シンガーが改良を加えたオリジナル「タイプ 964 ポルシェ 911」が2年をかけてついに上陸

2009年にアメリカ・ロサンゼルスで設立されたシンガー・ヴィークル・デザイン。タイプ964のポルシェ911をレストアし、さらにオリジナルの改良を加えている。
2009年にアメリカ・ロサンゼルスで設立されたシンガー・ヴィークル・デザイン。タイプ964のポルシェ911をレストアし、さらにオリジナルの改良を加えている。
タイプ964のポルシェ911をレストアし、さらにオリジナルの改良を加えるシンガー・ヴィークル・デザイン。福岡に本社を置く永三MOTORSがシンガー・ヴィークル・デザインの初の日本向け車両を公開した。(GENROQ 2024年1月号より転載・再構成)

Porsche Reimagined by Singer

オリジナルの改良を加える「リイマジン」

今回の車両はクラシック・スタディとなる。価格は明らかになっていないが、「1億円以下」ということだ。

このクルマを造ったのはシンガー・ヴィークル・デザイン。聞き覚えのない方も多いかもしれないが、2009年にアメリカ・ロサンゼルスで設立された会社だ。タイプ964のポルシェ911をレストアし、さらにオリジナルの改良を加えることが主な事業で、彼らはこの作業を「リイマジン」と呼んでいる。しかしその仕上がりを見れば改造とかチューニングなどという次元を遥かに超えた彼らの仕事の素晴らしさがよくわかるだろう。

このたび、福岡に本社を置く永三MOTORSがシンガー・ヴィークル・デザインの最初の日本に向け車両を公開した。永三MOTORSがシンガーの日本での独占サービスパートナーとなったのは2021年で、このクルマはその年にオーダーされたもの。約2年をかけてようやく完成し、日本のオーナーに納車するために上陸したというわけだ。カラーなどはもちろん、その仕様や詳細はすべてオーナーの要望が反映されているという。

964を使用する理由

エンジンはエド・ピンク・レーシング・エンジンズが組み立てた4.0リッターを搭載。他にコスワースの手による3.8リッターも選択できる。トランスミッションは993用の6速MT。

ボディはドアなど一部を除いてすべてカーボン製とされ、外観はナロー時代をモチーフとしたクラシックなスタイル。インテリアはオリジナルのデザインを活かしながらあらゆるパーツが置き換えられ、美しい仕上がりを見せている。Apple CarPlayなど、現代的な装備が備わるのも特徴だ。エンジンはボア&ストロークアップで排気量を4.0リッターまで拡大。パワーは390PSを発揮する。

発表会場にはシンガー・ヴィークル・デザインのテクニカルスタッフも来ていたので、ベースに993ではなく964を使用する理由を聞くと、リヤサスペンションがセミトレーリングアームであることを挙げていた。リヤサスがマルチリンクとなりトレッドも広がる993よりも964の方がナローボディを再現しやすいのだろう。また見た目はナローだが964の可動式リヤスポイラーが活かされていたり、ワイパーは993用であったりと、各世代の良いものを採り入れているところに、彼らの柔軟性が現れている。

シンガーのラインナップは「クラシック・スタディ」「ターボ・スタディ」「ダイナミック・ライトウエイト・スタディ」の3種類があり、「クラシック・スタディ」は1973年以前のナローの外観に3.6リッターか4.0リッターのエンジン、「ターボ・スタディ」は930時代のターボの外観に3.8リッターのツインターボエンジン、「ダイナミック・ライトウエイト・スタディ」はナローの外観にウイリアム・アドンバンスド・エンジニアリングと共同開発した4.0リッターエンジンを搭載する。このエンジンは9000rpmで500PSをするという凄まじいものだ。すべてベース車両は964となるが、これらはあくまで基本で、細かな仕様やエンジンのパワーなども、オーナーのリクエストにより柔軟に対応してくれるという。

911に対するリスペクトとプライド

設立以来10年ちょっとで世界中に顧客を持つなど、成長を続けているシンガー・ヴィークル・デザインだが、彼らは911をレストア・リイマジンしているだけで、クルマ自体は紛れもなくポルシェ911だと主張する。そこには911に対するリスペクトと、同時に自分たちの仕事に対するプライドも感じさせる。「Relentless Pursuit of Excellence」(絶え間ない卓越性の追求)を哲学とするシンガー・ヴィークル・デザイン、原理主義にとらわれないクラシックスポーツの世界は、これからの注目となりそうである。

REPORT/永田元輔(Gensuke NAGATA)
PHOTO/永三MOTORS
MAGAZINE/GENROQ 2024年 1月号

「ポルシェ 911 リイマジネイテッド by シンガー DLS ターボ」のエクステリア。

シンガーの最新レストモッド「ポルシェ 911 リイマジネイテッド by シンガー DLS ターボ」は「934/5」をオマージュ

アメリカ・カリフォルニア州を拠点とし、空冷911に最新のメカニズムを組み合わせた独自のレストモッドを製作するシンガー・グループ(Singer Group)。今回、「ダイナミクス&ライトウェイティング・スタディ(DLS)」をベースにターボチャージャーを組み込んだ、「ポルシェ 911 リイマジネイテッド by シンガー DLS ターボ」を完成させた。

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著者プロフィール

永田元輔 近影

永田元輔

『GENROQ』編集長。古典的ジャイアンツファン。卵焼きが好き。愛車は993型ポルシェ911。カメラはキヤノン。