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Cadillac Escalade
真のラグジュアリーを体現するハイエンドSUV
まさしく、トップ・オブ・キャディの降臨である。この夏にデリバリー開始となった新型(2021モデルイヤー)エスカレードは初代から数えて23年目、通算5世代目となる。エスカレードはいうまでもなくキャデラックの最高級SUVだが、もはや「SUVとしては・・・」といった注釈はまったく不要だ。
現代のアメリカ社会において、運転手つきで乗るショーファーカーは、この種のフルサイズSUVが務めるのが常識となった。キャデラックではCT6の生産もすでに終わり、今はメルセデス EクラスやBMW 5シリーズ相当のCT5が最上級セダンとなってしまった。つまりエスカレードは、すでにジャンルを超えた孤高のキャデラックなのである。
フロントフェイスも一新
そもそも初代エスカレードが1999年に登場した時点で、キャデラックには、フレーム付きで全長5.7mを超える伝統的フルサイズFRサルーンはなくなっていた(最後のフリートウッドは96年生産終了)。当時は全長5.3m級でFFのドゥビルがその役割を受け継いでいたものの、広い室内空間とスマートな乗降性、見栄えに押し出し・・・と、あらゆる点でショーファー用途に適した高級フルサイズSUVに、ハリウッドスターなどのセレブリティたちがいち早く目をつけたのだ。
エスカレードもそうした需要に応えるべく、2002年に登場した2代目で早くもロングホイールベースの「ESV」を追加した。一方、ドゥビル以降のトップセダンは、DTS、XTS、そしてFRに回帰したCT6・・・と世代交代ごとに欧州流に洗練されていく。それはそれで国際市場を意識した進化だったが、同時にアメリカンなサクセスストーリーを彩るには小粒になった感も否めなかった。対するエスカレードはモデルチェンジごとに、より大きく、より豪華に上り詰めていった。
エンジン以外すべて刷新して生まれ変わったエスカレード
というわけで、新しいエスカレードである。おなじみの縦長から極細の横長へと変わった新しいヘッドライトが新型の証しだが、こうして日本の交通環境に置くと、まるで小山のように巨大というほかない。もともとデカかった先代比で、さらに全長で205mm、全高で20mm、ホイールベースで120mmも拡大しているのだから、大きいのは当たり前だろう。とはいえ、これでも本国ラインナップでは短い標準モデルなのだ。彼の地にはさらに40cmほど長い「ESV」も普通に売られるのだから、唖然とするほかない。
ただ、2065mmという全幅だけは先代と変わっていないこともあって、遠目で見たときにはより背が高く見えて、小山感が強調されている。また、幅方向に厳しい日本の交通環境で取り回すことを考えると、全幅が大きくならなかったことは朗報かもしれない。まあ、もともと日本では規格外に大きいのは否定しようもないけれど(笑)。
新しいエスカレードの中身は、基本的にキャリーオーバーされたエンジン以外はすべてが新しい。同時に刷新された新型シボレー タホと同様のアーキテクチャーは、独立ラダーフレームという基本構造は踏襲されるものの、そのフレームから完全新開発である。そして、リヤサスペンションが古典的なリジッドからついにマルチリンクとなったことが最大のニュースだろう。その新開発の四輪独立サスペンションに電子制御のエアスプリングと連続可変ダンパーを組み合わせている。
全身をブラックに染め上げたグレード「スポーツ」
今回の試乗車は日本で2種類用意されるうち、より高価な「スポーツ」だった。高価といっても、もうひとつの「プラチナム」との価格差は30万円(本体価格の約2%)だし、エンジンやタイヤを含めた乗り味は両グレードで共通である。安全性や快適装備にも差異はない。
そんなスポーツの特徴は「全身黒」であることだ。フロントグリルが専用のブラックメッシュになるだけでなく、プラチナムではクロームとなるその他のエクステリア加飾もブラック化される。さらに内装もアッシュウッドパネルとアクセントのシルバー以外はすべてブラック、そしてボディカラーもジェットブラック一択となる(初期受注期間のみ別カラーも選ぶことはできたが)。
ドアを開けるとスルリと差し出されるお馴染みの電動格納ステップを使ってシートにたどり着くと、そこはアメリカ資本の高級ホテルを思わせる、きらびやかだけど温かなキャデラックらしい調度に包まれる。ダッシュボードに突き刺さったようなOLED(=有機EL)ディスプレイが目新しい。そのディスプレイはドライバーを中心にカーブを描いている。自動車用の湾曲型有機ELは、これが世界初という。
トップ・オブ・キャディに相応しい内外装に圧倒される
もっとも、先代までのオーナーならば、それ以上に、センターコンソールに屹立したシフトレバーに感嘆することだろう。しかも、軽く弾くだけで操作できる最新鋭のシフトバイワイヤ式である。メカニカルなコラムシフトとリヤのリジッドサスペンションは、ともに先代エスカレードまで残っていた数少ない「トラック設計の名残り」を感じさせていた部分である。これらの部分は2〜3世代分の時間を一足飛びで進ませたともいえ、新型エスカレードはトップ・オブ・キャディとして、さらにひと皮むけたのは間違いない。
ラダーフレーム上に架装されるボディも、従来から流用された部品はひとつもないそうだ。空間効率も見直されてキャビンは明らかに広くなっているが、特に恩恵が大きいのがサードシートである。先代では身長175cm級の大人でも十分な空間があったが、新型ではさらに広くなったうえに、シートの着座姿勢がとても健康的なものとなり、掛け値なしに「大人のフル6〜7シーター」といえるようになった。サードシートの出し入れはもちろん、セカンドシートの可倒とタンブルアップまでスイッチひとつで完遂する電動フォールディング機能も健在だ。
ここまで大きな体躯でも、物理的に通過できる道幅さえあれば、ストレスフリーにガンガン踏み込んでいけるのはエスカレードの伝統である。いい意味でトラックらしさが残されけた小高いドラポジと、四角四面スタイルによる正確な車両感覚は今も昔もエスカレードの美点だ。
シャシーや足まわりが進化しようともエスカレードらしい乗り味は健在
そんな完全新開発のシャシーとボディのおかげで、走りもまるで別物のスポーツカーのごとく・・・とはいかないのが、良くも悪くもエスカレードだ。ゆったりおっとりした重厚な身のこなしと外界の喧騒から隔絶されたような浮遊感のある乗り心地は、ラダーフレーム特有の快適さである。また、10速ATという新兵器は得たが、基本的なエンジン出力やトルクはそのままに車重が先代比で70kgほど増えているので、動力性能も先代と大きく変わらない。
しかし、路面によって横ズレのような動きが出たり、細かい凹凸で増幅されたかのように振動するリジッド特有のクセは、当たり前だが見事なまでに解消されている。ステアリングレスポンスはあくまでゆっくりだが、反応そのものは正確かつ一定に保たれるのは、新しい四輪独立サスペンションの恩恵だろう。
もっとも、新しいシャシーの恩恵はもしかしたらセカンドシートの乗り心地に、より顕著かもしれない。考えてみれば、エスカレードの最特等席はセカンドシートということもできる。新型エスカレードは基本骨格の刷新に加えてNVH対策も入念なのか、静粛性も大幅に向上している。高回転まで引っ張れば6.2リッターV8のOHVサウンドはそれなりに耳に届くが、巡航時のロードノイズは明らかに静かになった。今回が初採用のオーストリアAKGブランドを冠する36スピーカーサウンドシステムはきらびやかな音質で、あえてセカンドシートでその乗り心地と音響に身をゆだねるのも一興だろう。
サイズや質感、室内調度に加えて、中身もトップ・オブ・キャディに恥じない高度なメカニズムに脱皮したエスカレードだが、その世界観は、すでに20年以上という歴史のなかで構築されてきたそれだ。細かい取り回しも意外なほど苦にしないが、よくできたアダプティブクルーズコントロール(リアルワールドでのADAS機能のデキの良さはGMの自慢である)に身を任せて、ハイウェイをご機嫌に流すのが似合う。物理法則を無視したかのようにゴリゴリ突っ走るSUVは、ヨーロッパにまかせておけばいい。
REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/田村 翔(Sho TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2021年 11月号
【SPECIFICATIONS】
キャデラック エスカレード スポーツ
ボディサイズ:全長5400 全幅2065 全高1930mm
ホイールベース:3060mm
車両重量:2740kg
エンジン:V型8気筒OHV
総排気量:6156cc
最高出力:306kW(416ps)/5800rpm
最大トルク:624Nm(63.6kgm)/4000rpm
トランスミッション:10速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後275/50R22
車両本体価格(税込):1520万円
【問い合わせ】
GMジャパン・カスタマーセンター
TEL 0120-711-276
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