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Ferrari 296 Challenge
本格的なレーシングカーとして開発
フェラーリは、2024年シーズンのフェラーリ・チャレンジから投入される、ワンメイクレースシリーズ専用マシン「296 チャレンジ」を公開。296 チャレンジは、フェラーリ・チャレンジの変化に合わせて、大きな進化を果たすことになった。近年のフェラーリ・チャレンジは参加ドライバーのレベルアップにより、コンペティションが激しさを増しており、これまでにないレベルでベースモデルに変更を加えている。
従来、ブロダクションカーをベースに比較的控えめな変更を施したレーシングカーから、サーキットでの使用に最適化した重要な改良をいくつも加えたモデルへと変貌した。このバラダイムシフトを受けて、設計チームは過激なモデルを生み出すことが可能になり、全体的な性能はもちろん、テストセッションやレースを通した一貫性と再現性についても、大幅なレベルアッブを果たした。
296 チャレンジは、フェラーリ・チャレンジ史上初めてV6エンジンを搭載。ベースモデルの296 GTBからの最大の変更点は296 GT3と同様、ハイブリッドパワートレインが外されたことにある。これにより、重量を削減しつつ、最高出力が700PSへと引き上げられた。セグメント最高の比出力234PS/Lを達成し、296 GT3のソリューションを活用したエアロダイナミクスもまた、フェラーリ・チャレンジでは前例のないダウンフォースレベルを実現している。
ブレーキシステムには、サーキットから生まれた技術を活用した、カーボンセラミック製「CCM-R PLUS」ディスクを導入。サーキット専用に進化させた「ABS EVO Track」によって、これまでにないブレーキング性能を実現した。様々な進化の結果、296 チャレンジは、先代モデルの488 チャレンジ Evoが記録したムジェロでのラップタイムを2秒も更新したという。
最高出力700PSを発揮する3.0リッターV6ツインターボ
296 GT3と同様、3.0リッターV型6気筒パワートレインからハイブリッドを排除することは、開発初期に決定されたという。電気モーターと高電圧バッテリーは取り外され、V6ツインターボの最高出力は700PSに引き上げられることになった。バッテリーやモーターなどの重量物がなくなったことで、車重が大幅に低減されたほか、シンプルな構造のレーシングカーが完成したと謳う。
新開発のアーキテクチャーにより、エンジンコンパートメント上部に位置するエキゾーストパイプを、より直線的に変更することが可能になった。エキゾースト形状の変更により背圧が30%も低減し、出力向上にも大きく貢献している。ターボの最高回転数は10%高い18万rpm。ターボのブースト圧も同様に引き上げられ、燃焼室内の圧力が高められた。その結果、 出力はベースモデルから37PS高められ、最大トルクについて数値は変わらないものの、その回転域がやや下げられている。
V6エンジンの出力向上に合わせて、エンジンベイの追加熱対策と、ターボ専用の断熱材が必要になった。さらにハイブリッドシステムを排除したスペースには、空調用コンプレッサーと12Vスターターモーターが導入された。
296 チャレンジに搭載される3.0リッターV6ツインターボは、出力比234PS/Lを記録しており、これはロードカー派生フェラーリの新記録となる。
296 GT3の知見が活かされたエアロダイナミクス
296 チャレンジのエアロダイナミクス開発ターゲットは、296 GT3で蓄積した知見を生かし、フェラーリのワンメイクシリーズ史上、前例のないダウンフォースを実現することだった。これはストレートとコーナーリングの両方で、バランス変化を最小限に抑えることで達成。敏捷で応答性に優れ、高速走行時にも非常に予測しやすいレーシングカーが誕生した。
冷却システムは、296 GT3と同様に高温経路用水冷ラジエーターをフロントに配置し、その前方に HVAC用コンデンサーを設置。2基のインタークーラーとエンジン用エアフィルターは、公道モデルと同じようにリヤに搭載される。
走行中に低温の空気を最大限多く確保できるよう、エンジン冷却ラジエーターへのフレッシュエアは、フロントバンバー中央のエアインテークから取り入れられる。ラジエーターから排出された高温の空気は上方へと導かれ、フロントボンネットのベントから排出。GT3の開発により生まれたこのソリューションにより、冷却エア量が増大すると共に、効率的なダウンフォースに不可欠なアンダーボディの密閉が可能になった。
ボンネットに配置されたベントは特殊なウイング形状を採用。ラジエーターカバーのすぐ後方にあるダクトからの空気の排出を最適化する形状が与えられた。リヤバンバーは296 GTBから大幅に再設計。エンジンベイからの排気エリアが大幅に拡大され、静止状態でも走行中でも十分な量の高温気流を排出できるようになった。
296 チャレンジは、リヤウイングの仰角が最大のとき、250km/h時に870kgものダウンフォースを発生。これは488 チャレンジ Evoのダウンフォースに対して18%の増加となる。エアロダイナミクス開発においては、バフォーマンスだけでなく、ドライバビリティの向上にも力を注がれた。パフォーマンスとドライバビリティという相反する目標を達成するため、ダウンフォースの変動に対する過敏さと、グラウンドクリアランスやヨー、ロールによる空力バランスの変化を最小限に抑えている。
リヤアクスルにかかるダウンフォースは、主に固定式リヤウイングで発生。固定式ウイングは7種類の角度に調整が可能となっている。2本のステーもウイング形状となっており、ウイング上部に接続する「スワンネック・タイプ」が導入された。また、エアロバーを備えたウイングのエンドブレートもダウンフォースを発生し、ウイング下面の効率性を向上させるという。
488 チャレンジ Evoを踏襲したコクピット
296 チャレンジのコクピットには、これまでのワンメイクシリーズだけでなく、GT3における経験もフィードバックされた。ステアリングホイールは、488 チャレンジ Evoの人間工学に適ったデザインを踏襲しつつ、専用の改良を追加。大きく異なるのがエンジン回転数を示す「LEDバー」の位置で、ステアリングホイールではなくデジタルインストゥルメント・ディスブレイに統合され、レース中により見やすくなった。
センタートンネルに配置された操作系レイアウトもアッブデート。すぐに手が届く位置に、最も頻繁に使うスイッチ類が配置されている。エアコンの丸型ベンチレーションは、気流を最適化して快適性を高め、あらゆる方向に調整が可能。シートは296 GT3をベースにしており、さらなる開発によって、特に頭部、肩、肘のについて人間工学に適うよう進歩させた。
ロールケージは、FIAが定めるレースの国際基準に合致しており、高度なコンビューター技術を駆使して、細部に至るまで入念に設計された。そして488 チャレンジ同様に、サーキットにおいてコーチのサポートを受けたい場合やゲストを乗せて走ることを想定し、パッセンジャーシートを取り付けることも可能となっている。専用のパッセンジャーシートは、取り外しが簡単に行えるよう設計されている。