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Jeep Wrangler Rubicon Soft Top×Land Rover Defender 90 S
クルマの本質を考える
限定100台のジープ ラングラー ルビコン ソフトトップの価格は622万円。一方、ランドローバー ディフェンダー90 Sの価格は632万円。ご存知のようにラングラーは“元祖SUV”であるウィリスMBの末裔だし、ディフェンダーも遡れば1948年に発表されたランドローバー(シリーズ1)に行き着く。そして両車とも、よりオリジナルに近いショートホイールベースの2ドアモデル。
値段も立ち位置もスタイルも、似たもの同士さ俺たちは、という2台だ。けれども、乗ってみると全然違う。どれくらい違うかといえば、同じ「100万円で行くアウトドアツアー」でも、「無人島・自給自足の旅」と「シャンパーニュ飲み放題・グランピングの旅」ぐらい違う。
まずは無人島、じゃなくて、ジープ ラングラー ルビコン ソフトトップの運転席によじ登る。この仕様は、1941年の初代モデルをモチーフにした2ドアの限定車。現行のジープ ラングラーのラインナップのなかで、2ドアのジープ ラングラー スポーツは受注生産で、メインは4ドア。したがってなかなか試乗する機会がなく、現行の2ドア仕様のハンドルを握るのは今回が初めてだった。
2ドア仕様のラングラーはラダーフレームの味わいが濃い
エンジンを始動してアクセルを踏み込むと、3.6リッターV6エンジンのいい感じに乾いた音が、地下駐車場の壁にぶつかって跳ね返る。ダウンサイジング+ターボの、くぐもった音に慣れきった耳に、新鮮に響く。
こんなカッコなのにエンジンいい音でおもろいやん! と勢いづいて首都高のETCゲートを抜けてアクセルを踏み込んで、思わず「おおっ!」と声が出た。シャシーとボディがバラバラに加速するように感じる、“ラダーフレーム感”がびんびんに伝わってきたからだ。
ジープ ラングラーの4ドア仕様を試乗した時には、この“ラダーフレーム感”がかなり薄まったように思えたけれど、2ドア仕様は全然薄まっていない。カルピスの原液は言い過ぎだけど、なかなか濃い。
もしかすると2ドアはモデルチェンジしなかった? というのは冗談で、やはり4ドアモデルに比べて550mmもホイールベースが短いから路面の凸凹の影響がより強く挙動に反映され、それが濃厚な“ラダーフレーム感”につながるのだろう。
普通のハードウェア評価に収まらないプリミティブな良さ
で、速度が80km/h程度に達すると、今度はハンドルの手応えがやや頼りなくなる。直進安定性も怪しくなってきて、横風が吹くとハンドルを握る手のひらに力が入る。高速道路を直進するだけで手のひらに汗をかくのは久しぶりで、この感覚、懐かしい。ソフトトップのどこかから、パタパタと音が聞こえるのも懐かしい。普通にハードウェア評価をするならば、これは明らかに×だろう。でも不思議なことに手のひらに汗をかきながら、楽しくなってくる。アドレナリンかドーパミンか知らんけど何かが泉のごとく湧いてくる。このドジでノロマな緑ガメをきちんと走らせるには、俺の力が必要なんだ。
さらに試乗を続け、パーキングエリアに入ってタイヤ銘柄をチェックしたところでわかった。この懐かしいドライブフィールは、ラダーフレーム構造やホイールベースの短さだけが理由ではなくて、ゴツいブロックのマッドテレインタイヤのせいでもあるのだ。つまりビブラムソールの登山靴でマラソンを走るようなものだから、重かったりゴワゴワするのは当然だ。そのかわり、ゲリラ豪雨もなごり雪も、涼しい顔でやり過ごすことができる(はず)。
段と取り回しと価格を考えればは110より90の魅力が勝る
ディフェンダー 90 Sに乗り換えると、肩の力がすっと抜けるのを感じる。いままで、こんなに気を張って、力を込めて運転していたのか・・・。手のひらの汗はすっかり乾き、ぬるま湯に浸かっているかのようにリラックスした気分になる。
2.0リッター直列4気筒エンジンは、ラングラーのV6みたいに刺激的な音を発するわけではないけれど、極低回転域からトルクのツキがよく、気持ちよく運転できる。乗り心地はロングホイールベース版のディフェンダー 110と遜色なく、こりゃ次のレンジローバーは大変じゃないの、と余計なお世話ながら心配になってしまう。後ろの席も大人2人には十分な広さで、後席を倒さないと荷物があまり載らないという弱点はあるにしても、大人数+大荷物で出かけることなんてほとんどない身としては、これで十分。値段と取り回しのよさを考えれば、ディフェンダー 110よりこっちのほうが魅力的に思えた。
クルマの価値とは
普通の比較テストみたいな感じでラングラーと比べれば、5回コールドゲームぐらいの大差でディフェンダーの圧勝だ。けれども、かつての取材の記憶が鮮やかに蘇ってきた。それはゲレンデヴァーゲンが新型に移行した時の某男性ファッション誌の企画で、従来型ゲレンデに乗っているファッション関係者に、新型を試乗してもらうものだった。
モデル、カメラマン、ヘアメイクなどなど、何人かの従来型ゲレンデのオーナーはクルマに興味がない人ばかりで、それが悪いわけではないけれど、ファッションの一部としてゲレンデにお乗りの方々だった。ちなみに参加者全員が、センターデフロックというものを知らなかった(内1名は、ディーラーの担当者からこのスイッチを押すと壊れるから絶対に触るなと言われたらしい)。
で、新型ゲレンデに乗っていただいて驚いた。全員が全員、「乗り心地も運転した感覚も見た目も、フツーになってつまらなくなった」という評価をくだしたのだ。えっ、静かだし乗り心地もいいしハンドルもアクセルも軽くなったし、新型のほうが絶対いいでしょ、といっても、彼らは聞く耳を持たなかった。
クルマに何を求めるか? 2台を乗り較べれば自ずと答えは出る
クルマの進化は行き着くところまで行き着いて、「ゴツゴツするほうが個性的」とか、「運転にコツがいるクルマのほうがかわいい」ということになっているのだ。
という価値観でいくと、ディフェンダー 90 Sでラグジュアリーを堪能するのもいいけれど、ほかのどんなクルマでも経験できないスリルと“運転している”感が味わえるジープ ラングラー ルビコン ソフトトップも大アリということになる。
無人島で魚を釣って、貝を拾って、火を起こして、自作するブイヤベース。グランピングリゾートでシェフが焼いてくれる神戸牛ステーキ。はたして、どっちが贅沢でしょうか?
REPORT/サトータケシ(Takeshi SATO)
PHOTO/平野 陽(Akio HIRANO)
【SPECIFICATIONS】
ジープ ラングラー ルビコン ソフトトップ
ボディサイズ:全長4320 全幅1895 全高1875mm
ホイールベース:2460mm
トレッド:前後1600mm
車両重量:1880kg
エンジン形式:V型6気筒DOHC
総排気量:3604cc
ボア×ストローク:96×83mm
最高出力:209kW(284ps)/6400rpm
最大トルク:347Nm(35.4kgm)/4100rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後リジッド
ブレーキ:前ベンチレーテッドディスク 後ディスク
タイヤ&ホイール:前後255/75R17
燃料消費率(WLTC):8.2km/L
車両本体価格:622万円
ランドローバー ディフェンダー 90 S
ボディサイズ:全長4510 全幅1995 全高1970mm
ホイールベース:2585mm
トレッド:前1700 後1685mm
車両重量:2100kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1995cc
ボア×ストローク:83×92.2mm
最高出力:221kW(300ps)/5500rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前後255/70R18
燃料消費率(WLTC):8.3km/L
車両本体価格:632万円
【問い合わせ】
ジープ・フリーコール
TEL 0120-712-812
ランドローバーコール
TEL 0120-18-5568
【関連リンク】
・ジープ 公式サイト
https://www.jeep-japan.com/
・ランドローバー 公式サイト
http://www.landrover.co.jp/