スカイラインR30後期型が「鉄仮面」と呼ばれたワケ

1983年、スカイラインR30の後期型が登場した。そのうち、RS系グレードに採用されたグリルレスのフロントマスクが「鉄仮面」と呼ばれるようになった。
従来のスカイラインが持っていた「走りのイメージ」を継承しつつ、無機質かつ未来的な雰囲気をまとった鉄仮面は、登場とともに若者を中心に話題となり、瞬く間にカルト的な人気を博した。
しかし、この車の価値はデザインの奇抜さだけではない。そこには、1980年代という時代の空気や文化の変化が色濃く投影されていた。
テクノロジーと都市化が進む時代背景を象徴するモデル
鉄仮面が登場した1983年、日本はバブル経済へと向かう直前の活気ある時代にあった。高度経済成長期を経て、家電や自動車はすでに一般家庭にも普及し、「モノを持つこと」そのものよりも、「どんなモノを持つか」「自分らしさをどう表現するか」といった価値観が重視され始めていた。
この時代、日本は“技術大国ニッポン”としての自信に満ちあふれており、街には新しいビルが建ち、最先端の家電や自動車のCMが流れていた。ウォークマンやCDプレイヤー、ファミコンなどが登場したのもこの頃で、それまでとは違った楽しみ方が広まった時代だ。
そんな「ハイテク」や「近未来的な感性」がもてはやされた時代に登場したのが、鉄仮面スカイラインだった。その無機質でスタイリッシュなフロントマスクは、まさに当時の空気感を体現していた。さらに人気ドラマ『西部警察』の劇中車として登場したことで、その名を一層広めることとなった。
それまでにはなかった、都会的でクールな印象を放つフロントフェイス
鉄仮面という異名の由来にもなったフロントフェイスは、グリルを廃したブラックアウトマスクに、角型4灯を沈み込ませた異様なデザイン。それまでの車は丸目ライトやメッキグリルなど、どこか“顔”のような表情があるデザインが主流だったが、鉄仮面はむしろ「顔を消した」存在だった。
それがかえって新しく、都会的でクールな印象を与えた。当時の若者たちは、「変わってるけど目立つ」「誰ともかぶらない」という鉄仮面の個性に魅力を感じたのだ。あえて感情を排したようなこのデザインは、まさに1980年代の先端的センスを体現していた。
史上最強のスカイラインと謳われた鉄仮面は、外見だけではなく走りも本格派

鉄仮面は見た目だけでなく、中身も本格派だった。なかでも注目されたのが、FJ20ET型 2.0L 直列4気筒DOHCターボエンジンを搭載した「2000ターボRS-Xインタークーラー」グレードだ。最高出力205馬力という当時としては驚異的なスペックを誇り、歴代スカイラインを凌駕する性能から「史上最強のスカイライン」と呼ばれた。
さらにモータースポーツでも活躍。グループAやスーパーシルエットレースでの戦いを見据えたホモロゲーションモデルとして開発され、サーキットでその実力を証明した。街中でも、レースシーンでも速さを発揮できる鉄仮面は、まさに「走りの象徴」として存在感を放った。
未来を先取りした存在へ、スカイライン黄金期への布石

鉄仮面スカイラインは、その後のR31、そして名車と名高いR32型へと続くスカイライン黄金期の先駆けとなったモデルでもある。都市的な洗練されたデザイン、力強くも制御されたパワー、そして冷たいマスクの奥に宿る走りへの情熱は1980年代の日本が持っていた価値観の変化を表現していた。
あれから40年以上が経った今でも、鉄仮面は旧車ファンの間で高い人気を誇る。レストアやカスタムのベース車両としても注目され、今なお公道やイベントでその姿を見ることができる。
鉄仮面は、冷たいマスクの奥に、1980年代の日本の都市文化、若者たちの夢、そして走ることへの純粋な欲求を詰め込んだ、まさに動く時代の象徴だったのだ。