目次
Lamborghini Huracan STO
Lamborghini Huracan Tecnica
当初より孤高の存在だったウラカン
ウラカンは、自然吸気エンジンの魅力を伝える伝道師としてこの世に生を受けたのかもしれない。その実質的なデビューは2014年で、フェラーリが488GTBを投入するおよそ1年前。マクラーレン650Sが発売されたのもウラカンと同じ2014年だったが、もとより彼らは“ターボモデル専業メーカー”。つまり、ウラカンはこのセグメントの自然吸気エンジン搭載モデルとして、当初より孤高の存在だったのだ。
ハイブリッドシステムを持たない純粋な自然吸気エンジンの持ち味と官能性は、最新モデルのウラカン・テクニカでも満喫できる。いや、その魅力はさらに磨き上げられたというべきだろう。
まずはANIMAでストラーダを選び、箱根のワインディングロードを流してみる、もっともおとなしい設定のストラーダでは排気音がほぼ遮断され、吸気音やメカニカルノイズが耳に届くが、これが実に心地いい。ランボルギーニのエンジン音といえば、一つひとつの音の粒立ちがいいことが特徴で、これがある種のザラツキとなって迫力あるサウンドを構成していたという一面があったが、テクニカの音色はその正反対。本来であれば、もっと雑然としていてもおかしくないメカニカルノイズが、見事に調律されたピアノを彷彿させる滑らかなハーモニーとなってコクピットを満たしてくれるのだ。そのサウンドは、私がたびたび弦楽器にたとえるフェラーリに通じるもの。官能性はバツグンだ。
微妙なカウンターステアで切り抜ける妙味
自然吸気エンジンらしさは、エンジン・パフォーマンスのキャラクターからも満喫できた。
単にスロットルレスポンスの鋭さだけでいえば、モーターで武装したハイブリッドエンジンはもちろんのこと、過剰にレスポンスを強調したターボエンジンにさえ、ランボルギーニV10はかなわないかもしれない。けれども、ホンモノのスポーツドライビングに求められるのは、そうした人工的な演出ではなく、もっと人間の感性に沿ったナチュラルな反応だと確信している。
例えばリヤタイヤの横グリップが限界に迫っているとき、エンジンパワーが唐突に追加されればテールがアウトに流れ出しかねない。もちろん、意図してそうするのであれば構わないが、タイヤの横グリップをギリギリまで使い切ることで最速のコーナリングスピードを実現しようとするとき、自分の意思に反してパワーが立ち上がるエンジンは時として邪魔者になりかねない。
けれどもウラカンのV10ユニットは、そうしたドライバーの微妙なニュアンスさえも汲み取って、常に期待どおりのパワーを生み出してくれる。結果として、ハイスピードコーナーにも自信を持って進入できるのはもちろんのこと、そこで限界的なコーナリングを楽しむだけでなく、わずかにスロットルペダルを踏み込み過ぎたせいで生み出されたオーバーステアを微妙なカウンターステアで切り抜ける妙味も堪能できる。
ドライバーにガマンを強いない足まわり
なお、自然吸気エンジンらしい素直さが感じられるのはスロットルペダル・レスポンスだけに限らず、パワーのリニアリティに関しても同様。エンジン回転数が上昇していく過程でトルクの山や谷を感じさせることなく、回転数とトルクの関係が常に一定のため、生み出されるパワーを予測しやすく、またコントロールしやすいというのも、ターボエンジンでは得がたい特性だろう。
続いてANIMAをスポルトにスイッチすれば、エキゾーストサウンドは640PSのパワーに相応しい迫力を帯び始め、さらにコルサを選べばパパパンッというアフターファイアにも似たノイズを響かせる。キャリアの長いスポーツカー乗りはこちらを好むかもしれないが、個人的にはより洗練されたストラーダのサウンド設定を積極的に選びたくなる。
洗練といえば、テクニカの足まわりはハーシュネスの吸収が巧みでドライバーにガマンを強いない。そして、そのしっとりとしてしなやかなサスペンションが荒れた路面も捉え続け、安定したグリップとハンドリング特性を維持してくれる。
それにしても、RWDでこのスタビリティを生み出すランボルギーニの技術力には舌を巻くばかり。初期型ウラカンに設定されたRWDも痛快なモデルだったが、グリップ限界に近づいたときにハンドリングが神経質な側面を見せる傾向があった。それが、テクニカでは初期型4WDだけでなく、EVO 4WDと比べても遜色のない安定した姿勢を維持し続けてくれる。それでいながらサーキットでは豪快なドリフトを披露。そんなときでも、RWDとは思えないほど確実なトラクションを生み出してくれるところも、この10年近い歳月で培われたシャシー技術の進化が表れているように思う。
シャープなハンドリングのSTO
対するSTOは、発進した瞬間から“軽さ”を意識させる反応にまず驚かされた。これは動力性能だけでなく、ハンドリングのシャープなレスポンスも間違いなく影響しているはずだが、テクニカと同じ感覚でドライブしていると、コーナーの到達速度が予想以上に高くなっていてヒヤッとしたことが何度もあった。しかし、そんなときでも立ち上がりの鋭いブレーキングが十分以上の制動力を発揮。結果として不安定な状況に陥ることは一度もなかった。
これまでは「公道でガマンできるギリギリの範囲」と評価してきたSTOの乗り心地だが、今回は比較的フラットな路面だったせいもあって、「あれ、これだったら意外といけるかな?」と思い直したのも事実。もっとも、それは路面から単発のショックが加わった場合で、路面の上下動が連続するシーンではかなりハード。裏を返せば「これを受け入れてでもSTOのシャープなハンドリングが欲しい!」というドライバーにのみ、乗ることが許されたモデルといえるだろう。
それにしても、ウラカンは重量配分や重心位置の設定が実に見事だと思う。おかげでハードコーナリング中もエンジンの荷重がたっぷりとリヤタイヤにのしかかり、安定したグリップを生み出してくれる。カーボンとアルミの混成モノコックが生み出すボディ剛性もまた、このバランスの優れたハンドリングを下支えしていることは間違いない。
極めて高いウラカンの完成度
およそ10年の歳月をかけて熟成されたウラカンの完成度は極めて高く、試乗中、何度も「こんないいクルマを造らなくなるなんて、もったいない」と思った。そして、これほど優れた官能性とパフォーマンスを兼ね備えた自然吸気V10エンジンが間もなく手に入らなくなることも残念で仕方なかった。
外誌によれば、次期型ウラカンはV8ツインターボエンジンをプラグインハイブリッド・システムで武装したパワートレインを採用するという。それがどんな味わいをもたらしてくれるかは未知数だが、いまは、ステファン・ヴィンケルマンCEOが語った「私たちはランボルギーニをいささかも変えないために、ランボルギーニのすべてを変えることにしました」という言葉を心の支えとして、そのアンベールを待ちたい。
REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
MAGAZINE/GENROQ 2023年10月号
SPECIFICATIONS
ランボルギーニ・ウラカン・テクニカ
ボディサイズ:全長4567 全幅1933 全高1165mm
ホイールベース:2620mm
乾燥重量:1379kg
エンジンタイプ:V型10気筒DOHC
排気量:5204
最高出力:470kW(640PS)/8000rpm
最大トルク:565Nm(57.6kgm)/6500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤ&ホイール:前245/30ZR20 後305/30ZR20
車両本体価格:2999万1917円
ランボルギーニ・ウラカンSTO
ボディサイズ:全長4547 全幅1945 全高1220mm
ホイールベース:2620mm
乾燥重量:1339kg
エンジンタイプ:V型10気筒DOHC
排気量:5204
最高出力:470kW(640PS)/8000rpm
最大トルク:565Nm(57.6kgm)/6500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤ&ホイール:前245/30ZR20 後305/30ZR20
車両本体価格:4125万円
【問い合わせ】
ランボルギーニ カスタマーセンター
TEL 0120-988-889
https://www.lamborghini.com/jp-en