モンスターバイク「ニンジャH2R/H2」の凄みとは?

カワサキ「重工」が放ったモンスター「ニンジャH2R/H2」に見る狂気のバイク作り

究極のロードスポーツを目指して開発された「ニンジャH2R/H2」。H2Rはフルパワーのクローズドコース仕様、H2はエンジンパワーが調整された公道仕様となる。
究極のロードスポーツを目指して開発された「ニンジャH2R/H2」。H2Rはフルパワーのクローズドコース仕様、H2はエンジンパワーが調整された公道仕様となる。
いつの時代も世界最速(最高速)を追求するメーカーとして、他メーカーとは一線を画するバイクを世に送り続けるカワサキ。その象徴として2015年に発売されたのがニンジャH2R/H2だ。その驚異的性能を紹介する。

Kawasaki Ninja H2R/H2

他メーカーとは一線を画するバイク作り

公道仕様のニンジャH2。保安部品の装着のほか、エンジンの仕様や性能、マフラー、エアロデバイス等々、クローズドコース専用車のH2Rとはディテールが異なる。
公道仕様のニンジャH2。保安部品の装着のほか、エンジンの仕様や性能、マフラー、エアロデバイス等々、クローズドコース専用車のH2Rとはディテールが異なる。

カワサキ=川崎重工業は歴史が古い。1878(明治11)年に創業者の川崎正蔵が東京の築地に「川崎築地造船所」を開設したことを起源に、1896年に株式会社に改組し兵庫県の神戸に現在の川崎重工につながる「株式会社川崎造船所」として創業している。

造船業を皮切りに鉄道事業にも乗り出し、明治末期には蒸気機関車を国産化、ライト兄弟の初飛行から15年後の1818(大正7)年には航空機の製造に着手し、1922年には同社初の航空機を完成させ、陸軍に制式採用されている。第二次世界大戦中も日本の軍用機の中で唯一水冷エンジンを搭載した高性能機「飛燕」を製造するなど、様々な分野で高い技術を蓄積。戦後の復興や高度成長を支え、日本の発展に大きな役割を果たしながら同社も大きく成長した。

令和となった現在、その事業規模はとてつもなく広く大きい。船や潜水艦、鉄道事業にジェット戦闘機からヘリコプターと、宇宙ロケットのパーツやロケット全体を組み立てる建屋などを製造・建造するに至っている。

気になるバイク事業としては、戦後すぐにバイク用2ストロークエンジンを開発、1961(昭和36)年にカワサキブランドの第1号機となる「B7(2スト123.5cc)」を発売。1964年に4ストロークエンジンに強い目黒製作所を吸収し、1965年に当時の国産最大排気量の「W1(4スト624cc)」を産む。そして1969年に「H1(500SSマッハIII、2スト3気筒498cc)」、1972年には「900スーパー4(通称Z1、4スト4気筒903cc)」という伝説的な名車をデビューさせた。このZ1をはじめGPZ900RやZZR1100など、それぞれの時代の世界最速(最高速)を追求するメーカーとしてもライダーに知られ、他メーカーとは一線を画するバイクを世に送り続けている。2021年にバイク事業は川崎重工本体から切り離され、カワサキモータース株式会社として分社化されているが、グループの一翼を担っていることに変わりはない。

従来のバイクを圧倒する強烈な加速感

ニンジャH2Rに搭載される、水冷並列4気筒998ccエンジンのカットモデル。自社開発のスーパーチャージャー(赤い部分)をビルトインする専用設計エンジンで、2015年の発売時に公道仕様のH2が200PS、クローズドコース限定のH2Rでは310PSを発揮した。
ニンジャH2Rに搭載される、水冷並列4気筒998ccエンジンのカットモデル。自社開発のスーパーチャージャー(赤い部分)をビルトインする専用設計エンジンで、2015年の発売時に公道仕様のH2が200PS、クローズドコース限定のH2Rでは310PSを発揮した。

そんな巨大な川崎重工が総力を結集し、グループを象徴するバイクとして作り上げたのが、2015年に発売されたニンジャH2R/H2だ。カワサキのスポーツバイクを示す「ニンジャ」の称号と、1971年に発売されたカワサキ2スト3気筒モデル最大排気量を誇った「H2(750SSマッハIV 748.2cc)」を組み合わせた名称が与えられ、究極のロードスポーツを目指して開発された。H2Rはフルパワーのクローズドコース仕様で、H2は保安部品が装着されエンジンパワーが調整された公道仕様である。

それまでのバイクを圧倒する強烈な加速感を生み出すために、エンジンをスーパーチャージャーで過給することを選択した。川崎重工のガスタービン・機械カンパニー、航空宇宙カンパニー、技術開発本部(それぞれ当時)と協働し、二輪車のエンジンに最適な小型軽量で応答の速いスーパーチャージャーとその過給を前提としたエンジンを自社で同時開発。それぞれ相互に最適化していくことで高効率化され、吸気温度が低く抑えられている。

そのためインタークーラーが不要で、バイクに適した小型軽量で高性能な過給エンジンを作り上げることができた。この結果、発売時の2015年モデルで、H2Rは310PS(ラムエア加圧時326PS)/14000rpmのパワーと16.8kgm/12500rpmのトルク、H2でもそれぞれ200PS(ラムエア加圧時210PS)/10000rpm、14.3kgm/10000rpmの超高性能を手に入れている。

航空宇宙技術が生かされたミラー

走行風によるラム圧とスーパーチャージャーで加圧された空気が導かれる、容量6Lのインテークチャンバー。一般的な樹脂製ではなくアルミ製とすることで2気圧の加圧にも変形しない。また放熱性が向上するので吸気温度も低減する。
走行風によるラム圧とスーパーチャージャーで加圧された空気が導かれる、容量6Lのインテークチャンバー。一般的な樹脂製ではなくアルミ製とすることで2気圧の加圧にも変形しない。また放熱性が向上するので吸気温度も低減する。

このエンジンをハイパフォーマンスバイクで一般的な、高剛性のアルミツインスパーフレームではなく、柔軟にパワーや衝撃を受け止め、放熱性の高い鋼管トレリスフレームに搭載。柔よく剛を制する仕様とした。またカワサキ車で初めて片持ちのスイングアームも採用し、重いマフラーを車体中央に近づけてマスの集中化を果たしている。

もちろんエアロダイナミクスにも注力。最高速を重視して空気を切り裂くように水平基調のアッパーカウルを採用しつつ、その下部はチンスポイラーのような形状としてダウンフォースを発生させている。公道仕様のH2のミラーにも航空宇宙技術が生かされ、ステーが翼断面形状となっていて、空気抵抗を低減しながらダウンフォースを得ている(H2Rはそのままウイング)。

H2Rではミドルカウルに大きなウイングが装着されるが、H2に装着される突起のようなスポイラーもきちんと効果が得られているという。

2021年で販売終了しても買える方法

ニンジャH2のアッパーカウル。中央のヘッドランプの上に輝く川の字をデザインした「リバーマーク」は川崎重工の特別な製品であることの証。ミラーステーの翼断面形状もよく分かる。
ニンジャH2のアッパーカウル。中央のヘッドランプの上に輝く川の字をデザインした「リバーマーク」は川崎重工の特別な製品であることの証。ミラーステーの翼断面形状もよく分かる。

気になる動力性能についてだが、公道仕様のH2は300km/hで速度リミッターが作動してしまうため、またH2Rでもノーマル車での最高速の公式記録を見つけることはできなかったが、カスタム車両では350km/hを超える最高速記録が残されている。また4分の1マイルの加速タイムではH2で9.62秒(サイクルワールド誌)が記録されている。

このモンスターバイク、どちらも残念ながら2021年で日本での販売が終了しているが、その性能の一端は後継のツーリングモデル、ニンジャH2 SX(273万9000円)で味わうことができる。そして……排ガス規制が異なるからか、実はアメリカではまだ新車(2023年モデル)が販売されている。H2は3万1500ドル(約446万5000円)、H2Rは5万7500ドル(約815万1000円)だ。どうしてもモンスターが味わいたい人は、アメリカに行こう!

最後に余談。ニンジャH2は2022年公開の映画「トップガン マーヴェリック」でトム・クルーズ演じる主人公の愛車として登場している。H2R風のマフラーが装着されていたり、1人乗りバイクなのにタンデムしていたり……突っ込みどころはあるけれど、とにかくカッコイイ!

※2023年8月初旬の為替レートで算出

2015年に発売されたホンダRC213V-S。MotoGPのワークスマシン「RC213V」を公道走行できるようにした市販車である。

「2190万円でもバーゲンプライス」MotoGPマシンの公道仕様「ホンダ RC213V-S」はレプリカではなく“本物”

2008年、MotoGPのワークスマシンのレプリカモデルとして登場した「ドゥカティ デスモセディチRR」。それから遅れること7年、2015年に登場した「ホンダRC213V-S」は、それとは根本的に異なるという。MotoGPのワークスマシンRC213Vを公道走行できるようにした究極のマシンを紹介する。

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