コンパクトSUV「ポルシェ マカンT」に試乗

ポルシェのコンパクトSUV「マカンT」に試乗してひしひし感じる「アシのいいヤツ」というフレーズ

SUVでありながら、ポルシェの血統を否定しようがない超剛性感と緊密きわまりないステアリングが魅力の「マカンT」。
SUVでありながら、ポルシェの血統を否定しようがない超剛性感と緊密きわまりないステアリングが魅力の「マカンT」。
911、718系にラインナップされる「T(ツーリング)」を冠したポルシェとしては初の4ドアモデルが追加された。車高をノーマルグレードに比べ15mm落としスポーティなハンドリングを手に入れたというマカンの実力を確かめた。(GENROQ 2023年11月号より転載・再構成)

PORSCHE Macan T

「T」とは何か?

純スポーツカー以外のポルシェでは初のTとなるのが「マカンT」だ。

ポルシェにおける「T」の起源は初代ナロー時代の911だ。当時は最もチューンの低いベーシックな911という位置づけだった。それから約35年の年月を経て、通算7代目の991がモデル末期に差しかかっていた18年にTは復活した。

新時代のTはエンジンがベーシックチューンである点は当時と同じだが、シャシーを大径ホイールにPASM(ポルシェアクティブサスペンションマネジメント)、機械式LSDなどで強化。さらに2座化や軽量ガラス、吸音材削減で軽量化も図られていた。昭和風にいうなら「アシのいいヤツ」的な存在で「ガレージを飾るのではなく、コーナーを攻め込むための1台」と謳われた。Tはその後、ボクスター/ケイマン、そして992でも登場。今ではGTSとともに、熟成期に追加される定番バリエーションに成長した。

純スポーツカー以外のポルシェでは初のTとなるマカンだが、“T化”の手法はこれまでとほぼ共通といっていい。エンジンは素マカンと共通の2.0リッター4気筒ターボで、最高出力265PS、最大トルク400Nmというチューンも変わりない。一方で、足もとは20インチホイールとPASM、15mmローダウンスプリングを組み合わせて、スポーツクロノパッケージも標準装備。機械式LSDは備わらないが、PTM(ポルシェトラクションマネジメント)=4WDがより後輪配分を増した専用セッティングになっているとか。

ただ、そこに特別な軽量化メニューが見当たらないのが、911やボクスター/ケイマンのTとちょっとだけ違う点だ。上級のSやGTSのV6に対して、エンジンは4気筒となるマカンTは、前軸重がV6比で60kg近く軽い。マカンではこれをT=軽量のよりどころとする。

寸止めされたタイヤ設定の妙

インパネは通常のマカンと同様の意匠となっている。シルバーのスポーツテックスストライプがあしらわれたシートを採用。

実際、マカンTのインテリアはダッシュボードには丹念にレザーが張られて、電動シートなど主要快適装備も大半が標準。ナロー時代のような簡素な雰囲気は皆無といってよい。シートはフィット感の高い「スポーツテックス」と本革のコンビ表皮で、ちょっとクラシカルな縦縞模様が、現代のTのお約束である。

前記のとおりローダウンサスもTの特徴なのだが、オプションのアダプティブエアサスペンションが追加されていた今回の試乗車は、車高がさらに10mm低くなっている。ダークチタンのマカンSホイールともども、いかにも精悍ないでたちだ。

走りは素晴らしい……としかいいようがない。SUVでありながら、ポルシェの血統を否定しようがない超剛性感と緊密きわまりないステアリングは相変わらずだが、それに輪をかけて「締まっているのにしなやか」なアシが絶品なのだ。

手元のダイヤルでノーマル、スポーツ、スポーツプラスと走行モードを引き上げるにつれて、アシさばきも確実に硬くなっていくのだが、さらにローダウンされて最も締まるスポーツプラスモードにいたっても、舗装がヒビ割れたような荒れた路面でもしっとり吸いつく。それどころか、路面コンディションが悪化するほど、逆に生き生きとしてくる。

これはサスペンションの調律だけでなく、あえて(GTSの21インチではなく)マカンSと共通の20インチに寸止めされた(?)タイヤ設定の妙もあろう。さらに後輪トルクを増したPTMに加えて、試乗車にはリヤのトルクベクタリングプラスも備わっていたので、アクセルを積極的に踏めば踏むほど曲がっていく。

超熟期のマカン

普通、ポルシェのスポーツプラスといえば「サーキット上等」が通例で、マカンTもサーキットでもそれなりに遊べることだろう。しかし、その調律が低μな一般ワインディングにピタリと照準を合わせられていることは明白だ。Tの語源が「ツーリング」であることが、マカンTに乗ると、五臓六腑に染みわたる。

ポルシェの4気筒も普通の乗用車基準なら相当のハイチューンといえるし、しなやかなマカンTのフットワークに荷重移動のカツを入れるに十分なレスポンスをもつ。しかし、その素晴らしすぎるシャシーの味わいを前にすると「モアパワー!」と叫びたくなるのも不可避である。

全性能がテンコ盛りのGTSもいい。ただ、ここであえてTを選ぶのが、世界初公開から約10年が経過した熟成期どころか超熟期(?)といえるマカンの旬な楽しみ方……と、ポルシェはいいたいのだろうか。

REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/佐藤亮太(Ryota SATO)
MAGAZINE/GENROQ 2023年11月号

SPECIFICATIONS

ポルシェ・マカンT

ボディサイズ:全長4726 全幅1927 全高1606mm
ホイールベース:2807mm
車両重量:1940kg
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1984cc
最高出力:195kW(265PS)/5000-6500rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1800-4500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前マルチリンク 後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前265/45R20 後295/40R20
車両本体価格:901万円

【問い合わせ】
ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
https://www.porsche.com/japan/

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