目次
Chevrolet Corvette Z06
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Porsche 911GT3
新たな開発が難しい自然吸気ユニット
直噴エンジン+可変ジオメトリーターボ+高効率多段ミッションの組み合わせからなるエンジンのダウンサイジングムーブメントが、スポーツカーの側にも飛び火し始めたのは2010年代に入ってからのことだ。排気量縮小によるエンジン本体の小型化はパッケージ的にもメリットがある上、過給圧の調整でパワーを調律出来るとあらば、多グレードの展開においても都合がいい。低回転域のリッチなトルクを高いギヤ比で巧く使えばモード燃費的なスコアにも効く。過給器が当然となるのは、自明だったのかもしれない。
一方でその数を減らしているのが自然吸気ユニットだ。過給器勢並みの動力性能を得るには大排気量化や高回転化が定石だが、得られるパワーに比例してエンジン本体の大型化や燃焼管理の難しさなど、様々な課題が浮かび上がる。そもそも高コストな上、今後モーターを組み合わせる可能性を織り込めば前後長は短い方がいいということで、新たな開発が難しいというのが現状だろう。
100mmを超えるボア径で
そんな中で久し振りに現れた、純然たるスポーツカー向けの自然吸気ユニットがコルベットZ06に搭載されるLT6だ。90度バンクのV型8気筒はDOHCを採用。コルベットの歴史を振り返ると1989年、当時提携関係にあったロータスがスモールブロックのボア×ストロークをベースとしたDOHCのLT5を開発、それを搭載した4代目ZR-1以来、2例目の採用となる。
その排気量はLT5より小さい5454ccだが、ボア×ストロークは104.25×80mmと完全なるショートストローク設計となり、既存のV8群との共通項はまったくない。圧縮比は12.5と非常に高く、レッドゾーンはメーター表示上は8500rpm、ただしGMの発表値では8600rpmからとされる。
まずもって100mmを超えるボア径を持つエンジンは、燃焼マネジメントが非常に難しい。火炎を均質に回して燃料を綺麗に燃やし切るというだけでも一筋縄ではいかないものだ。それを12.5の超高圧縮比でやってのけるというのは、完全にレーシングテクノロジーの境地となる。
このLT6と極めて近い素性を持つのが、現行型911GT3系に搭載されるMA275だ。水平対向6気筒の排気量は3996ccで気筒あたりのキャパシティは666ccと、Z06の約682ccに大差はない。ボア×ストロークは102×81.5mmとこちらも強烈なショートストロークで圧縮比は13.3、レッドゾーンは9000rpmとなる。
右ハンドル化で拡がった商圏
LT6とMA275に共通するのは、FIA-GT3やLM-GTEカテゴリー向けのレース専用車両に搭載されるユニットのベースとなっているということだ。911GT3についてはいわずもがなで、それらに加えてワンメイクレース用の車両に用いるという目的もある。
コルベットについては5代目以降、LM-GTEカテゴリーでの活躍がマーケティング上も重要な役割を果たしてきたが、7代目に至ってはFRの限界がWECの戦績にも大きく影響するほどになった。8代目となる現行型がMRとなった最大の理由はこの不利を解消するためであり、Z06が今年のル・マンを制したC8.Rと同時並行で開発されてきたことはGMも認めるところだ。
ちなみにGMは今年でコルベットのファクトリーレーシングの活動を止めることになったが、代わってFIA-GT3カテゴリー向け市販レーシングカーのC8 GT3.Rを既に発表している。これに搭載されるLT6.Rユニットは、約7割のエンジンパーツをこのZ06のLT6と共有するという。現に超ショートスカートのアルミ鍛造ピストンや薄型のチタン鍛造コンロッドなど、Z06に組み込まれるパーツ群は到底量産車のそれとは思えない。
よもやGMがこれほど闘志を剥き出しにしてレーシングユニットさながらのエンジンをコルベットに搭載してくるとはゆめゆめ思わなかったし、それを日本法人が正規輸入することになるとも想像だにしなかった。というのも、米国仕様のZ06はセンター4本出しの専用可変エキゾーストを搭載し、ピーク時はその半分をストレート化するなど、日欧では法規的に到底無理な制御で670PSを絞り出していたからだ。
が、右ハンドル化も可能となったことで商圏が広がったこともあってだろう、日欧仕様のZ06は標準車をベースとする排気システムを用いることによって法規を満たすことが出来た。出力は646PSとなったものの、大手を振ってこの稀有なユニットを楽しめる環境が用意されたことだけでも大ラッキーだと思う。
只ならぬブリッピングのピックアップ
一方で、さしたる苦労もなく510PS/8400rpmを解き放ってくれる911GT3も、時流を鑑みれば至高の体験を供してくれる1台だ。ブリッピングのピックアップの只ならなさからすれば、1500rpm前後でのリニアリティは望外に高いが、粘り強さを感じさせるひとつは完全バランスのフラット6という骨格面の理由も大きいだろう。
そこから回転域を高めていくも、振動が増幅する気配もないままに、MA275ユニットは一気呵成に9000rpmのレッドゾーンまで突き抜けるように吹け上がる。頭打ちのようなストレスも感じないので、変速を忘れそうになるほどそのレスポンスは強烈だ。つぶさに観察すれば3500rpmの向こうに気持ちトルクの谷間があるなあとか、7000rpm超えてからもうひと声パワーの盛り上がりがあるとか、そんな分析も出来なくはないが、回転超過にも速度超過にも逐一ドライバーの自制心が求められる。ともあれこれほど鋭敏な内燃機体験を味わうというのはそうそうあるものではない。
対して、Z06のLT6ユニットはフラットプレーンを採用していることもあって、始動時から内燃機らしい爆発感が微振動と共にドライバーにも伝わってくる。レスポンスはGT3に一歩譲るもカミソリ感は強烈で、そこに脈動的な手応えも備わるところがクルマ好きには嬉しい。
とんでもなくレーシーなGT3
LT6は基本的なキャパシティが大きいこともあって、低回転域から十分にレスポンスするものの、V8アメリカンといわれて想像するようなトルク感という点では線が細い。山谷をはっきりと感じさせることはないものの、回転を高めるほどに二次曲線的にパワーを乗せていく、いかにも高回転型自然吸気ユニットの力感をみせてくれる。フラットプレーンということでフェラーリ的なところを想像するサウンドだが、乗員にとっては脳天に突き抜けるようなエキゾーストを響かせるというよりは、ギチギチに組み込まれたマルチシリンダーのメカノイズがギューンと高音を奏でるという印象だ。
Z06は前275幅、後345幅という超極太タイヤを履くこともあって、公道でその全貌を露わにすることは非常に難しい。気持ちよく走る程度のドライブであれば前輪主体で曲がってる感があり、踏んで曲げるという手応えを感じるにはやはりクローズドコースに行くべきだという思いを強くする。その点でいえばGT3はとんでもなくレーシーでありながらも、公道レベルで姿勢変化や荷重移動といった曲げるための所作をわずかながらでもドライバーに伝えてきてくれるところが面白い。
守旧的クルマ好きにとって譲れない一線
そのさらに向こうにGT3 RSというグレードがあることを前提にしているからかもしれないが、こういうところはポルシェは巧いなあと思う。一方でZ06を公道で走らせることに満足感はないのかといえば、そんなこともない。全域でビリビリと存在感を伝えてくるエンジンを慈しみながら、ちょっと引くほど押しの強い車体をゆるゆると走らせる心地よさもある。
ともあれいえるのは、やはり大排気量・自然吸気・マルチシリンダーのエンジンは、守旧的クルマ好きにとって譲れない一線であるということだ。そんな選択肢が新車でなお残る現状は、本当に大事にしなければと思う。
REPORT/渡辺敏史(Toshifumi WATANABE)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2023年12月号
SPECIFICATIONS
シボレー・コルベットZ06
ボディサイズ:全長4685 全幅2025 全高1225mm
ホイールベース:2725mm
車両重量:1430kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHC
総排気量:5454cc
最高出力:475kW(646PS)/8550rpm
最大トルク:623Nm(63.6kgm)/6300rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/30ZR20 後345/25ZR21
車両本体価格:2500万円
ポルシェ911GT3
ボディサイズ:全長4573 全幅1852 全高1279mm
ホイールベース:2457mm
車両重量:1435kg
エンジンタイプ:水平対向6気筒DOHC
総排気量:3996cc
最高出力:375kW(510PS)/8400rpm
最大トルク:470Nm(47.9kgm)/6100rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/35ZR20 後315/30ZR21
車両本体価格:2628万円
【問い合わせ】
GMジャパン・カスタマーセンター
TEL 0120-711-276
https://www.gmjapan.co.jp/
ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
https://www.porsche.com/japan/