速さは、低回転から図太いトルクを発生するエンジンのパワー特性に加え、「手こぎの6速」対「シームレスな8速DCT」という機構的な差が大きいと感じた。また4気筒エンジンの重心の低さも、ターンインで素早く姿勢が落ち着き、スロットルを早踏みできるドライバビリティに効いていると思う。
軽快な速さと正確なDCT変速による快適性が共存する4気筒モデルと、官能的なエンジンとマニュアルシフトの楽しさを秘めたV6という構図は、優劣が付くものではないと感じた。むしろ直4はエリーゼの精神的な後継であり、対するV6はエキシージSやエヴォーラの個性を引き継いでいるように感じられたのである。
エミーラは以前のロータスより確実にクオリティが上がっており、コクピット内にアルミ材が露出しているような箇所もなく、丁寧にトリムされている。街乗りでも今まで以上に快適なドライブが楽しめるはずだ。その結果として車重は1.5tほどになってしまっているのだが、そのドライブフィールはロータス以外の何者でもなかったのである。
エミーラ ファーストエディションが日本に上陸するのはまだ当分先の話で、おそらく来年になると言われている。だが今回試乗することができたロータス最後のICE車は、4気筒エンジンを搭載したライトウェイトスポーツカーのベンチマークを塗り替える存在であると断言できる。