路面電車の線路をクルマは走れるの?

路面電車の写真
広島などではよく走っている

暑さが落ち着く秋は、絶好の行楽シーズンだ。そして、観光でいつもとは違う道を走ると、見慣れない光景に驚くことも少なくない。

たとえば、広島や長崎、熊本の市街地では、路面電車とクルマが同じ道路を並んで走る場面に出会うことがある。この光景を初めて見たとき、「線路の上をクルマで走ってよいのだろうか」と疑問を抱く人も少なくないだろう。

軌道

実は、この線路部分は「軌道敷」と呼ばれ、種類によって扱いが大きく異なる。「専用軌道」は道路と分離された敷地に設けられており、クルマが進入することはできない。

一方、「併用軌道」は道路の中央や路肩にレールが敷かれ、クルマと路面電車が同じ空間を共有する形式である。ただし、併用軌道であっても自由に通行できるわけではない。

道路交通法第21条により、クルマは原則として軌道敷内を通行できないと定められており、右折や横断、転回、危険回避といったやむを得ない場合のみ走行が認められるというのだ。

路面電車の写真2
軌道を渡る際には安全確認は必須である

また、鹿児島県警が公表する資料によれば、軌道敷に進入する際は必ず一時停止して安全確認をおこなうこと、軌道敷内で停車することは妨害行為となるため厳禁であることが示されている。たとえば、路面電車は停止距離が長いという特性を持つ。

時速30kmでの停止距離は約45mに達し、クルマの15mに比べて3倍に及ぶ。時速40kmになると路面電車は80m、クルマは22mであり、その差はさらに広がる。不用意に軌道敷内で停車すれば、後続の路面電車に追突される危険が極めて高い。

また、専用軌道に進入した場合は通行区分違反、併用軌道で停車して進行を妨げれば道路交通法違反となる。

都電さくらトラムの写真
都内にも気をつけるべき場所が存在する

慣れない都市の道路では信号待ちで気づかずに軌道敷に停車してしまったり、進路変更の際に路面電車の動きを妨げる例がある。観光シーズンは交通量が増え、周囲の歩行者や他のクルマに気を取られ、軌道敷の存在に気付かないこともある。また、停留所には「安全地帯」が設けられており、ここに進入することも禁止されている。

クルマで併用軌道を走る場合、右折時の位置取りにも注意が必要である。軌道敷内で路面電車と並んで停車すると妨害行為になるため、必ず軌道敷の外側で待機することが求められる。さらに、後方から路面電車が接近してきた際には、進行を妨げないよう速やかに軌道敷外へ出る必要がある。

路面電車の写真3
交通事情を理解し、不用意に軌道敷を走らない意識が、ドライバーには必要である。

停留所付近では歩行者の横断も多いため、徐行を徹底しなければならいし、軌道敷内での追い越しは原則として禁止である。

そして、前方に停車中のクルマがあっても、安易に路面電車の線路側へはみ出して抜けることは危険であり、違反の対象となる。仮に、旅行中違反で取り締まりを受ければ予定が狂い、せっかくの時間が台無しになる。現地の交通事情を理解し、軌道敷を不用意に走らない意識を持つことが、安心して観光を楽しむために欠かせない。

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路面電車の線路は専用軌道と併用軌道で扱いが異なる。旅行シーズンには特に、慣れない道路での違反や事故を防ぐための配慮が求められる。