フル電動フラッグシップSUV「メルセデス・ベンツ EQS SUV」と「BMW iX」を比較試乗

メルセデス・ベンツとBMWのフル電動フラッグシップSUV「EQS SUV」と「iX」を比較して分かった完成度の違い

システム合計360PSを誇る「メルセデス・ベンツ EQS450 4マティックSUV」と、フロント258PS、リヤ313PSの計571PSを発揮する「BMW iX xドライブ50」。
システム合計360PSを誇る「メルセデス・ベンツ EQS450 4マティックSUV」と、フロント258PS、リヤ313PSの計571PSを発揮する「BMW iX xドライブ50」。
ドイツ、いや世界を代表する2大メーカーのBEVフラッグシップSUVが、メルセデス・ベンツEQS SUVとBMW iXの2モデルだ。両ブランドの最新のテクノロジーが落とし込まれた最新BEVを比較してみよう。(GENROQ 2023年10月号より転載・再構成)

BMW iX xDrive50
x
Mercedes-Benz EQS 450 4Matic SUV

BEVでありラグジュアリーSUVである

メルセデス・ベンツGLCをスケールアップしたような、クロカン・ワゴン的なシルエットのメルセデス・ベンツEQS SUV。

この2台、見れば見るほど対照的である。

それぞれメルセデス・ベンツとBMWを代表するBEVのフラッグシップSUVではあるものの、メルセデス・ベンツEQS SUVがGLCをスケールアップしたような、クロカン・ワゴン的なシルエットを持つのに対し、BMW iXの造形は、SUVというよりも、まるでステルス戦闘機かモビルスーツをモチーフしているかのように見える。

もちろん、システム合計360PSを誇るEQS450 4マティックSUVと、フロントで258PS、リヤで313PSの計571PSを発生するiX xドライブ50を同じ土俵で比較するのはフェアではない。しかしながら、両メーカーのBEV、そしてフラッグシップSUVに対するスタンスの違いを見定めるという意味では、ちょうどいいセレクトと言えると思う。

昨年発表され、今年から日本市場にも導入されたEQS SUVは、その名の通りEVAと呼ばれるBEV専用プラットフォームを持つフラッグシップサルーン、EQSのSUV版と位置付けられるモデルだ。その全長は5130mmとEQSより95mmも短いが、全幅は34mm広く、全高は205mmも高い。

キャビンフォワードの流面形スタイルのEQSと比べると、オーソドックスに見えるかもしれないが、3210mmのホイールベースを活かして3列7人乗りを実現(さすがに3列目は子供用といった広さだが)。さらに通常時で195L、最大で2020Lもの荷室容量を確保している。それでいてEQSの0.20には及ばないものの、Cd値0.26を実現している。

既存のメルセデスユーザーが違和感を感じない室内

乗り込むと全面にMBUXハイパースクリーンが広がる光景はEQSと同じ。操作系も基本的に同様ではあるのだが、思いのほかスカットルが高いうえ、107.8kWhの容量を誇る巨大なリチウムイオンバッテリーを床下に敷き詰めている関係で、初代Aクラスのような足を伸ばすようなドライビングポジションを強いられる。

このEQS SUVが素晴らしいのは、コクピットドリルを受け取らなくても既存のメルセデスユーザーなら特に違和感を感じることなく、ステアリング脇のセレクターを使い、すぐに走り始められることだ。

そこで気づくのが、アクセルペダルを思いっきり踏んでみてもドーンという加速感がないこと。ドライビングモードで“スポーツ”をセレクトしてみても、BEVというより内燃機に近い加速の立ち上がり方をするのである。もちろん2900kgもある車重ゆえ、過敏なスロットル・レスポンスにできないという事情があるのかもしれないが、フラッグシップSUVという性格を考えてみても、また既存のユーザーをスムーズに誘うという意味でも、敢えてこうした味付けをするというのは、大いにありだと思う。

またエアマチックサスペンションはストロークの大きい柔らかめの設定で、大型クルーザーのようにゆったりとEQS SUVを走らせる。4WSを活かしたコーナリングマナー、小回りの効き方も見事だ。

6角形のステアリングなどコクピットは個性の塊

しかしながら、荒れた路面や目地段差でその巨体を受け止めるのは荷が重いようで、動きを吸収しきれずに上屋がゆらゆらと揺れるような感覚がある。スポーツモードにするとある程度そうした動きは抑制されるのだが、調子に乗ってコーナーを攻めようとすると、タイヤが負けて盛大なスキール音が響き渡る。その辺りのバランスポイントの最適化には、さらなる熟成を期待したい。

一方、ひと足先の2020年に登場したiXは、全長4955mm、全幅1965mm、全高1695mmとEQS SUVよりもひと回り小さく、X5やGLEに近い。

アルミフレームに多くのカーボンファイバーを組み合わせた車体重量は2560kgで、111.5kWhのバッテリー容量を誇ることもあり、航続距離はWLTCモードで最大650kmとEQS SUVの593kmを上回る。

もちろん2基のモーターで571PSを発生するパワートレインの加速力は「これぞBEV」と言わんばかりの強烈なもの。加えてカーボンを多用したボディ上屋の軽さは明らかで、比較的硬めの足まわりと、4WSの効果も相まって、2.5tの車重を感じさせずにキビキビと走る。

14.9インチのディスプレイがダッシュボードに鎮座するコクピットは、6角形のステアリングなど個性の塊でしばらく戸惑うが、一度そのメソッドを把握してしまえば想像以上に使い勝手がよく、操作系も素直で扱いやすい。ドライビングポジションもいたって普通だ。

SUVではなくMPVとして

SUVというよりも、まるでステルス戦闘機かモビルスーツをモチーフしているかのように見えるBMW iX。

またスカットルが低く視界が広いことなど、BEVらしさを活かしたパッケージング、走行性能、コンセプトの明確さは、他に先駆けてBEVを造り続けてきたBMWに1日の長があると言わざるを得ない。

ではこれでEQS SUVに勝ち目はないというのは早計だ。確かに重すぎる車重、トールボディのSUVというコンセプトが、EQS本来のバランスを崩している部分は否めない。しかし、このクルマをSUVではなくMPVとして見ると、ゆったりとした乗り心地、3列シート、広大なラゲッジスペース、多機能で上質なインテリア、そして内燃機関から乗り換えても違和感のない、程よく過敏すぎない動力性能が、俄然魅力的に見えてくる。

それもまたラグジュアリーBEV、およびSUVの新たな姿、ということなのかもしれない。

REPORT/藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2023年10月号

SPECIFICATIONS

メルセデス・ベンツEQS450 4マティック SUV

ボディサイズ:全長5135 全幅2035 全高1725mm
ホイールベース:3210mm
車両重量:2900kg
モーター システム最高出力:265kW(360PS)
モーター システム最大トルク:800Nm(81.6kgm)
トランスミッション:1速固定
駆動方式:AWD
サスペンション:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後265/50R20
航続距離(WLTCモード):593km
車両本体価格:1542万円

BMW iX xドライブ50

ボディサイズ:全長4955 全幅1965 全高1695mm
ホイールベース:3000mm
車両重量:2560kg
モーター システム最高出力:385kW(523PS)
モーター システム最大トルク:767Nm(78.0kgm)
トランスミッション:1速固定
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後255/50R21
航続距離(WLTCモード):650km
車両本体価格:1398万円

【問い合わせ】
メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
https://www.mercedes-benz.co.jp/

BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
https://www.bmw.co.jp/

今回試乗したEQS 450 4Matic SUVの総電力量は107.8kWh、航続距離593km(WLTCモード)を謳う。

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メルセデスのフラッグシップ電動SUV「EQS SUV」がデビューを果たした。大人7人が快適に過ごすことができる居住空間に、圧倒的な質感の室内。ラグジュアリーBEVのあらたな可能性を感じさせてくれるモデルに仕上がっていた。(GENROQ 2023年8月号より転載・再構成)

意を決してアクセルペダルを深く踏み込むと、瞬間的な加速は気が遠くなりそうなほど強烈な2台。

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藤原よしお

クルマに関しては、ヒストリックカー、海外プレミアム・ブランド、そしてモータースポーツ(特に戦後から1…